会計士の母と、ナイジェリア地域のイボ人(アフリカ大陸西部に住む民族)を研究する学者の父の間に生まれ、彼自身も一時期はナイジェリアに住んでいたという、アメリカ中西部の小都市、ウィスコンシン・ラピッズ出身のシンガー・ソングライター、ジデーナことジデーナ・セオドア・モビソン。

アメリカに戻った後は、同じハイスクールに通う友人とラップ・グループ、ブラック・スペーズを結成。同グループでは、学校の卒業制作としてアルバム1枚を録音している。同校を卒業した後、彼はアイビー・リーグの一つであるスタンフォード大学へと進む。大学時代は、リチュアリスティック・アート(直訳すると「儀式主義の芸術」だが、おそらく宗教などの特定の文化や制度と結びついた形式の芸術のことだと思われる)を専攻する一方で、サウンド・エンジニアリングなどの制作技術を習得している。卒業後は、教師の仕事をしながら本格的な音楽活動を開始。そして、2012年にジャネル・モネイが設立したワンダーランド・レコードと契約する。

2015年にデビュー・シングル『Classic Man』をリリースすると、全米R&Bチャートの6位、総合チャートの22位を獲得。デビュー曲ながら、ダブル・プラチナ・ディスクを獲得する大ヒットになった。また、同年には初のEP『Wondaland Presents:The Eephus』を発売。こちらもR&Bチャートの5位、総合チャートの22位と、R&Bシンガーのデビュー作としては異例のヒットを記録した。そして、同年のソウル・トレイン・アワードやグラミー賞では、複数の部門にノミネート。このうち、ソウル・トレイン・アワードでは新人賞を獲得している。

今回のアルバムは、前作から約2年の間隔を経て発表された、彼にとって初めてのフル・アルバム。 前作の発売後に発表されたシングルの収録曲のうち、”Knickers”と”Extraordinaire”を除く4曲のほか、ナナ・クワベナやロマン・ジャンアーサーといったワンダーランド所属のアーティストを中心に、多くの人気ミュージシャンやプロデューサーが参加した新曲を収録。華々しいデビューを飾った彼にふさわしい、豪華な作品に仕上げている。

さて、収録曲に目を向けると、アルバムの2曲目に収められている”Chief Don't Run”が存在感を発揮している。ナナ・クワベナがプロデュースしたトラックはカニエ・ウエストの”Jisus Walk”を彷彿させる、重いドラムとベースの上に、ゴスペル・クワイアっぽい荘厳なコーラスが乗っかったもの。このビートの上で、カニエ・ウエストの近作やかつてのエイコンを彷彿させる、ラップのようなヴォーカルを聴かせるジデーナが、重々しい伴奏の曲を聴きやすいものにしている。ゲスト・シンガーにロマン・ジャンアーサーの名前が入っている点も見逃せない。

これに対し、彼自身がプロデュースを担当した”Bambi”は、アフリカの民謡っぽいメロディを引用したトラックが、エイコンっぽくも聴こえる曲。ほのぼのとした雰囲気のトラックは、彼のふくよかで柔らかく、温かい歌声との相性が抜群に良い。ナイジェリアに住み、アメリカの大学でアートを学んできた彼にしか作れない、視野の広さと引用の巧みさが光るミディアム・ナンバーだ。

一方、2015年にシングルで発売された”Long Live The Chief”は、ウェイルやライムフェストなどの作品を手掛けている、ワシントンD.C.を拠点に活動するプロダクション・クルー、ベスト・ケプト・シークレットが制作した楽曲。ブリブリと唸りを上げるシンセ・ベースがキモのトラックに乗せて、荒々しいラップを聴かせるヒップホップ・ナンバーだ。ワイルドな声と、言葉数を絞って一つ一つのフレーズをじっくり聴かせるライムは、彼が敬愛するKRSワンのスタイルを踏襲したもの。80年代から続くラップの手法と、現代のトレンドを取り込んだトラックが融合した、懐かしさと新鮮さが同居した楽曲だ。

そして、R&Bが好きな人にはぜひ聴いてほしいのが、ロマン・ジャンアーサーがペンを執った”Little Bit More”だ。レゲトンにも似たコミカルなビートが面白いアフリカのポピュラー・ミュージック、ハイライフを取り入れたトラックの上で、柔らかい歌声を響かせたダンス・ナンバーだ。シンセサイザーを多用したアップ・テンポの曲にもかかわらず、どこか牧歌的な音楽に聴こえるのは、パーカッションを織り交ぜた華やかなリズムと、彼の優しい歌声のおかげだろうか。

本作も、既発のシングルやEP同様、アメリカのヒップホップやR&Bに、アフリカや中南米のポップスの要素を盛り込んだ、軽妙で親しみやすい曲が目立っている。先鋭的で通好みのフレーズを織り交ぜながら、色々な人に親しまれるポップな作品に仕上がっているのは、キャッチーなメロディを生み出す彼のセンスと、親しみやすい歌声のおかげだと思う。

様々なリスナーを引き付ける大衆性と、コアな音楽好きを納得させる緻密さや斬新さを兼ね備えた、親しみやすく奥深いアルバム。彼が所属するレーベルのボス、ジャネル・モネイのような音楽が好きな人は是非きいて欲しい。

Producer
Fear & Fancy, Jidenna, Nana Kwabena, The Wondaland Arts Society

Track List
1. A Bull's Tale
2. Chief Don't Run feat. Roman GianArthur
3. Trampoline
4. Bambi
5. Helicopters / Beware
6. Long Live The Chief
7. 2 Pointt
8. The Let Out feat. Nana Kwabena
9. Safari feat. Janelle Monáe, Nana Kwabena, St. Beauty
10. Adaora
11. Little Bit More
12. Some Kind Of Way
13. White N****s
14. Bully Of The Earth





Chief
Jidenna
Wondaland Records
2017-02-17