92年にスリーピー・ブラウンことパトリック・ブラウン、リコ・ウェイド、レイ・マーレイの3人によって結成されたプロダクション・チーム、オーガナイズド・ノイズ。アトランタを拠点に、アウトキャストやグッディー・モブのメンバーとヒップホップ・クルー、ダンジョン・ファミリーとして活動する一方、プロデューサーとして多くの楽曲を制作。TLCの”Waterfalls”やアン・ヴォーグの”Don't Let Go (Love)”、アース・ウィンド&ファイアの”This Is How I Feel”など、多くのヒット曲を世に送り出していった。

また、1995年には彼ら自身もメンバーに名を連ねるヴォーカル・グループ、ソサエティ・オブ・ソウルの名義でアルバム『Brainchild』を発表。60年代のソウル・ミュージックを思い起こさせる泥臭いサウンドを、サンプリングや電子楽器を駆使したヒップホップの技術で現代に蘇らせた作品として、多くのブラック・ミュージック・ファンの記憶に残った。

本作は、オーガナイズド・ノイズの名義では初めてのアルバムとなる7曲入りのEP。ダンジョン・ファミリーやソサエティ・オブ・ソウルとして、傑作を残してきた彼らだが、プロダクション名義での作品は、1996年にリリースされた、同名の映画のサウンドトラックに収録されている”Set It Off”以来、実に21年ぶりとなる。

このアルバムでは、元グッディ・モブのシーロー・グリーンやアウトキャストのビッグ・ボーイといったダンジョン・ファミリーのメンバーのほか、プロデュースやバック・コーラスなどで一緒に仕事をすることが多い女性シンガーのジョイ、アトランタに近いカレッジ・パーク出身のラッパー、2チェインズなど、新旧様々なミュージシャンが集った、豪華なヴォーカル作品になっている。

本作の1曲目に収められている”Anybody out There”は、ジョイと、アウトキャストの”Morris Brown”などに携わってる、男性シンガーのスカーをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。シンセサイザーを使った跳ねるようなトラック、いわゆるトラップ・サウンドの上で、ジョイがラップっぽい歌を聴かせている。男女二人のシンガーが絡む曲では、女性がフックを担当することが多い中、スカーがサビを担当しているのは面白い。

続く”We the Ones”は、ビッグ・ボーイにシーロー・グリーン、ビッグ・ルーベとダンジョン・ファミリーの面々が揃った楽曲。ハンド・クラップを交えた軽妙なビートと、重厚なシンセサイザーの音色を使った伴奏が、アウトキャストやグッディ・モブのヒット曲を連想させるアップ・ナンバーだ。メロディを口ずさむように言葉を繋ぐ、ダンジョン・ファミリー流のラップが思う存分堪能できる。彼らのスタイルは、デビューから20年以上経った今も色褪せないようだ。

一方、ジョージア州出身の気鋭のラッパー、2チェインズとジョイが参加した本作からのリード・シングル”Kush”は、1曲目の”Anybody out There”と同様、トラップ・ビートを取り入れたミディアム・ナンバー。複数のトラックを混ぜ合わせた変則ビートに乗って、荒々しい声でリズミカルなライムを叩き込む2チェインズと、妖艶な歌声を響かせるジョイのコンビネーションが素晴らしい。新しいサウンドを取り入れつつ、彼らの持ち味である泥臭く温かいサウンドに仕上げている点は流石だと思う。

そして、本作の隠れた目玉が、スリーピー・ブラウンがマイクを握った”Awesome Lovin'”だ。70年代のアイズレー・ブラザーズやワンウェイを彷彿させる、アナログ・シンセサイザーの音色を使った、モダンで柔らかい伴奏の上で、流麗なメロディを色っぽいファルセットを交えつつじっくりと歌ったバラード。間奏で流れるワイルドなギターの演奏が、アーニー・アイズレーっぽくて格好良い。彼らのルーツである、往年のソウル・ミュージックを現代の音楽として再構築した、ロマンティックな楽曲だ。

今回の作品は、ダンジョン・ファミリー名義の録音やプロデュース作品で見せた、生演奏のような温かい音色と、小技を交えた複雑なトラック、歌とラップを織り交ぜた、軽妙なフロウが揃った、絶頂期の彼らの音楽性を思い起こさせるアルバムになっている。作品の随所で、2010年以降のトレンドを取り込みつつ、自分達の作風に落とし込んだ楽曲は、ヒット曲を量産していた時代の作品を知る人には懐かしく、そうでない人には新鮮に映ると思う。

時代の変化に適応しつつ、自身の持ち味を存分に発揮した、アトランタを代表する名プロダクション・チームらしい密度の濃い作品。この勢いで、フル・アルバムも出してほしいなあ。

Track List
1. Anybody out There feat. Joi & Scar
2. We the Ones feat. Big Boi, CeeLo Green, Sleepy Brown & Big Rube
3. Chemtrails feat. Jimmy Brown & Sleepy Brown
4. Why Can't We feat. Sleepy Brown
5. Kush feat. 2 Chainz & Joi
6. Awesome Lovin' feat. Sleepy Brown
7. The Art of Organized Noize