カナダからアメリカに渡った牧師の父を持ち、2000年代半ばから、キーボーディストやソングライターとして活動している、ルイジアナ州ニューオーリンズ出身のシンガー・ソングライター、PJモートンことポール・モートンJr.。20代半ばの若さで、フェイス・エヴァンスの『A Faithful Christmas』や、モニカの『The Makings Of Me』にキーボーディストとして参加し、2010年からは、共通の友人であるアダム・ブラックストーンを介してマルーン5のツアーに帯同(後に正式加入)。それ以外にも、ロバート・グラスパーの『Radio 2』にソングライターとして携わるなど、ジャンルを超えた幅広い活動を見せてきた。

また、2005年に初のソロ作品『Emotions』を発表すると、その後は2016年までに多くのフル・アルバムやミックステープ、EPを発表。2010以降は、トラップ・ミュージックやEDMのような、コンピューターをフル活用した音楽がヒット・チャートを席巻するなか、人間の手による演奏と丁寧な歌唱に拘った、昔ながらのソウル・ミュージックのスタイルで、ソウル・ファンだけでなく、ロックやブルースなどのヴィンテージ音楽を愛する人も引き付けてきた。

今回のアルバムは、2013年の『New Orleans』から、約4年ぶりとなる通算5枚目のフル・アルバム。 といっても、この間にもミックステープやEPを発表し、マルーン5の一員としても、新作やツアーで多忙な日々を過ごしていたので、「久しぶりの新作」という印象はほとんどない。本作では、前作を配給していたユニヴァーサル系列のヤング・マネー、リパブリックを離れ、自身のレーベル、モートン・ミュージックから発売している。

アルバムの1曲目に入っている”First Began”は、彼のキーボードと歌を思う存分堪能できる、弾き語り形式のミディアム・バラード。敢えて爪弾くように演奏することで、繊細で滑らかなテナー・ヴォイスの良さを強調したアレンジが心憎い。余談だが、鍵盤楽器としなやかなテナーの組み合わせは、前作で共演しているスティーヴィー・ワンダーに少し似ている。

一方、それに続く本作の看板的な楽曲”Claustrophobic”は、ニューオーリンズ出身のラッパー、ペルをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。太い音のシンセ・ベースや軽妙な音色のドラムを使った伴奏が、アース・ウィンド&ファイアの”That’s The Way Of The World”を思い起こさせる。高音が魅力のスマートなヴォーカルは、フィリップ・ベイリーにもよく似ているから、このタイプの曲と相性がいいのは当然かもしれない。ペルのパフォーマンスも粗削りだけどいい味を出している。

そして、本作の中でも異色なのが、有名なゴスペル曲のリメイク”Everything's Gonna Be Alright”だ。2016年のアルバム『In My Mind』が、大ヒットになったことも記憶に新しいBJザ・シカゴ・キッドと、アンソニー・ハミルトンの作品を脇から支える3人組ヴォーカル・グループ、ハミルトンズを迎えたこの曲は、厳かさと明るく楽しい雰囲気を両立した、ゴスペルの魅力を忠実に再現した作品。PJの繊細なヴォーカルとBJの軽妙な歌唱、それにハミルトンズの太く泥臭い歌声が混ざり合った後半部分は、各人の個性が合わさって色々な表情を映し出す、歌の面白さを再認識させてくれる。

また、本作の最後を締める”How Deep Is Your Love”は、ビージーズの77年のヒット曲のカヴァー。 原曲に比べると、跳ねるような伴奏が特徴的な、ファンク色の強いアレンジだ。しかし、主役の声質が、高音寄りの細くしなやかなビージーズに近いもののおかげで、原曲持つ、洗練されたイメージは崩されず、楽曲全体としてはカーティス・メイフィールドの”Trippin’ Out”のような、スタイリッシュなミディアム・ナンバーに仕上がっている。

今回のアルバムは、ソウル・ミュージックやR&B、ニューオーリンズへの深い造詣と、世界屈指の人気バンドで吸収した、様々な年代、国の人の心を掴むポップ・センスが融合した面白い作品だと思う。それを端的に示しているのが、ゴスペルの名曲や往年のポップス・ソングを現代的なR&Bにリメイクしたカヴァーで、両者で見せる演奏は、原曲を知らない若い人にクラシックスの魅力を伝えるだけでなく、原曲をよく知る世代にも、若い世代のミュージシャン(といっても、録音時点で30代後半だが)による新鮮な解釈と、現代の黒人音楽の面白さを伝えていると思う。

地道に鍛え上げた歌や演奏の技術と、自身の名義やバンド活動、外部のミュージシャンとの仕事で培われた、世界中のリスナーを引き付けるポップ・センスが同居した、シンプルなようで味わい深い作品。ソウル・ミュージックを古臭いと思う人や、最近のロックやポップスについていけないと思っている人にこそ聴いてほしい。個人的な思いをいえば、配信版だけでなく、レコードでも聴きたいなあ。

Producer
PJ Morton

Track List
1. First Began
2. Claustrophobic feat. Pell
3. Sticking to My Guns
4. Religion
5. Alright
6. Everything's Gonna Be Alright feat. BJ the Chicago Kid and The HamilTones
7. They Gon' Wanna Come
8. Go Thru Your Phone
9. How Deep Is Your Love



Gumbo
Morton Records
2017-04-21