2006年に5人組のヴォーカル・グループ、ビッグ・バンの一員として、グループ名を冠したシングル『Big Bang』で韓国のYGエンターテイメントからデビューした、G-ドラゴンことコン・ジヨン。同年に発表したファースト・アルバム『Big Bang』が韓国のヒット・チャートで1位を獲得すると、同国を代表する人気グループの一つになった。
そんな彼らの転機になったのは、2012年に発表したシングル”Fantastic Baby”。EDMとR&Bやヒップホップを組み合わせたサウンドと、個性的な映像が注目を集め、男性ヴォーカル・グループのMVとしては史上初めてYouTubeでの再生回数が2億回を突破。レーベル・メイトであるPSYの”江南スタイル”とともに、韓国のポップスが注目を集めるきっかけを作った。また、日本での3年連続のドーム・ツアーやアジア人初のウェンブリー・アリーナ公演など、ライブも精力的に行い。2016年と2017年には、フォーブス誌『最も稼ぐセレブリティ トップ100』で、アジア人ミュージシャンで唯一ランク・イン。2017年には同誌が選ぶ「30歳以下の重要人物30人」に、欧米以外の地域出身のミュージシャンでは唯一選ばれるなど、名実ともにアジアを代表するアーティストに上り詰めた(余談だが、彼ら以外で選ばれたミュージシャンには、ウィークエンド、リル・ヨッティ、ブライソン・ティラー、彼らと同じYGに所属するタブロとのコラボーレーションも記憶に新しいガラントなどがいる)。
G-ドラゴンは、パフォーマンスだけでなく、楽曲制作やライブの演出にも携わっている、同グループの中心人物。”Fantastic Baby”や”Bang Bang Bang”等のヒット曲を手掛ける一方、2009年には初のソロ・アルバム『Heartbreaker』を発表。また、2013年には2枚目のアルバム『Coup d'Etat』をリリース(それ以外に、メンバーのT.O.P.とのコラボレーション作品を1枚、SOLとのコラボレーション作品を1枚発売している)。商業的に一定の成功を収めただけでなく、アジア出身のミュージシャンによるヒップホップ作品として、一部の音楽専門サイトから批評された珍しい例となった。
今回の作品は、自身名義では4年ぶりの新作となる5曲入りのEP。これまでのアルバム同様、彼自身がソングライティングに関っている。その一方、制作にはテディ・パクやストーニー・スカンク等の、YGエンターテイメント所属のクリエイターや、フランク・デュークスやマーダ・ビーツ、ブライアン・リーといったアメリカやカナダで活躍するプロデューサーが参加。彼が傾倒しているアメリカのR&Bやヒップホップの手法を積極的に取り入れた作品に仕上げている。
アルバムの1曲目に入っている”Middle-Fingers-Up”は、彼の作品に初参加の24がトラック制作を担当。グウェン・ステファニなどのポップ・シンガーが使いそうな明るく華やかなトラックと、ジヨンのコミカルなラップが印象的な曲。おもちゃ箱をひっくり返したようなにぎやかなトラックは、彼の楽曲では珍しいが、しっかりと自分のものにしている。ポップ・スターとしての実力の高さを感じさせる佳曲だ。
これに続く”Bullshit”は、テディ・パクやフューチャー・バウンスなどが参加。リル・ジョンなどアルバムでよく耳にするクランクや、フューチャーやT.I.などの作品で使われるトラップのビートのエッセンスを取り入れた、ワイルドなヒップホップ・ナンバー。アメリカの音楽をしっかりと研究して、自分の声質やスタイルに合わせてアレンジする技術が光っている。色々なインタビューの場で、アメリカの黒人音楽への憧憬を口にしてきた彼らしく、しっかりとアメリカの音楽をキャッチアップしている。
そして、”Fantastic Baby”や”Bang Bang Bang”のプロデューサーであるテディ・パクが、アレンジにもかかわっている”Superstar”は、ドレイクの『More Life』を意識したような、陽気で軽妙なトラックが格好良い。カリプソのような明るいビートに合わせて、歌とラップを使い分ける姿は、ドレイクやパーティネクストドアのようなOVO所属のミュージシャンの楽曲を連想させる曲だ。歌とラップ、両方を高いレベルでこなせる彼の持ち味が発揮されている。
だが、本作からシングル・カットされたのは、意外にも唯一のバラード”Untitled 2014”だ。チョイス37などが制作に携わったこの曲は、ピアノの伴奏をバックにしっとりと歌う、日本や韓国のポップスによく見るタイプの曲。色々な国の幅広い年代から受け入れられてきた彼だけあって、こういう曲も卒なくこなしている。
しかし、本作の目玉はなんといっても”Divina Commedia”だろう。ドレイクやトラヴィス・スコット、元ワン・ダイレクションのゼインなどの作品を手掛けてきた、フランク・デュークスやマーダ・ビーツと共作したこの曲は、ドレイクやパーティネクストドアのアルバムに入っていそうな。音数の少ないトラックと、歌とラップを織り交ぜたヴォーカルが印象的な曲。声質が軽く、歌とラップを使い分ける技術を持った彼と、このタイプの曲の相性は抜群だと思う。
今回のEPも、これまでの作品同様、彼が目標としている、アメリカのヒップホップやR&Bを意識した曲が並んでいる。だが、本作で大きく変わったのは、ミッシー・エリオットとコラボレーションした”Niliria”やディプロが手掛けた”Coup d'Etat”など、変則ビートに多くの言葉を詰め込むスタイルのアーティストではなく、フランク・デュークスの作品ような、言葉数を絞って、丁寧に歌やラップを聴かせた曲にシフトした点だと思う。過去のインタビューでも「アメリカの音楽を取り入れながら、自分に合わせてアレンジしている(抜粋)」と述べてきた彼だけあって、これまでの作品でも、新しい音を取り入れるだけでなく、自分のスタイルと相性の良いサウンドを選別したり、自分向けにアレンジしたりしてきたが、今回のアルバムはその傾向が顕著になっていると思う。
また、収録曲の大半を手掛ける韓国のプロデューサーの作品が、アメリカのプロデューサーの作品のそれに近づいている点も見逃せない。もともと、欧米のヒップホップ、R&Bに傾倒していた人が多いYGエンターテイメントだったが、「ビック・バンのようなセルフ・プロデュースができるグループ」を掲げ、アメリカのR&Bを直訳したスタイルで世界的にブレイクしたBTSに触発されたかのように、アメリカの音楽を大胆に取り込んだ点は面白い。
動画投稿サイトや、サブスクリプション・サービスが普及し、欧米のポップスとアジアのポップスが同じ土俵に並べられるようになった2017年らしい作品。テイラー・スウィフトやジャスティン・ビーバーと並べても遜色のない、本格的なポピュラー・ミュージックだと思う。
Track List
1. Middle-Fingers-Up
2. Bullshit
3. Superstar
4. Untitled 2014
5. Divina Commedia
そんな彼らの転機になったのは、2012年に発表したシングル”Fantastic Baby”。EDMとR&Bやヒップホップを組み合わせたサウンドと、個性的な映像が注目を集め、男性ヴォーカル・グループのMVとしては史上初めてYouTubeでの再生回数が2億回を突破。レーベル・メイトであるPSYの”江南スタイル”とともに、韓国のポップスが注目を集めるきっかけを作った。また、日本での3年連続のドーム・ツアーやアジア人初のウェンブリー・アリーナ公演など、ライブも精力的に行い。2016年と2017年には、フォーブス誌『最も稼ぐセレブリティ トップ100』で、アジア人ミュージシャンで唯一ランク・イン。2017年には同誌が選ぶ「30歳以下の重要人物30人」に、欧米以外の地域出身のミュージシャンでは唯一選ばれるなど、名実ともにアジアを代表するアーティストに上り詰めた(余談だが、彼ら以外で選ばれたミュージシャンには、ウィークエンド、リル・ヨッティ、ブライソン・ティラー、彼らと同じYGに所属するタブロとのコラボーレーションも記憶に新しいガラントなどがいる)。
G-ドラゴンは、パフォーマンスだけでなく、楽曲制作やライブの演出にも携わっている、同グループの中心人物。”Fantastic Baby”や”Bang Bang Bang”等のヒット曲を手掛ける一方、2009年には初のソロ・アルバム『Heartbreaker』を発表。また、2013年には2枚目のアルバム『Coup d'Etat』をリリース(それ以外に、メンバーのT.O.P.とのコラボレーション作品を1枚、SOLとのコラボレーション作品を1枚発売している)。商業的に一定の成功を収めただけでなく、アジア出身のミュージシャンによるヒップホップ作品として、一部の音楽専門サイトから批評された珍しい例となった。
今回の作品は、自身名義では4年ぶりの新作となる5曲入りのEP。これまでのアルバム同様、彼自身がソングライティングに関っている。その一方、制作にはテディ・パクやストーニー・スカンク等の、YGエンターテイメント所属のクリエイターや、フランク・デュークスやマーダ・ビーツ、ブライアン・リーといったアメリカやカナダで活躍するプロデューサーが参加。彼が傾倒しているアメリカのR&Bやヒップホップの手法を積極的に取り入れた作品に仕上げている。
アルバムの1曲目に入っている”Middle-Fingers-Up”は、彼の作品に初参加の24がトラック制作を担当。グウェン・ステファニなどのポップ・シンガーが使いそうな明るく華やかなトラックと、ジヨンのコミカルなラップが印象的な曲。おもちゃ箱をひっくり返したようなにぎやかなトラックは、彼の楽曲では珍しいが、しっかりと自分のものにしている。ポップ・スターとしての実力の高さを感じさせる佳曲だ。
これに続く”Bullshit”は、テディ・パクやフューチャー・バウンスなどが参加。リル・ジョンなどアルバムでよく耳にするクランクや、フューチャーやT.I.などの作品で使われるトラップのビートのエッセンスを取り入れた、ワイルドなヒップホップ・ナンバー。アメリカの音楽をしっかりと研究して、自分の声質やスタイルに合わせてアレンジする技術が光っている。色々なインタビューの場で、アメリカの黒人音楽への憧憬を口にしてきた彼らしく、しっかりとアメリカの音楽をキャッチアップしている。
そして、”Fantastic Baby”や”Bang Bang Bang”のプロデューサーであるテディ・パクが、アレンジにもかかわっている”Superstar”は、ドレイクの『More Life』を意識したような、陽気で軽妙なトラックが格好良い。カリプソのような明るいビートに合わせて、歌とラップを使い分ける姿は、ドレイクやパーティネクストドアのようなOVO所属のミュージシャンの楽曲を連想させる曲だ。歌とラップ、両方を高いレベルでこなせる彼の持ち味が発揮されている。
だが、本作からシングル・カットされたのは、意外にも唯一のバラード”Untitled 2014”だ。チョイス37などが制作に携わったこの曲は、ピアノの伴奏をバックにしっとりと歌う、日本や韓国のポップスによく見るタイプの曲。色々な国の幅広い年代から受け入れられてきた彼だけあって、こういう曲も卒なくこなしている。
しかし、本作の目玉はなんといっても”Divina Commedia”だろう。ドレイクやトラヴィス・スコット、元ワン・ダイレクションのゼインなどの作品を手掛けてきた、フランク・デュークスやマーダ・ビーツと共作したこの曲は、ドレイクやパーティネクストドアのアルバムに入っていそうな。音数の少ないトラックと、歌とラップを織り交ぜたヴォーカルが印象的な曲。声質が軽く、歌とラップを使い分ける技術を持った彼と、このタイプの曲の相性は抜群だと思う。
今回のEPも、これまでの作品同様、彼が目標としている、アメリカのヒップホップやR&Bを意識した曲が並んでいる。だが、本作で大きく変わったのは、ミッシー・エリオットとコラボレーションした”Niliria”やディプロが手掛けた”Coup d'Etat”など、変則ビートに多くの言葉を詰め込むスタイルのアーティストではなく、フランク・デュークスの作品ような、言葉数を絞って、丁寧に歌やラップを聴かせた曲にシフトした点だと思う。過去のインタビューでも「アメリカの音楽を取り入れながら、自分に合わせてアレンジしている(抜粋)」と述べてきた彼だけあって、これまでの作品でも、新しい音を取り入れるだけでなく、自分のスタイルと相性の良いサウンドを選別したり、自分向けにアレンジしたりしてきたが、今回のアルバムはその傾向が顕著になっていると思う。
また、収録曲の大半を手掛ける韓国のプロデューサーの作品が、アメリカのプロデューサーの作品のそれに近づいている点も見逃せない。もともと、欧米のヒップホップ、R&Bに傾倒していた人が多いYGエンターテイメントだったが、「ビック・バンのようなセルフ・プロデュースができるグループ」を掲げ、アメリカのR&Bを直訳したスタイルで世界的にブレイクしたBTSに触発されたかのように、アメリカの音楽を大胆に取り込んだ点は面白い。
動画投稿サイトや、サブスクリプション・サービスが普及し、欧米のポップスとアジアのポップスが同じ土俵に並べられるようになった2017年らしい作品。テイラー・スウィフトやジャスティン・ビーバーと並べても遜色のない、本格的なポピュラー・ミュージックだと思う。
Track List
1. Middle-Fingers-Up
2. Bullshit
3. Superstar
4. Untitled 2014
5. Divina Commedia
G-DRAGON
YG entertainment
2017