ドレイクパーティネクストドアといった人気アーティストが所属し、世界中の音楽ファンの関心をカナダに向けさせた、トロントに拠点を置くOVOサウンド。彼らのほかにも、ロイ・ウッズやマジッド・ジョーダンなど、実力に定評のある若手を数多く擁する同レーベルが、新たに送り出したのがトロント出身のシンガー、プラザだ。

6月10日のラジオ番組で契約を発表。その二日後にデビュー作『Shadow』を発表した彼は、2016年2月に契約したdvsn以来の新人。本名や年齢など、細かい情報は不明だが、声やアーティスト写真を見る限り、かなり若い男性シンガーのようだ。

このアルバムは、彼のメジャー・デビュー作となる5曲入りのEP。2016年に自主制作で発表したEP『One』以来となる新作で、前作同様、彼の中性的で美しいテナーが堪能できるR&B作品になっている。

1曲目に収められている”Karma”は、ピアノにもオルゴールにも似ている、切ない音色を使った伴奏が印象的なミディアム・バラード。繊細なテナー・ヴォイスが楽曲の物悲しい雰囲気を強調している。甘酸っぱいヴォーカルはテヴィン・キャンベルにも似ているし、ファルセットはマックスウェルっぽくも聴こえる。また、シンセサイザーを使ってヒップホップの要素を盛り込んだトラックはレーベルの先輩、パーティネクストドアを彷彿させる。デビュー作の1曲目にふさわしい、初々しい歌唱が魅力的だ。

続く”Personal”は、ビートを強調したトラックと、中音域を多用した大人っぽいヴォーカルが素敵なミディアム・ナンバー。コンピューターを使って作った、ヒップホップのビートとシンセサイザーの伴奏を組み合わせたトラックはトレイ・ソングスなどの楽曲に、爽やかな中音域を多用したヴォーカルはソーモに少し似ている。

そして、3曲目の”Over”は”Personal”同様、ヒップホップ色の強いトラックが印象的なミディアム。シンセサイザーの音を重ねた上物は、シャーデーなどの作品を思い起こさせる神秘的なものだ。硬い声質でラップをするように歌う姿は、アンダーソン・パックに通じるものがある。

また、”Run This”はヒップホップ色の強いトラックだが、ファルセットを多用したロマンティックなヴォーカルが光るミディアム・バラード。柔らかい声で切々と歌う姿はBJザ・シカゴ・キッドやスモーキー・ロビンソンに通じるものがある。ポップで聴きやすいが、切ない雰囲気も醸し出している素敵な曲だ。

そして、アルバムの最後を飾る”Love You Again”は、重いビートと物悲しい雰囲気のメロディの組み合わせが印象的なミディアム。性別は違うが神秘的で繊細なヴォーカルはインターネットのシドにも似ている。メロディを丁寧に歌う姿が光る曲だ。

今回のEPを聴く限り、彼はドレイクやパーティネクストドアのような、歌とラップを使い分ける人ではなく、ロイ・ウッズのような歌だけで勝負していくアーティストのようだ。年齢などはわからないが、若さ溢れる爽やかな歌声と、色々な表情を見せる歌唱力は、スモーキー・ロビンソンやマイケル・ジャクソンにも通じる稀有なものを感じさせる。また、トラックは奇抜なものが少なくシンプルで、彼の歌唱力をアピールするのに一役買っている。ドレイクやパーティネクストドアを聴いた時の新鮮さと、トレイ・ソングスやエリック・ベネイのような本格的なヴォーカルを楽しめる本作は、歌とラップを使い分けるアーティストが増えた現代では、とても新しい音楽に聴こえる。

ラップと歌を使い分けるスタイルで、世界中のミュージシャンに新しい表現手法を提示したドレイクとは正反対のアプローチで、音楽の面白さを提案した佳作。次はどんな曲を聴かせてくれるのか、今から楽しみな気鋭の新人だ。

Track List
1. Karma
2. Personal
3. Over
4. Run This
5. Love You Again





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OVO Sound/Warner Bros.
2017-06-12