1992年、ニュー・ジャック・スウィングを取り込んだダイナミックなサウンドと、個性的な歌声を持つT-ボスとチリのヴォーカル、そして、レフト・アイのエネルギッシュなラップが一つの音楽の中で炸裂したダンス・ナンバー”Ain't 2 Proud 2 Beg”で、華々しいデビューを飾り、続く”Baby-Baby-Baby”では一転、ロマンティックなバラードを披露してR&Bチャートを制覇した、T-ボス、レフト・アイ、チリによるアトランタ発の3人組ガールズ・グループ、TLC。

上の2曲を含むデビュー・アルバム『Ooooooohhh... On the TLC Tip』が、アメリカ国内だけで400万枚以上のセールスを上げ、SWVやアン・ヴォーグと並ぶアメリカを代表するガールズ・グループの一つになった彼女らは、94年に2枚目のアルバム『CrazySexyCool』を発表。同郷のプロダクション・チーム、オーガナイズド・ノイズが制作した”Waterfalls”や、当時所属していたラ・フェイスの共同経営者で、アメリカを代表するヒット・メイカーの一人だったベイビーフェイス作のバラード”Diggin' on You”などを収めた同作は、アメリカ国内だけで1100万枚以上を売り上げ、女性ヴォーカル・グループ初のダイアモンド・ディスクを獲得。「史上最も売れた女性グループのアルバム」として、ポピュラー・ミュージックの歴史にその名を刻んだ。

紆余曲折を経て、99年には3枚目のアルバム『FanMail』を発表。アメリカ国内だけで600万枚、日本でも100万枚を売り上げるなど、健在っぷりをアピールしたが、2002年にレフト・アイが事故死。以後、ステージには何度か立っているものの、グループとしての活動は停滞する。

本作は、レフト・アイの没後に発表された2002年の『3D』から、実に15年ぶりとなる5枚目のアルバム。有名なプロデューサーを起用して、レフト・アイが生前に録音した音源を使った前作に対し、本作はT-ボスとチリの2人が中心になって制作している。

アルバムに先駆けてリリースされた“Way Back”は、今回が初共演となるスヌープ・ドッグをフィーチャー。アッシャーの”Mind Of Man”やラトーヤの”I'm Ready”などを手掛けてきたD’マイルがプロデュース。ミディアム・テンポのトラックに乗せて、甘くゆったりと歌う姿は”Diggin' on You”や”Baby-Baby-Baby”を彷彿させる。ミディアム・バラードの途中でラップを挟むスタイルは”Waterfalls”を思い起こさせるが、この曲でラップを披露しているのは、どんな曲でもアグレッシブなラップを聴かせるレフト・アイではなく、柳のように飄々と言葉を繋ぐスヌープ。TLCとスヌープの相性の良さに驚かされると同時に、レフト・アイの存在の大きさを再確認させられる。

また、今回のアルバムで異彩を放っているのがブラック・アイド・ピーズの”Where Is The Love”などに携わってきた、ロン・フェアのプロデュース作品。アース・ウィンド&ファイアの”September”やボビー・ヘブの”Sunny”のフレーズを引用したアップ・ナンバー。往年の名曲を引用したトラックは過去の作品でもあったが、メロディに取り込んだ楽曲はこれが初めて。新録曲を手掛けながら、再発ビジネスにも関わっているロンの持ち味が発揮されたキャッチーな曲だ。

また、本作の収録曲では一番最初に公開された”Hater”は、シャキーラやピンクに楽曲を提供しているマイケル・バスビーが手掛けた作品。彼女達が得意とするミディアム・テンポの楽曲だが、これまでのアルバムには少なかった明るい雰囲気に仕上げている。レフト・アイのかわりにラップ・パートも担当する二人の姿が印象的。二人の対称的な声質を活かしたポップでキャッチーなものだ。

そして、クリス・ブラウンなどの楽曲を手掛けているコリー・マークスが制作を担当したシングル”Joy Ride”は、彼女らの持ち味を活かした粘り強いメロディが魅力のミディアム。ヒップホップのビートをベースに、ギターやホーンの伴奏を盛り込んだトラックは『CrazySexyCool』の収録曲を連想させる。

今回のアルバムでは、彼女達の代表曲に多いミディアム・テンポの作品を中心に揃えつつ、時代の変化に合わせて新しい音色やフレーズを盛り込み、2017年のTLCの音楽として楽しめるものに纏めている。また、2人のヴォーカルも往時の雰囲気を残しつつ、経験を重ねてしなやかさを増していると思う。しかし、90年代の雰囲気を残している分、レフト・アイが欠けた穴の大きさが目立っており、素晴らしいパフォーマンスでありながら、どこか物足りなさを感じさせる。シュープリームスに始まり、ディスティニーズ・チャイルドやフィフス・ハーモニーまで、メンバーが入れ替わったり脱退したりしたグループは少なくないが、一人が欠けただけで大きく雰囲気が変わってしまうのは、三人全員がグループにとって欠かせない存在だった彼女達だけだと思う。

ポピュラー・ミュージックの歴史に残る名グループの集大成にふさわしい、充実した作品。ヴォーカル・グループの歴史上数少ない、全員が際立った個性を持っていた3人の偉大さを再確認させてくれる佳作だと思う。

Producer
Dunlap Exclusive, D'Mile etc

Track List
1. No Introduction
2. Way Back feat. Snoop Dogg
3. It’s Sunny
4. Haters
5. Perfect Girls
6. Interlude
7. Start a Fire
8. American Gold
9. Scandalous
10. Aye Muthafucka
11. Joy Ride
12. Way Back feat. Snoop Dogg (Extended Version)




TLC
TLC
ワーナーミュージック・ジャパン
2017-06-30