2005年に結成。2009年に初のアルバム『I Had the Blues But I Shook Them Loose』でメジャー・デビューを果たした、イギリスのロンドン発の4人組ロック・バンド、ボンベイ・バイシクル・クラブ。
ロックやフォーク・ミュージックをベースに、エレクトロ・ミュージックや色々な国の音楽を混ぜ合わせた個性的な作風で注目を集めた彼らは、その後も多くのステージを経験し、コンスタントに新作を発表。2017年までに4枚のアルバムと複数のシングルをリリースし、うち3枚を全英アルバム・チャートの10位以内に送り込み、2014年の『So Long, See You Tomorrow』は同チャートの1位を獲得している。
このバンドでヴォーカルやギターの他、楽曲制作も担当しているのが、ジャック・ステッドマン。フォーク・ミュージックやエレクトロ・ミュージックだけでなく、ジャズやソウル・ミュージックにも造詣の深い彼が新たに立ち上げた音楽プロジェクトが、このミスター・ジュークスだ。
ブラック・ミュージックを含め、幅広い音楽に慣れ親しんできた彼が手掛ける楽曲には、2017年のグラミー賞で複数の部門にノミネートしたことも記憶に新しいBJザ・シカゴ・キッドや、ダップトーン一派の作品で有名なチャールズ・ブラッドリー、多くの作品をヒット・チャートの上位に送り込み、数多くの音楽賞を獲得してきたレイラ・ハザウェイなど、多くのゲスト・ミュージシャンが参加。イギリスのロック・シーンで成功を収めた彼のフィルターを通した、独特のソウル・ミュージックを披露している。
アルバムを再生して最初に目につくのは、BJザ・シカゴ・キッドをフィーチャーしたシングル”Angels / Your Love”だ。アーチー・シェップを思い起こさせる、渋い音色のサックスの演奏で幕を開けるこの曲は、三拍子のビートや子供の声のコーラスを絡めた演奏が不思議な雰囲気を醸し出す曲。色々な拍子のリズムを使い、コーラスを混ぜ込んだ作風はアーチー・シェップのアルバム『Attica Blues』にも似ている。中盤から登場する、マーヴィン・ゲイを連想させるBJの艶めかしいファルセットも格好良い。
これ以外の曲では、チャールズ・ブラッドリーをゲストに呼んだ”Grant Green”も面白い。ブルー・ノート・レコードに多くのヒット作を残しているギタリスト、グラント・グリーンによるジェイムズ・ブラウンの同名曲のカヴァー”Ain't It Funky Now”をサンプリングしたファンキーなアップ・ナンバーは、元ネタになったジェイムズ・ブラウンを彷彿させる、汗と熱気が飛び交うチャールズのダイナミックなパフォーマンスが格好良い曲。グラント・グリーンのヴァージョンを下敷きにした、スマートで洗練されたトラックのおかげで、ワイルドで力強いジェイムズのヴァージョンとは一味違う、スタイリッシュな演奏になっている。
また、ジャマイカのキングストン出身のホレス・アンディと、アメリカのニューヨーク出身のラップ・グループ、デ・ラ・ソウルを招いた”Leap of Faith”は、ドラムの乱れ打ちと、華やかな伴奏が格好良い、ヒップホップ色の強い曲。絹のように滑らかなファルセットを響かせるホレスのヴォーカルと、デ・ラ・ソウルの軽妙なラップのコンビネーションが魅力の、明るくゆったりとした雰囲気のミディアム・ナンバーだ。ヒップホップのビートやラヴァーズ・レゲエのヴォーカルを取り入れつつ、優雅なソウル・ナンバーに落とし込むセンスが面白い曲だ。
そして、レイラ・ハザウェイを起用した”From Golden Stars Comes Silver Dew”は、彼女の作品を思い起こさせるしなやかなメロディと、ヒップホップのトラックを組み合わせた、奇抜な作品。レコードから抜き出したような温かい音色のビートを使った、緩やかなビートと、しなやかな歌声の組み合わせが心地よいミディアム・ナンバーだ。レイラの父、ダニー・ハザウェイを連想させる力強く、洗練された歌声と、90年代以降のブラックミュージックに欠かせないものとなったヒップホップを組み合わせた発想が光っている。
今回のアルバムは、既に確固たる地位を確立している実力派シンガーを揃え、マーク・ロンソンやダフト・パンクの成功で、欧米を中心に再び注目を往年のソウル・ミュージックの雰囲気を現代に蘇らせた意欲作だと思う。しかし、彼の面白いところは、シンセサイザーやサンプラーなどの新しい楽器を取り入れつつ、それを使って、昔の音楽の雰囲気を演出しているところだろう。クラブミュージック畑出身のダフト・パンクやマーク・ロンソンに比べ、イギリスのロック・バンド出身という、アメリカの黒人音楽とは適度に距離を置ける立場にいること、ボビー・ウーマックをプロデュースしたデーモン・アルバーンのように、斬新な作品に拘らなくてもよい位置にいることが、斬新さと懐かしさ、現代的なサウンドとソウル・ミュージックのバランスを適度に取れた、絶妙な立ち位置に、彼の作品を落とし込んでいるのかもしれない。
ヒップホップ畑出身のメイヤー・ホーソンとは一味異なる、ロック畑出身のジャックの持ち味が発揮された、懐かしいようで新しいソウル作品。現代もブラック・ミュージックに多くの影響を与え続ける、ソウル・ミュージックの醍醐味を若者向けに咀嚼した、「初めての1枚」に最適の佳作だ。
Producer
Jack Steadman
Track List
1. Typhoon
2. Angels / Your Love feat. BJ The Chicago Kid
3. Ruby
4. Somebody New feat. Elli Ingram
5. Grant Green feat. Charles Bradley
6. Leap of Faith feat. De La Soul & Horace Andy
7. From Golden Stars Comes Silver Dew feat. Lalah Hathaway
8. Magic
9. Tears feat. Alexandria
10. When Your Lights Go Out feat. Lianne La Havas
ロックやフォーク・ミュージックをベースに、エレクトロ・ミュージックや色々な国の音楽を混ぜ合わせた個性的な作風で注目を集めた彼らは、その後も多くのステージを経験し、コンスタントに新作を発表。2017年までに4枚のアルバムと複数のシングルをリリースし、うち3枚を全英アルバム・チャートの10位以内に送り込み、2014年の『So Long, See You Tomorrow』は同チャートの1位を獲得している。
このバンドでヴォーカルやギターの他、楽曲制作も担当しているのが、ジャック・ステッドマン。フォーク・ミュージックやエレクトロ・ミュージックだけでなく、ジャズやソウル・ミュージックにも造詣の深い彼が新たに立ち上げた音楽プロジェクトが、このミスター・ジュークスだ。
ブラック・ミュージックを含め、幅広い音楽に慣れ親しんできた彼が手掛ける楽曲には、2017年のグラミー賞で複数の部門にノミネートしたことも記憶に新しいBJザ・シカゴ・キッドや、ダップトーン一派の作品で有名なチャールズ・ブラッドリー、多くの作品をヒット・チャートの上位に送り込み、数多くの音楽賞を獲得してきたレイラ・ハザウェイなど、多くのゲスト・ミュージシャンが参加。イギリスのロック・シーンで成功を収めた彼のフィルターを通した、独特のソウル・ミュージックを披露している。
アルバムを再生して最初に目につくのは、BJザ・シカゴ・キッドをフィーチャーしたシングル”Angels / Your Love”だ。アーチー・シェップを思い起こさせる、渋い音色のサックスの演奏で幕を開けるこの曲は、三拍子のビートや子供の声のコーラスを絡めた演奏が不思議な雰囲気を醸し出す曲。色々な拍子のリズムを使い、コーラスを混ぜ込んだ作風はアーチー・シェップのアルバム『Attica Blues』にも似ている。中盤から登場する、マーヴィン・ゲイを連想させるBJの艶めかしいファルセットも格好良い。
これ以外の曲では、チャールズ・ブラッドリーをゲストに呼んだ”Grant Green”も面白い。ブルー・ノート・レコードに多くのヒット作を残しているギタリスト、グラント・グリーンによるジェイムズ・ブラウンの同名曲のカヴァー”Ain't It Funky Now”をサンプリングしたファンキーなアップ・ナンバーは、元ネタになったジェイムズ・ブラウンを彷彿させる、汗と熱気が飛び交うチャールズのダイナミックなパフォーマンスが格好良い曲。グラント・グリーンのヴァージョンを下敷きにした、スマートで洗練されたトラックのおかげで、ワイルドで力強いジェイムズのヴァージョンとは一味違う、スタイリッシュな演奏になっている。
また、ジャマイカのキングストン出身のホレス・アンディと、アメリカのニューヨーク出身のラップ・グループ、デ・ラ・ソウルを招いた”Leap of Faith”は、ドラムの乱れ打ちと、華やかな伴奏が格好良い、ヒップホップ色の強い曲。絹のように滑らかなファルセットを響かせるホレスのヴォーカルと、デ・ラ・ソウルの軽妙なラップのコンビネーションが魅力の、明るくゆったりとした雰囲気のミディアム・ナンバーだ。ヒップホップのビートやラヴァーズ・レゲエのヴォーカルを取り入れつつ、優雅なソウル・ナンバーに落とし込むセンスが面白い曲だ。
そして、レイラ・ハザウェイを起用した”From Golden Stars Comes Silver Dew”は、彼女の作品を思い起こさせるしなやかなメロディと、ヒップホップのトラックを組み合わせた、奇抜な作品。レコードから抜き出したような温かい音色のビートを使った、緩やかなビートと、しなやかな歌声の組み合わせが心地よいミディアム・ナンバーだ。レイラの父、ダニー・ハザウェイを連想させる力強く、洗練された歌声と、90年代以降のブラックミュージックに欠かせないものとなったヒップホップを組み合わせた発想が光っている。
今回のアルバムは、既に確固たる地位を確立している実力派シンガーを揃え、マーク・ロンソンやダフト・パンクの成功で、欧米を中心に再び注目を往年のソウル・ミュージックの雰囲気を現代に蘇らせた意欲作だと思う。しかし、彼の面白いところは、シンセサイザーやサンプラーなどの新しい楽器を取り入れつつ、それを使って、昔の音楽の雰囲気を演出しているところだろう。クラブミュージック畑出身のダフト・パンクやマーク・ロンソンに比べ、イギリスのロック・バンド出身という、アメリカの黒人音楽とは適度に距離を置ける立場にいること、ボビー・ウーマックをプロデュースしたデーモン・アルバーンのように、斬新な作品に拘らなくてもよい位置にいることが、斬新さと懐かしさ、現代的なサウンドとソウル・ミュージックのバランスを適度に取れた、絶妙な立ち位置に、彼の作品を落とし込んでいるのかもしれない。
ヒップホップ畑出身のメイヤー・ホーソンとは一味異なる、ロック畑出身のジャックの持ち味が発揮された、懐かしいようで新しいソウル作品。現代もブラック・ミュージックに多くの影響を与え続ける、ソウル・ミュージックの醍醐味を若者向けに咀嚼した、「初めての1枚」に最適の佳作だ。
Producer
Jack Steadman
Track List
1. Typhoon
2. Angels / Your Love feat. BJ The Chicago Kid
3. Ruby
4. Somebody New feat. Elli Ingram
5. Grant Green feat. Charles Bradley
6. Leap of Faith feat. De La Soul & Horace Andy
7. From Golden Stars Comes Silver Dew feat. Lalah Hathaway
8. Magic
9. Tears feat. Alexandria
10. When Your Lights Go Out feat. Lianne La Havas