2010年代前半からオーストラリアで活動。その後、同地での活躍が評価され、ダニエル・カエサルなどの気鋭のアーティストを擁することでも知られている、ドイツのシュトゥットガルドに拠点を置くマジェスティック・カジュアルと契約。現在はドイツを中心に活動するニュージーランド生まれ、オーストラリア育ちのシンガー・ソングライター、ノア・スリー。

ドイツに移住後は、継続的に新曲を発表しながら、キャッツ&ドッグスやカルマダなどの作品にも客演。ソウルフルな歌声と繊細なメロディ、先鋭的なトラックで耳の肥えた音楽ファンのみならず、ミュージシャンの間でも注目される存在になった。

今回のアルバムは、彼にとって初のフル・アルバム。今年の5月に発表した『Freedom TV』も話題になったウェイン・スノウや、ノアと同じニュージーランド出身のジョーダン・ラケイやレイチェル・フレイザー、アメリカを代表するソウル・シンガーの一人として知られているジョージア・アン・マルドロウなど、彼の豊かなバックグラウンドと人間関係を反映した、豪華な面々が参加した作品になっている。

ウェイン・スノウとレイチェル・フレイザーが参加したアルバムの実質的な1曲目”Instrore”は、マックスウェルを彷彿させるきめの細かいファルセットと、ディアンジェロを連想させるシンプルで抽象的なトラックやラップのようにリズミカルに言葉を繋ぐヴォーカルが印象的なスロー・ナンバー。柔らかく軽やかな歌声のノアと、芯の強い声のウェイン、ふくよかな歌唱のレイチェルと、三者三葉のヴォーカルを披露している点が面白い。少し気になるのは、サビのファルセットが3人の声と明らかに異なる点だが、歌っているのは誰なのだろうか。

これに対し、ニュージーランド出身のラッパー、メロダウンズを招いた”Lips”はサンファの作品を思い起こさせる、荘厳な雰囲気のエレクトロ・サウンドが印象的なミディアム・ナンバー。ノアの繊細な歌唱と、ヴォーカルと一体化した淡々としたラップの組み合わせが格好良い。エレクトロとソウル、ヒップホップを巧みに融合した佳曲だ。

また、”Sunrise”は太い音のベースと温かい音色のビートが格好良いアップ・ナンバー。電子音と生演奏を組み合わせたスタイルは、スティーブ・レイシーの作品にも少し似ている。ディアンジェロやエリカ・バドゥの作風を踏襲しつつ、彼らとは違う新鮮な音楽に落とし込む技術とセンスが光っている。

そして、女性フォーク・シンガーのシロー・ダイナスティが客演した”DGAF”は、彼女の繊細なヴォーカルをアクセントに使ったアップ・ナンバー。ギターの演奏をR&Bのトラックと組み合わせた手法は、マックスウェルやインディア・アリーにも似ているが、この曲はもっとタイトなビートを取り入れた本格的なR&B作品になっている。緻密な表現力を持つ二人だからこそできる曲だろう。

彼の音楽は、ウェイン・スノウやサンファホセ・ジェイムスのようなR&Bと電子音楽を融合したものだが、彼らの音楽と比べると、緻密な演奏が目立つ一方、それぞれの曲は斬新なアイディアを前面に押し出した粗削りな作品が多いように見える。それは、彼の音楽が若々しい感性と、強力なエネルギーによって生み出されたものだからかもしれない。

ウェイン・スノウに続き、ドイツから世界に羽ばたいた気鋭のクリエイター。今後の活躍が楽しみな逸材だ。

Producer
Noah Slee etc

Track List
1. Kamata‘anga (Intro)
2. Instore feat.Wayne Snow & Rachel Fraser
3. Radar
4. Invite (Interlude)
5. Lips feat.MeloDownz
6. Told
7. Sunrise
8. Dawn (Interlude) feat.Georgia Anne Muldrow
9. Reality feat.Jordan Rakei
10. DGAF feat.Shiloh Dynasty
11. Wander (Interlude)
12. Stayed
13. Way Back
14. Kiez (Interlude)
15. 100
16. Silence
17. Ngata‘anga (Outro)





アザーランド
ノア・スリー
Pヴァイン・レコード
2017-08-18