2000年代の中頃から、コリーヌ・ベリー・レイやギルモッツなどのバック・コーラスで経験を積み、マーク・ロンソンのツアーにバンド・メンバーとして帯同するなどして実力をアピールしてきた、サウス・ロンドン出身のシンガー・ソングライター、タビアンこと、ビバーリー・タビアン。

演劇や舞踏を扱うブリット・スクールでパフォーミング・アートを学んだ彼女は、学校を卒業したあと、ジョディ・ミリナーとの共作で初の録音作品となるEP『In Jodi's Bedroom』を発表。ソウル・ミュージックに電子音楽やヒップホップを癒合した作品が評価され、ジャイルズ・ピーターソンが主催する音楽賞で新人賞を獲得している。

その後も、自身名義の作品をリリースしながら、エリック・ロウやブラッド・オレンジ、ポール・オークンフォードやティエストなどの作品に客演。BBCのドキュメンタリー番組にも取り上げられるなど、ジャンルの枠にとらわれない活躍で、着実に知名度を上げていった。

このアルバムは、自身名義の作品としては2011年のシングル『Sweet Me』以来、約6年ぶりとなる新曲。彼女の作品では初めて、インディー・レーベルが配給を担当している。また、プロデューサーにはロックバンド、ヘジラのメンバーで、エイミー・ワインハウスやマシュー・ハーバートなどの作品にも携わっているサム・ベスタを起用。彼女自身も積極的にペンを執り、密度の濃い音楽を聴かせている。

イントロの後に収められた本作の実質的な1曲目”Queens”は、コンピュータを多用した抽象的なサウンドと抑揚を抑えた淡白な歌唱が印象的なミディアム・ナンバー。ピアノやギターの演奏を混ぜ込んで、アコースティックな音楽のように聴かせつつ、人間の演奏ではあまり用いない変則的なビートで楽曲に斬新な印象を与えている。

続く”Don't Hold Your Breath”は、ヘジラのアレックス・リーヴやパーソナル・ライフのネイザン・アレンなどを招き、バンド演奏によるバック・トラックを採用したミディアム・ナンバー。ドラム・ロールを多用した重々しいビートをバックに、繊細な声質を活かした慎重な歌唱を聴かせている。生演奏を取り入れつつ、電子音楽のようなシンプルで先鋭的な音楽に聴かせるスキルは圧巻のものだ。

また、これに続く”Falling Short”は、本作の収録曲で唯一、楽曲制作の全てを彼女一人で行ったもの。 電子音を組み合わせたトラックは、デビュー作の収録曲を彷彿させる。テンポや調を随所で変える奇抜なバック・トラックを器用に乗りこなしつつ、ビートにはヒップホップの、上物にはエレクトロ・ミュージックの、ヴォーカルにはソウル・ミュージックのエッセンスを取り入れ、独特の作品に落とし込んでいる。

そして、本作の最後を飾る”Move With Me”は、彼女の作品では珍しい、シンプルなアレンジでメロディをじっくりと聴かせるタイプの曲。シャーデー・アデューを思い起こさせる透き通った歌声を、流麗なメロディに乗せて丁寧に届ける姿が光る曲だ。

今回の作品では、実質4曲というEPの形態を取りながら、彼女の先鋭的な音楽センスや、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックといった、様々な音楽への深い造形、そして、しなやかな歌声を活かした繊細な表現が高いレベルで融合している。その作風は、サンファホセ・ジェイムスといったジャズや電子音楽とソウル・ミュージックを組み合わせたスタイルで、黒人音楽に新しい解釈を加えたアーティストの系譜を継いだものだといっても過言ではない。その中でも、彼女の場合、ヒップホップやソウル・ミュージックではあまり用いない奇抜なアレンジも積極的に取り入れつつ、メロディをしっかりと聴かせている点が大きな特徴だと思う。

色々なスタイルのミュージシャンが混在し、融合し、互いに刺激を与えあいながら新しいスタイルを生み続けているイギリスのブラック・ミュージック界隈を象徴する斬新な作品。R&Bやヒップホップに野蛮とか古臭いというイメージを持っている人にこそ聴いてほしい。

Producer
Sam Beste, Tawiah

Track List
1. Recreate Intro
2. Queens
3. Don't Hold Your Breath
4. Falling Short
5. Move With Me




Recreate
Tawiah
Imports
2017-08-18