IBMの幹部として働きながらクラブDJとしても活動していた父と、銀行員をしながらゴスペル・クワイアに所属していた母を持ち、叔父はプロミュージシャンとして演奏していたという、音楽一家に生まれ育ったジョージア州のベッドタウン、マリエッタ出身のプロデューサー、マイク・ウィル・メイド・イットことマイケル・レン・ウィリアムス2世。

少年時代はスポーツに打ち込んでいたという彼は、次第にヒップホップにもハマるようになり、一時期はフリースタイルにも挑戦していたらしい。そんな彼は、14歳の時に父親からサンプラーをプレゼントされると、ビートメイキングの世界にのめり込むようになり、16歳になると地元のミュージシャンに作品を売り込んでいたという。

その後、父親の勧めで大学に進学したものの、音楽への思いは捨てられず、リック・ロスをフィーチャーしたシングル”Tupac Back”をヒットチャートに送り込むと大学を中退。プロ・ミュージシャンへの道を歩み始める。

大学を中退した彼は、アトランタを拠点に本格的な活動を始める。当初は、グッチ・メインとのコラボレーションを機に広がった人脈を活かし、フューチャーや2チェインズといった人気ラッパーを起用したミックス・テープの発表が主だったが、人気ラッパーを起用したヒットメイカーの作品ということもあり、すぐにメディアなどで取り上げられるようになる。

そして、カニエ・ウエストの”Cruel Summer”やリアーナの”Pour It Up”、リル・ウェインの”Love Me”といったヒット曲を次々と生み出しながら、マイリー・サイラスの”We Can’t Stop”といったポップス作品も手掛けるなど、ジャンルの枠を超えた活躍を見せるようになる。

今回のアルバムは、彼にとって初のフル・アルバム。インタースコープが配給したメジャー・レーベル作でもあるが、レイ・シュリマーの”Black Beatles”を全米総合チャートの1位に送り込むなど、飛ぶ鳥を落とす勢いの彼だけあって、ヒットのツボを的確に押さえた、完成度の高い作品を聴かせてくれる。

アルバムを聴いて最初に気になったのは、21サヴェージやミーゴスといったアトランタ出身の人気ラッパーに加え、コンプトン出身のYGという彼の作品に何度も客演している面々が集結した”Gucci On My”だ。彼が設立したイヤードラマーズ所属のプロデューサー、リソースが制作に携わった曲。チキチキという音色が印象的な王道のトラップ・ビートをバックに三者三様のラップを披露している。各人がヒット曲を残している人気ミュージシャンだが、このアルバムでは三者が互いを引き立て合う、他では聴けないパフォーマンスを披露している。

しかし、本作の目玉は何といっても”Perfect Pint”だろう。彼が初めて作品を提供したメジャー・レーベル所属のアーティストであるグッチ・メインに、彼にとって初のナンバー・ワン・ヒット作となった”Black Beatles”でお馴染みのレイ・シュリマー、そして本作の発売直後にリリースされた、マイクがプロデュースしたシングル”Humble”が、全米総合チャートで1位を獲得しているケンドリック・ラマーという豪華な面々を揃えた曲は、イヤードラマーズ所属のプロデューサー、DJフーとの共同プロデュース。水滴が滴り落ちるような音色のシンセサイザーを駆使した、みずみずしさとロマンチックな空気を漂わせるトラックが印象的。淡々と言葉を繋ぎつつ、切ない雰囲気を醸し出すラップも魅力的。攻撃的で荒々しいラップでファンを魅了してきたラッパーを招きながら、彼らの作品では聴けない意外な一面を引き出した面白い作品だ。

また、ファレル・ウィリアムスがゲスト・ヴォーカルで参加した”Aries (YuGo) ”も見逃せない曲だ。ファレルがヴォーカルを担当している曲では珍しい、自身がプロダクションに関与していないこの曲。制作を担当したマイクは、トラップのビートを基調にしつつ、色鮮やかな音色を盛り込んだ普段の彼とは一味違うトラックで、ファレルの音楽ともマイクの音楽とも違う、二人のコラボレーション作品に仕上げている。ファレルのヴォーカルも飄々としたいつものスタイルではなく、甲高いテナーを使ってじっくりと歌うものだ。また、メジャー・レーベルでの初録音となるラッパーのステーション・ワゴンPも二人の大物の間で、しっかりと自分の存在感をアピールしている。

そして、R&B好きには見逃せないのが、本作からの先行シングルで、収録曲では唯一のヴォーカル作品である”Nothing Is Promised”だ。”Pour It Up”を提供したリアーナをゲストに招いた作品はミディアム・ナンバー。リアーナの作品を数多く手掛けているカク・ハレルなどが制作に参加したこの曲は、マイクが得意とするシンセサイザーを多用した近未来的な雰囲気のトラップ・ビート、録音時点で20代だということが信じられない、円熟した表現と粘っこいリアーナの歌声が組み合わさった、コラボレーションのお手本のような作品だ。両者のスキルもさることながら、脇を固めるカク・ハレルやプラスといった、各人にとって縁の深い作家達の緻密で繊細な仕事が光っている。

今回のアルバムでは、強烈な個性と高い実績がウリの面々を集め、ここでしか聴けないバラエティ豊かな楽曲を聴かせている。プロデューサーが制作を主導し、豪華なゲストがパフォーマンスを披露する作品といえば、古くはファンクマスター・フレックスやトニー・タッチ、最近ではDJキャリッドカルヴィン・ハリスなどの名前が挙がるが、プロデューサーがホスト役となって参加アーティストの個性を組み合わせて楽曲を生み出す彼らに対し、トラック・メイカーとしての経験を活かして、アーティストの持ち味を活かしつつ、プロデューサーの個性を強く押し出した作品に落とし込んでいる。

豪華なゲストの魅力を活かしつつ、アーティストとしてのマイクの個性を打ち出した、捨て曲のない佳作。このアルバムを聴くと、現代のヒップホップやR&Bがアーティストとプロデューサーの共同作業の成果だということを再認識させられる。彼が今後、どんな化学反応を生み出してくれるか、今から楽しみだ。

Producer
Mike WiLL Made-It, Steve "The Sauce" Hybicki, 30 Roc, Ducko, Marz etc

Track List
1. On the Come Up feat. Big Sean
2. W Y O (What You On) feat. Young Thug
3. Hasselhoff feat. Lil Yachty
4. Gucci On My feat. 21 Savage, YG and Migos
5. Oh Hi Hater (Hiatus) feat. Fortune
6. Perfect Pint feat. Kendrick Lamar, Gucci Mane and Rae Sremmurd
7. Razzle Dazzle feat. Future
8. Bars of Soap feat. Swae Lee
9. Burnin' feat. Andrea
10. Y’all Ain’t Ready feat. 2 Chainz
11. Aries (YuGo) feat. Pharrell and Station Wagon P
12. Emotion On Lock feat. Eearz
13. Big God feat. Trouble and Problem
14. Faith feat. Lil Wayne and Hoodybaby
15. Come Down feat. Chief Keef and Rae Sremmurd
16. Outro
17. Nothing Is Promised feat. Rihanna





Mike Will Made-It
Eardruma
2017-09-29