2003年に発表した、放送禁止用語を繰り返す強烈なサビが話題になったデビュー曲”F**k It (I Don't Want You Back)”が各国のヒット・チャートを制覇。同曲を下敷きにしたアンサーソングも作られるなど、2000年代を代表するヒット曲として歴史にその名を刻んだ、ニューヨークのスタテン・アイランド出身のシンガー・ソングライター、イーモンこと、イーモン・ジョナサン・ドイル。

イタリア人やアイルランド系アフリカ人の血を引く彼は、ドゥー・ワップ・グループのメンバーだった父の影響もあり、9歳のころから父のグループのステージで歌うようになり、15歳になるとソングライターとしてもメアリーJブライジなどと仕事をするようになったという早熟の天才でもある。

デビュー・シングルに続き、2004年にジャイヴから発売した初のアルバム『I Don't Want You Back』も全米総合チャートの3位を獲得する大ヒットとなった彼は、その後もゴーストフェイスの『More Fish』などに客演。2006年には2枚目のアルバム『Love and Pain』をリリースするが、こちらは商業的には不本意な結果に終わる。

その後、ジャイヴを離れた彼は、ロス・アンジェルスに移住し、SMCエンターテイメントと契約。ラッパーのラグド・マンやヒップホップ・グループのジェディ・マインド・トリックスなど、色々なスタイルのミュージシャンとコラボレーションを重ねながら、次のリリースに向けて着々と準備を進めてきた。

そして、2017年に自身名義の楽曲を複数発表した後、満を持して発表したのがこのアルバム。ジェディ・マインド・トリックスのストゥープや、コニー・プライス&キーストーンズのダン・ユービックなどがプロデューサーとして参加した本作は、彼の持ち味である、ドゥー・ワップや往年のソウル・ミュージックから強い影響を受けた泥臭いメロディやグラマラスなヴォーカルに、ヒップホップなどの要素を取り入れた現代的なサウンドが合わさった、懐かしさと新鮮さが入り混じった作品になっている。

本作のオープニングを飾る”Before I Die”は、ジョン・レジェンドの”Get Lifted”を思い起こさせる、泥臭いバック・トラックが印象的なスロー・ナンバー。ギターなどの音色とヒップホップのビートを組み合わせた荒々しいサウンドが新鮮だ。ラップを織り交ぜつつ、サビでは激しい雄叫びを上げるイーモンのヴォーカルも格好良いが、声質が軽いのが玉に瑕。

続く”Be My Girl”は、今年四月に本作に先駆けてリリースされたシングル曲。ピアノの伴奏で幕をロマンティックなサウンドをバックに、力強い歌声を響かせるミディアム・ナンバーだ。ピアノとドラムが中心のシンプルな伴奏に、ゴスペルのコール&レスポンスを織り込んだアレンジが彼のダイナミックなヴォーカルの良さを引き出している。60年代以前の音楽のエッセンスをふんだんに取り入れつつ、楽器の音色やメロディを工夫して現代の音楽に仕立て上げている点が面白い。

この路線を踏襲したのが、4曲目の”I Got Soul”。温かい音色のオルガンを使った伴奏がシャロン・ジョーンズやメイヤー・ホーソンの作品ような現代のヴィンテージ・ミュージックを連想させるスロー・ナンバー。泥臭い伴奏の上で荒々しいヴォーカルを聴かせつつ、可愛らしい女性コーラスを使って聴きやすい印象を持たせる手法は、オーティス・レディングやドン・ブライアントなどが活躍していた60年代、70年代のアメリカ南部のソウル・ミュージックを思い起こさせる。

そして、見逃せないのが本作の収録曲では珍しいアップ・ナンバーの”Run”だ。シュープリームスの”You Can't Hurry Love”を連想させる軽快な演奏をバックに、軽やかな歌を披露するポップス寄りの曲。古くはビートルズ、最近ではエイミー・ワインハウスやアデルなど、往年のソウル・ミュージックを取り入れたロックやポップスはいつの時代も人気だが、この曲ではソウル・ミュージックのヴォーカル・スタイルでこのようなポップスのスタイルを吸収、再解釈。力強い歌唱を活かしたポップなソウル・ナンバーに仕上げている

自身名義では12年ぶりの新作となった今回のアルバムは、ドゥー・ワップからヒップホップまで、色々な音楽に携わってきた彼の経験と持ち味がいかんなく発揮された良作だ。ディアンジェロからブルーノ・マーズまで、往年のソウル・ミュージックと現代の黒人音楽の融合にチャレンジしてきたミュージシャンは枚挙に暇がない。その中でも、彼の場合、幼いころからドゥー・ワップという黒人音楽の中でも歴史の長いジャンルと、ヒップホップという新しいジャンルの両方に触れてきたからか、ヴォーカルの表現やアレンジの引き出しが多く、それらを違和感なく組み合わせて独自性を発揮しているように映る。

古今東西のブラック・ミュージックに精通し、それらを組み合わせて往年のソウル・ミュージックに新しい解釈を加えた、シンプルだけど飽きの来ないスルメのような作品。”F**k It (I Don't Want You Back)”で成功した一発屋だと思っている人にこそ、ぜひ聴いて欲しい。

Producer
Eamon, Stoupe, Snipe Young, Dan Ubick

Track List
1. Before I Die
2. Be My Girl
3. Lock Me Down
4. I Got Soul
5. Burn It Up
6. Mama Don't Cry
7. You and Only You
8. Hands Make You Dance
9. Run
10. Requiem





Golden Rail Motel
Eamon
Huey Ave Music
2017-09-15