カリフォルニア州ロス・アンジェルス生まれ、イングルウッド育ちのサックス奏者、カマシ・ワシントン。

高校時代から音楽を学んでいた彼は、大学に進むと音楽民族学を専攻しながら、ジャズ・ミュージシャンとしても活動を開始。ケニー・バレルやビリー・ヒギンスといった大物とも共演してきた。その後、ハービー・ハンコック等のジャズ・ミュージシャン達と仕事をしながら、ローリン・ヒルやスヌープ・ドッグといった、ヒップホップやR&Bのミュージシャンともレコーディングをするようになった彼は、名うての演奏者として同業者の間では知られた存在となった。

その一方で、2000年代中頃から、自身の名義でも2000年代中頃から継続的に作品を録音するなど、精力的に活動していた彼。そんな彼は2014年から2015年にかけて、フライング・ロータスの『You're Dead! 』、ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly 』、サンダーキャットの『The Beyond / Where The Giants Roam』という3枚の傑作に携わったことで注目を集める。これらの作品で印象的な演奏を残した彼は、2015年にフライング・ロータス等の作品を配給しているブレインフィーダーからアルバム『The Epic』をリリース。CD3枚組という大作ながら、壮大なスケールと先鋭的なアレンジ、緻密な構成で高く評価された。

このアルバムは、今年の4月に配信限定で発売した13分にも及ぶ大作シングル”The Truth”から約5か月という、短い間隔でリリースされたEP。同曲に5作の新録曲を加えた本作では、ベーシストのマイルズ・モズリーや、サンダーキャットの実兄としてもお馴染みのドラマー、ロナルド・ブルーナー、アルバム『Planetary Prince』も好評なキャメロン・グレイブスなど、彼と縁の深い人気ミュージシャン達が集結。高い演奏技術と豊かな表現力を惜しみなく聴かせている。

本作の1曲目は、艶めかしいサックスの音色が印象的な”Desire”。マイルス・モズリーのグラマラスなベースと、目立たないが安定した演奏で主役を引き立てるロナルド・ブルーナーのドラム。そして、各人が絶妙なタイミングで流麗なフレーズを挟み込む構成が魅力の作品だ。ミディアム・テンポで滑らかなメロディの楽曲ということもあり、過去の録音にはないくらい、ロマンティックな印象を受ける。

また、これに続く”Humility”は、前曲とほぼ同じ編成でダンス・サウンドに取り組んだ作品。カマシ・ワシントンを含む3人のホーン・セクションが奏でるダイナミックなメロディと、荒々しいアドリブ、脇を固めるリズム・セクションと鍵盤楽器のコンビネーションが光っている。60年代初頭、ハンク・モブレーやリー・モーガンが残したような、力強く躍動感に溢れるパフォーマンスが堪能できる佳作だ。

それ以外の曲では、サックスが奏でる滑らかなメロディが魅力の”Perspective”が目立っている。ヒップホップやファンクのビートを取り入れたミディアム・ナンバーは、スライ&ザ・ファミリーストーンの”Family Affair”を連想させるしなやかなグルーヴが格好良い曲だ。

そして、本作の収録曲では異彩を放っているのが、5曲目の”Integrity”だ。この曲で取り入れたのは、なんとボサノバのリズム。軽妙で洗練されたボサノバのグルーヴに乗って、艶っぽい演奏を披露している。キャノンボール・アダレイやスタン・ゲッツなど、ブラジル音楽のエッセンスを取り入れたジャズ・ミュージシャンは沢山いるが、彼のような極端にセクシーなパフォーマンスを披露した例はあまりないかもしれない。

今回のアルバムでは、前作の路線を踏襲しつつ、60年代のジャズに歩み寄った作品といえるかもしれない。ファンクやブラジル音楽など、ジャズ以外の音楽エッセンスを取り入れた音楽は、60年代から70年代にかけて流行したが、彼はそこにヒップホップやエレクトロ・ミュージックのミュージシャンとコラボレーションする中で培った、DJやトラックメイカーの編集技術を盛り込むことで、異なる音楽を混ぜることで生まれる違和感をコントロールし、楽曲に起伏を付けている。

DJやトラック・メイカーの柔軟な発想と、求める音を確実に具体化する演奏者としての高い技術が同居した魅力的な作品。昔のジャズに慣れ親しんだ人にも、ジャズをあまり聞かない人にも、親しみやすく新鮮な面白いアルバムだと思う。


Track List
1. Desire
2. Humility
3. Knowledge
4. Perspective
5. Integrity
6. Truth