2006年にドレイクが設立。当初は彼のミックス・テープを配給するためのレーベルだったが、2012年以降は、ワーナー・ミュージックと契約した彼が率いるレーベルとして多くの人気ミュージシャンやクリエイターを輩出しているOVOサウンド。当初はボイ・ワン・ダやT-マイナスといった、プロデューサーが主力だったが、2013年のパーティーネクストドアやマジッド・ジョーダンを皮切りに、シンガー・ソングライターや音楽ユニットとも契約するようになる。特に、パーティーネクストドアは2枚のアルバムを全米R&Bチャートの1位に送りこむなど、レーベル内でもドレイクに次ぐ華々しい成果を上げてきた。

dvsnはシンガー・ソングライターのダニエル・ディレイと音楽プロデューサーのナインティーン85によるユニット。2015年に同レーベルと契約すると、翌年に発表した1枚目のフル・アルバム『Sept. 5th』がR&Bチャートの17位となるスマッシュ・ヒット。マックスウェルを彷彿させる、ダニエルの繊細でしなやかなヴォーカルと、ナインティーン85が作り出す洗練されたトラックが話題になった。

このアルバムは、前作から約1年ぶりとなる2枚目のフル・アルバム。制作には2人に加えレーベル・メイトの40や、ドレイクの作品にも数多く携わっているマニーシュ、オランダの人気ソングライター、ロビン・ハンニバル等が参加。前作の手法を踏襲しつつ、それを拡大したスタイリッシュなR&Bを聴かせている。

アルバムに先駆けてリリースされたシングル曲”Think About Me”は、制作を2人、プロデュースをナインティーン85が担当したバラード。重い音を使ったビートを軸にしたトラックと、みずみずしいヴォーカルのコンビネーションが魅力のバラード。浮遊感が心地よい上物が彼の色っぽい歌声を引き立てている。

これに続く”Don't Choose”はパーティーネクストドアがソングライティングに参加したスロー・ナンバー。彼の作品を連想させる、チキチキという音を使ったヒップホップ寄りのビートの上で、語り掛けるように歌う姿が印象的な曲。流れるようなメロディでありながら、ラップのように多くの言葉を盛り込むパーティーネクストドアのスタイルと、ナインティーン85が手掛けるシンプルなトラックの組み合わせが新鮮だ。コーラスとして組み込んだ、アイザック・ヘイズの歌声がアクセントになっている。

また、マニーシュが制作に携わった”Mood”は、ファルセットを多用した美しいメロディとピアノやギターの音色を巧みに取り入れたトラックづくりのセンスが光るスロー・ナンバー。高音を多用したスタイルはマックスウェルの”Fortunate”や”I Wanna Know”などを思い起こさせる。電子楽器を中心に使いつつ、アコースティック楽器のような音色を盛り込んで70年代のソウル・ミュージックのように聴かせる手法は面白い。

だが、本作の目玉は、二人で制作したスロー・ナンバー”P.O.V.”だろう。R.ケリーがペンを執ったマックスウェルのバラード”Fortunate”をサンプリングしたこの曲は、90年代のR&Bを思い起こさせる温かい音色のトラックと、ダニエルの繊細な歌声の組み合わせが気持ち良い作品。楽曲の冒頭で使われているマックスウェルの歌声が、ダニエルのきめ細かで滑らかな歌声を際立たせている。

彼の音楽は、レーベル・メイトのR&Bミュージシャンであるマジッド・ジョーダンやロイ・ウッズ、プラザと比べると、繊細な歌声の魅力を引き立たせる、流麗なメロディをじっくりと聴かせる作風が特徴的だ。シンプルなトラックとしなやかなメロディという、90年代から現代にかけて、色々なミュージシャンが挑戦し、ヒット曲を残してきたR&Bの王道ともいえるスタイルを取り入れながら、新しい音楽のように聴かせているのは、音の配置や響きにも配慮した彼らの高いスキルによるものが大きいと思う。

新しい音を取り入れているにもかかわらず、どこか懐かしい雰囲気を感じる佳作。90年代にR&Bを聴いていた人にお勧めしたい本格的なR&Bグループだ。

Producer
Nineteen85, 40, Alpha, Maneesh, Noël, Robin, Hannibal

Track List
1. Run Away
2. Nuh Time / Tek Time
3. Keep Calm
4. Think About Me
5. Don't Choose
6. Mood
7. P.O.V.
8. You Do
9. Morning After
10. Can't Wait
11. Claim
12. Body Smile
13. Conversations in a Diner