melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2016年12月

Damar Jackson – Ninety3Until EP [2016 Unknown Collective]

ダフトパンクやマーク・ロンソン、メイヤー・ホーソンなどの活躍で、往年のソウル・ミュージックが再び注目を集める中、少々影が薄くなった感じもする、90年代に流行した打ち込みやサンプリングが主体のR&B。だが、当時活躍していたミュージシャンの近況に目を向けると、ブランディやジョーはコンスタントに新作を発表しながら、ステージにも立ち続け、アフター7 やアズ・イェットなどの、90年代に活躍していたヴォーカル・グループは、実に十数年ぶりとなるオリジナル・アルバムをリリースするなど、リアルタイムで彼らの音楽に慣れ親しんだ世代を主なターゲットに、活発な動きを見せている。

そんな中、90年代のR&Bから強い影響を受けたという若いシンガー・ソングライター、デイマー・ジャクソンが、5曲入りのミニ・アルバムを携えて音楽シーンに姿を現した。

フランスの古城のような美しい建築と、「ハング・ジャイル」と呼ばれるほど劣悪な待遇で有名な、ボルガール刑務所があるルイジアナ州の都市、デリッダー出身の彼は、子供のころから教会で歌い、キーボードを中心に多くの楽器を習得してきた多芸多才なミュージシャン。影響を受けたアーティストに、ドネル・ジョーンズやルーシー・パールの名を挙げる彼は、90年代のR&Bから影響を受けた楽曲を作りながら、ボビー・ヴァレンティノやクリセット・ミッシェルなどと同じステージに立ってきた、経験豊かな新人。

さて、このアルバムに耳を傾けると、オープニングを飾る”Calling Me”では、R.ケリーの”Bump n' Grind”とジョーの”I Wanna Know”を混ぜ合わせたような、緊張感あふれるビートをバックに、去りゆく恋人への思いをつづった、切羽詰まった男の心境が見事に表現されている。この曲ひとつを取っても、彼が90年代のR&Bをしっかりと研究してきたことがよく伝わってくる。

続く”Crazy”はLSGの”My Body”を薄口にしたような、程よくドロドロとしたトラックがたまらないスロー・ナンバー。ヴォーカルに少しだけエフェクターをつかって、キース・スウェットのような癖のある声を再現したところに、彼の遊び心とセンスの良さを感じる。

また、数少ないミディアム・ナンバー”Dance”は、彼に多大な影響を与えたルーシー・パールの”Dance Tonight”のリメイク。シンセサイザーが中心の伴奏は、ルーシー・パールのそれとは異なるが、ラファエル・サディークのように、場面ごとに異なる声色を使い分けるデイマーと、クレジットには名前が載っていないが、ドーン・ロビンソンのパートを歌う女性ヴォーカルの、少し気怠い雰囲気もきちんと取り入れている。オリジナルの空気を見事に再現した良質なカヴァーだ。

一方、本作のハイライトであるスロー・ナンバー”Juicy”では、ジャギド・エッジを彷彿させるバスドラムとチキチキという音を強調したビートの上で、エフェクターを効かせた声を幾重にも重ねた、一人ヴォーカル・グループと呼びたくなるような演奏。キース・スウェットが作るようなロマンティックなメロディが光る素晴らしいバラードだ。

アルバム全体を通して聞くと、ブルーノ・マースやジョン・レジェンドが過去の音楽を参考にしつつ、現代の音楽シーンで通用する独自のサウンドを生み出したように、デイマーも90年代のR&Bを踏襲しつつ、そこから21世紀に通用するサウンドが生み出せないか、模索しているように見える。
粗削りな部分がちらほら見えるのは気になるが、彼の緻密な研究と大胆な発想には、それ以上に期待が持てる。今後の展開が楽しみな、魅力的な新人だと思う。
Producer
Damar Jackson

Track List
1. Calling Me
2. Crazy
3. Dance
4. Juicy
5. Good Thing







Lloyd – Tru EP [2016 Young Goldie Music]

ジャ・ルールやアシャンティを輩出したマーダー・インク(後にザ・インクと改称)初の男性シンガーとして、2004年にアルバム『Southside』で華々しくデビューしたアトランタ出身のシンガー・ソングライター、ロイド。その後は、ザ・インクが活動を休止するなど、必ずしも順風満帆とは言えない環境の中で、2作目の『Street Love』がゴールドディスクを獲得し、3作目の『Lesson In Love』が全米R&Bアルバム・チャートを制覇するなど、着実に実績を積み上げてきた。

そんな彼の3年ぶりとなる新作は、ロス・アンジェルスに拠点を置くエンパイア・レコードから発売された、5曲入りのミニ・アルバム。若き日のマイケル・ジャクソンにも似た若々しい(子供のような?)ハイ・テナーと、柳のようにしなやかな歌唱は今回も健在で、その声を活かしたロマンティックでセクシーな楽曲を聴かせてくれる。

プロデューサー等のクレジットは不明だが、音楽性はこれまでの作品を踏襲したもの。アルバムに先駆けて発表されたタイトル曲”Tru”では、ギターのような音色を使った悲し気なイントロから、ドラム主体のシンプルなトラックに移り、その上で泣き崩れるようなヴォーカルが繰り出されるミディアム・バラード。彼のデビュー曲”Southside”を彷彿させる、ドラマティックな楽曲だ。一方、ラッパーの2チェインズをゲストに迎えた同曲のリミックス・ヴァージョンでは、メロディをR.ケリー風のエロティックなものにアレンジするとともに、デジタル・パーカッションの音色と語り掛けるようなラップをアクセントに加えて、よりキャッチーなものに纏め上げている。

また、リック・ロスが参加した”Heavenly Body”では、エムトゥーメイを連想させるリズム・マシーンとシンセサイザーの伴奏で、甘美な雰囲気と軽妙さを演出したビートをバックに、甘い歌声を張り上げるスウィートなミディアム・ナンバー。絶妙なタイミングで楽曲を引き締めるリック・ロスのラップも素晴らしい。そして、リル・ウェインを招いたスロー・ナンバー”Holding”は、アッシャーの”Confessions”を思い出させるチキチキ・ビートの上で、力強く歌声を張り上げるバラード。彼の若々しい歌声と、リル・ウェインのコミカルなラップのおかげで、ダイナミックな楽曲でありながら、どこか親しみやすさを感じるのは面白い。どちらの曲も、数多くのラッパー、シンガーと競演してきた両者らしい、バランス感覚の良さが光る名演だ。

だが、今作で特筆すべきは唯一のアップ・ナンバー”Excited”だ。ブリブリと唸るベースの音色が、スレイヴやギャップ・バンドなどのファンク・バンドを思い起こさせるダンス・ナンバー。シンセサイザー主体の乾いたサウンドが、ロイドの流れるようなヴォーカルとマッチした、クールな雰囲気が印象的だ。

本作の収録曲を聴く限り、レーベルを移籍しても、彼の音楽は安定しているように思える。年齢に比べて若く聴こえる甘く爽やかな声をベースにした、繊細なヴォーカルの魅力を引き出すため、デジタル機材を中心にした、シンプルなトラックを選び、癖のある声がウリのラッパーを起用して楽曲に起伏をつけるスタイルは、本作でも変わらない。鋭意制作中というニュー・アルバム『Out My Window』への期待を膨らませてくれる、充実した内容だ。

Track List
1. Tru
2. Heavenly Body feat. Rick Ross
3.Holding feat. Lil Wayne
4. Excited
5. Tru (Remix) feat. 2 Chainz





Tru - EP [Explicit]
Young Goldie Music / EMPIRE
2016-12-09

 

The Olympians – The Olympians [2016 Daptone]

2016年は、いまやレーベルの看板シンガーとなったチャールズ・ブラッドリーの新作にはじまり、レディ・ガガやノラ・ジョーンズの作品への参加、ディズニー映画『ジャングル・ブック』のテーマ音楽での演奏など、八面六臂の活躍を見せてきたダップトーン一派。しかし、多くのメンバーが活躍の場を広げる一方で、11月にはシャロン・ジョーンズ&ダップ・キングスの不動のリード・シンガー、シャロン・ジョーンズを癌を失うなど、先行きに不安を残す1年だった。

そんな中、ダップトーンが新たに送り出したのは、ドラマーのホーマー・スタインウェイスやトランペットのマイケル・レオンハルト、ベースのニック・モヴソンなど、ダップ・キングスやエル・ミッチェル・アフェアのメンバーを中心に、ダップトーン・レーベルとその周辺で活躍する演奏家が終結したスーパー・グループだった。

「オリンポスの神々」という仰々しいバンド名に違わず、デビュー作ながら貫禄は十分。ジュピター(全能神ゼウスのローマ字読み)、アポロ(ゼウスの息子で芸術の神、アポロンのこと)、マーズ(戦の神、アレスのこと)など、オリンポス十二神に引っ掛けた収録曲では、その壮大なタイトルを裏切らない、ダイナミックで安定した演奏を楽しませてくれる。

アルバムを再生した瞬間、ジェイZの”Roc Boys (And the Winner Is)...”にサンプリングされたことでも有名な、メナハン・ストリート・バンドの代表曲、”Make the Road by Walking”のホーン・セクションを分厚くし、ストリングスを加えたようなミディアム・ナンバー”Sirens Of Jupiter”にはじまり、三連符を効果的に使って、往年のリズム&ブルースや日本の演歌のような”こぶし”を効かせたスロー・ナンバー”Venus”。イントロのドラムを聴いた瞬間に、ウータン・クランのトラックを人力でカヴァーしたエル・ミッチェル・アフェアを思い出させる、90年代前半のイースト・コースト・ヒップホップのように精密なビートを聴かせてくれる”Mars”。アントニー・シルヴァーマンのヴァイオリンによる緊張感溢れるイントロから、スリリングなアンサンブルへと一気に移り変わる展開が、アイザック・ヘイズの“Theme Of Shaft”を彷彿させるアップ・ナンバー”Saturn”など、2000年代初頭に本格的なレコード・リリースを始めるや否や、あっという間に音楽業界を席巻した、ダップトーン一派の大胆だが緻密なサウンドが目の前に広がる。

しかし、なによりもこのバンドの凄いところは、各人が豊富な実績を上げているにも関わらず、あくまでもバンドとしての一体感に重きを置いていることだろう。メンバーのソロ・パートがないわけではないが、あくまでも楽曲の演出の範囲に留め、バンドのアンサンブルを聴かせることに重きを置いている姿からは、多くのミュージシャンを支えてきた、音の職人としての彼らの矜持を感じさせる。

本作では、リー・フィールズからブルーノ・マースまで、さまざまなミュージシャンのバックで演奏しながら、彼らの音楽に余人をもって代えがたい個性的なサウンドを提供してきた面々のパフォーマンスが、心ゆくまで堪能できる。21世紀のブッカー・T&ザ・MG'sやJ.B.’sといっても過言ではない、演奏だけで金を取れる存在だと思う。

Producer
Sugarman & Roth

Track List
1. Sirens Of Jupiter
2. Venus
3. Apollo's Mood
4. Mars
5. Neptune
6. Saturn
7. Diana By My Side
8. Pluto's Lament
9. Mercury's Odyssey
10. Europa And The Bull
11. Sagittarius By Moonlight





Olympians -Digi-
Olympians
Daptone
2016-10-28


 
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