melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2016年12月

Marques Houston – Complete Me [2016 Silent Partner Entertainment]

1992年にイマチュア(後にIMXに改名)のリード・シンガーとしてデビュー。2003年以降はソロ・シンガーとしても6枚のアルバムを残している、ロス・アンジェルス出身のシンガー、マーカス・ヒューストン。甘酸っぱい歌声と大人びたメロディが共存したイマチュア時代から、半裸のジャケット写真が象徴するような大人の色気が漂うヴォーカリストへと脱皮を遂げた彼の、新しいアルバム『White Party』からの先行シングル『Complete Me』が配信限定で発表された。

この曲を聴いて、まず驚かされるのは、一気に豊かになった彼の声量だ。これまでの彼は、どちらかといえば線の細い、柳の枝のようにしなやかな歌声を聴かせる、セクシーな歌手という印象だった。ところが、この曲では、逞しい歌声を張り上げ、シスコ(ドゥー・ヒル)やジョーといった、2000年前後に一世を風靡した力強い歌声が魅力のバラーディアの影響が垣間見える、本格的なソウル・シンガーに成長したことがうかがえる。

また、忘れてはならないのが、大きく成長した彼の歌声の魅力を引き出している、プロデューサーのイマニュエル・ジョーダン・リッチの存在。シャナチーから発売された前作『Famous』でも辣腕を振るっていた彼は、本作でもその実力をいかんなく発揮している。

ピアノの伴奏をバックに、物悲しいメロディを歌うところから始まり、ハリウッド映画のサウンドトラックを彷彿させる重厚なオーケストレーションを挟んで、再びピアノと歌の演奏に戻る。最近のブラック・ミュージック界隈では珍しい、オーソドックスでシンプルな構成の作品だが、リッチは、それぞれの場面を主役の歌を引き立てるための道具として活用し、各場面にマーカスの見せ場を用意することで、壮大でロマンティックなバラードに仕立て上げている。

本作とはだいぶ曲調が異なるが、この曲を聴くと、シスコの”Incomplete ”や、ジョーの”Thank God I Found You”に次ぐ、名バラードをマーカスが生み出すのではないかと期待してしまう。

過去の音楽へのオマージュや、前衛音楽や実験音楽に触発された斬新な試みを行うミュージシャンが目立つ中、歌一本で勝負できるシンガーがまた一人登場した。早く新作が聴きたいなあ。

Producer
Immanuel Jordan Rich



Chris Brown - Party [2016 RCA]

2005年にシングル、”Run It”でデビューしたあと、T-ペインと組んだ”Kiss Kiss”や、タイガとのコラボレーション・作品『Fan of a Fan: The Album』など、ヒット作を立て続けに生み出し、マイケル・ジャクソンやアッシャーに続く、「歌って踊れる男性R&Bシンガー」の座を着々と固めつつある、ヴァージニア州出身のシンガー・ソングライター、クリス・ブラウン。

不幸なことに、近年は音楽活動よりもプライベートの問題にスポットが当てられることが多い彼が、2017年にリリースを予定している新しいアルバムに先駆けて、配信限定で新曲を発表した。

プロデューサーは、トレイ・ソングスやジェイソン・デルーロなどの近作を手掛けた面々。彼らの手掛ける作品や、今も根強い人気のEDMでしばし多用される、華やかなシンセサイザーのリフで幕を開けるこの曲は、その後、リル・ジョンのブレイク以降、ヒップホップのヒット曲ではしばし用いられる、コンピューターだけを使ったシンプルなビートに切り替わり、その上に彼のラップ風歌唱が乗っかるというスタイル。

この曲を聴いて真っ先に思い出したのは、次々とミリオン・ヒットが誕生した2000年代初頭のヒップホップやR&Bのことだ。多くのゲスト・ミュージシャンを次々と繰り出す豪華な音楽を、彼はこの作品で現代によみがえらせようとしていると受け取っているのは私だけだろうか。

この曲のゲストには、今を時めくグッチ・メインとアッシャーが参加しているが、二人はそれぞれ脇から煽る役と、楽曲の後半でフックを歌う程度に留め、あくまでも脇役に徹している。本来なら、もっと見せ場をもらえてもおかしくない立場の大物を、一人のゲストとして使うスタイルは、大物ミュージシャンを何人もゲストに招いて、自分の作品に彩を加えたディディやドクター・ドレ、アッシャーなどのトップ・ミュージシャンを彷彿させる。

音楽市場の縮小が叫ばれる中、あえて、2000年代初頭の贅沢で華やかな、そして高コストなR&Bを、現代の 音楽シーンに投げ込んだ彼の挑戦は非常に面白い。スキャンダルを乗り越えて、彼の音楽が話題の中心になる日もそう遠くはなさそうだ。

Producer
ISM, A1 Bentley, Prince Chrishan

 
 

Mayer Hawthorne ‎– Man About Town [2016 VAGRANT]

2009年に発表した甘いメロディのミディアムナンバー、”Just Ain't Gonna Work Out”がソウル・ファンの注目を集めて以来、ソロ活動に客演にと大忙しのミシガン州はアナーバー出身のシンガー・ソングライター、メイヤー・ホーソン。2015年にリリースされたDJのジェイク・ワンとのユニット、タキシード名義でのアルバム以来となるオリジナル・アルバムが、米BMG傘下のロック・レーベル、ベイグラントから発表された。

モーメンツやマンハッタンズを彷彿させる、ロマンティックなメロディのソウル・ミュージックにはじまり、ガレージ・ロックやラップ風のヴォーカルのR&B、4つ打ちのディスコ・ミュージックまで、作品ごとに新しいスタイルを取り入れてきた彼。だが、今回のアルバムでは、新しい試みを少し抑え、ファースト・アルバムから続く、ソウル・ミュージックとヒップホップを融合させた作風に集中している。

実質的な1曲目、”Cosmic Love”は、ジェフ・ローバー・フュージョンの”Rain Dance”(ジャ・ルールとアシャンティが歌った、”Down 4 U”でサンプリングされたことでも有名だ)にも似た、ふわふわとしたキーボードの音色の上で、彼の甘い歌声が響くミディアム・バラード。彼の過去作が好きな人なら、この曲を聴いた瞬間にCDをレジに持って行くだろう。この後も、60年代のモータウン・サウンドを連想させる緻密なバンドの演奏に、ドラム・マシンの音色をアクセントとして加えたトラックと、軽快なメロディが心地よいミディアム・ナンバー”Book Of Broken Hearts”や、彼の声を幾重にも重ねて、デルフォニックスやシャイ・ライツを連想させる甘いコーラスを一人で再現した”Breakfast In Bed”など、どの曲がシングル・カットされても違和感のない良曲を次々と繰り出している。

そんな本作のハイライトは、本作では唯一、ロックに寄ったアップ・ナンバー”Love Like That”と、アナログ・シンセとホーン・セクションのリフが70年代のスライ・ストーンを思い起こさせる”Out Of Pocket”の2曲。デビュー・アルバムのころからちょくちょく見受けられる、彼の雑食性が反映された楽曲の一つだが、経験を重ねてしなやかさを増したヴォーカルのおかげで、ノーマン・ホイットフィールドが手掛けたテンプテーションズの楽曲のような、癖のあるソウル・ミュージックとして楽しめる。

甘い歌声とロマンティックなメロディ、そして歌声を引き立てる堅実で丁寧な伴奏の3つが揃った本作は、使われる音色こそ違えど、60年代、70年代のソウル・ミュージックに限りなく近い。過去の音楽を踏襲しつつ、現代のサウンドと融合させた彼の作品は、保守的だが新しい、何度聞いても飽きないものだ。

Producer
Mayer Hawthorne etc

Track List
1. Man About Town
2. Cosmic Love
3. Book Of Broken Hearts
4. Breakfast In Bed
5. Lingerie & Candlewax
6. Fancy Clothes
7. The Valley
8. Love Like That
9. Get You Back
10. Out Of Pocket





Man About Town
Mayer Hawthorne
Bmgri
2016-04-08


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