melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年01月

Gallant & Tablo & Eric Nam – Cave Me In [2017 Mind Of Genius, Warner Bros. Records]

2014年に配信限定でリリースしたEP『Zebra EP』が、大手ストリーミング・サイトのバイラル・チャートの上位に掲載され、ワーナー傘下のインディペンデント・レーベル、マインド・オブ・ジニアスからリリースした初のフル・アルバム『Ology』が、グラミー賞のベスト・オブ・アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートするなど、デビューからわずか数年の間に、急速な勢いで評価を上げているワシントンD.C.出身のシンガー・ソングライター、ガラント。彼の2017年に入って最初の作品が、この『Cave Me In』だ。

今回のシングルは、DJホンダやケロ・ワンの作品にも参加している、韓国のヒップホップ・グループ、エピック・ハイのフロントマンであるタブロや、アメリカを拠点に活動する韓国系アメリカ人のシンガーでタレントのエリック・ナムと一緒に録音したコラボレーション作品。プロデューサーは、ガラントと同じくロス・アンジェルスを拠点に活動するタイ・アコードと、彼の作品には珍しい、ちょっと異色の組み合わせによる楽曲だ。

タイ・アコードの手掛けるトラックは、アッシャーの『Looking 4 Myself』やトレイ・ソングス『Trigga』などの流れを汲む、コンピューターを駆使して作られた洗練されたもの。サンダーキャットの『Apocalypse』のように、幾重にも重ねられたシンセサイザーの伴奏や、ウィークエンドの”Starboy”を連想させる隙間の多いビートを、スタイリッシュなトラックに纏め上げた技術は、ロス・アンジェルスのアンダーグラウンド・シーンで活躍してきた彼の本領が発揮されたといっても過言ではない。そんなトラックの上で、マックスウェルのバラードを思い起こさせる繊細なメロディを、芯の太いバリトン・ヴォイスでじっくりと歌い上げるガラントと、スマートで甘いテナー・ヴォイスで歌い上げるエリックという、対称的なスタイルのヴォーカルが、裏声を織り交ぜながら色っぽく歌い上げている。

もっとも、個人的な感想だが、本作で一番面白いのはラップ担当のタブロだ。スヌープ・ドッグを彷彿させる、掴みどころのない飄々としたフロウで、ガラントの心がほっこりと温まる優しいバリトンと、エリック・ナムの甘くて繊細なテナーを繋ぐ、優れたバイ・プレイヤーになっている。

自分自身は、この曲はとても面白いと思う。ロス・アンジェルスを拠点に活動し、熱心な音楽ファンの厳しい目線に育てられてきたガラントが、ビルボードのHOT100に登場するようなヒット曲を意識しつつ、自分の経験や感性で、それを再解釈した。そういう視点で見ると、この曲はインディーズ作品の尖った雰囲気と、メジャー作品の聴きやすさが同居した、バランスの良い佳曲だと思う。だが、各アーティストの過去の作品と比較すると、ガラントの作品としては保守的だし、エリックやタブロの作品にしては斬新すぎるように映った。

もしかしたら、彼らはお互いに自分のパブリック・イメージを打ち破るために、あえて音楽性の異なる海外(まあ、エリックの活動拠点は半分がアメリカだけど)のミュージシャンと組んだのかな?と考えてしまう。だとすれば、彼らの目論見は見事に成功したと思う。ガラントにとって、メジャーの大衆性とアンダーグラウンドの先鋭性は両立できることを証明した曲であり、エリックとタブロにとっては、非英語圏のアジア人は、アメリカでR&Bやヒップホップをやっても成功しない、という固定観念を打ち破るきっかけになった。2017年のR&Bを語る上で外せない楽曲だと思う。

Producer
Ty Acord (Lophiile)

1.Cave Me In

 
Cave Me In
Mind of a Genius/Warner Bros.
2017-01-26

 

Gabriel Garzón-Montano – Jardin [2017 Stones Throw]

コロンビア人の父とフランス人の母の間に生まれ、幼いころからバッハの作品やクンビア、ファンクなど、色々な音楽を吸収してきた、ブルックリン出身のシンガー・ソングライター、ガブリエル・ガルゾン・モンターノ。ギターやドラムからバイオリンまで、色々な楽器の演奏技術を習得しながら、独学で作曲を始めた彼は、レニー・クラビッツなどの作品を手掛けたプロデューサー、ヘンリー・ヒルシュと出会ったところで大きな転機を迎える。

彼の協力のもと、2014年にリリースしたEP『Bishouné: Alma del Huila EP』は、楽曲制作だけでなく、ハンドクラップを含む演奏のほとんどを、自身の手で行ったという、DIY感満載の作品だった。だが、このアルバムは、ジャイルズ・ピーターソンなどのDJやミュージシャン達の間で注目を集め、フル・アルバムを出す前にもかかわらず、メイヤー・ホーソンやレニー・クラビッツなどのツアーでオープニング・アクトに起用されるきっかけになるほど、好評を博していた。

そんな前作から3年ぶりとなる、彼にとって初のフル・アルバム『Jardin』は、ロス・アンジェルスのインディー・レーベル、ストーンズ・スロウからのリリース。

ストーンズ・スロウといえば、マッドリヴのようなサンプリングを多用したクリエイターから、ジェイムズ・パンツのような電子音楽にシフトしたもの。そして、メイヤー・ホーソンのように70年代のソウルを独自の解釈で現代の音楽に落とし込んだものなど、一癖も二癖もある、個性豊かなアーティストが揃っているレーベル。その中で、彼がどんな音楽を生み出すのか、とても楽しみだった。

曲の感想を言う前に、結論だけ言ってしまうと。このアルバムは前作の前衛的な音楽性を継承しつつ、それを磨き上げた魅力的な作品だった。

まず、アルバムに先駆けて発表された、”Sour Mango”に耳を傾けると、こちらはどっしりとした重いビートの上で、耳に刺さるようなシンセサイザーのリフとハンドクラップの音が、楽曲に彩を添えているミディアム・ナンバー。ジェイムズ・パンツの作品にも通じる耳に刺さるような電子音の隙間で、線の細いしゃがれた声を上手に操って切々とうたい上げる姿が、なんとも切ない雰囲気を醸し出している良曲だ。

この曲につづく”Fruitflies”は、彼のクラシック音楽の素養が発揮された、鍵盤楽器の弾き語りをベースにしたバラード。もっとも、彼の音楽が単純な弾き語りのバラードなわけもなく、この曲では、鈴から電子音まで、色々な音を曲の随所に埋め込んで、ガブリエルがしっとりと歌うバラードに神秘的な空気を吹き込んでいる。

また、もう一つの先行リリース曲”The Game”は、90年代のヒップホップで使われていそうな、ポップだけど重みのあるバス・ドラムと、シンセサイザーの柔らかい伴奏を軸にした、音数の少ないシンプルなトラックの上で、ディアンジェロやジョージ・アン・マルドロウを連想させる、ラップと歌の中間のような、少し崩したメロディが乗っかるミディアム・ナンバー。ビートの作りはストーンズ・スロウ時代のアロー・ブラックの作品に似ているし、ヴォーカルはディアンジェロと似ているところが散見される。だが、この曲が彼らの音楽と決定的に異なるのは、彼の音楽が洗練されていることだ。耳を爽やかに抜けていくビートと、粗削りだがスマートな歌唱が、「ヒップホップとソウルの融合」という、多くのミュージシャンが取り組んだ題材に、新しい可能性を提示したと思う。

だが、本作の収録曲の中で、最も聴き逃せないのは"Crawl"だと思う。デビュー当時のジョン・レジェンドが好きな人にはたまらない、太く温かい音を使ったビートに乗せて、少し荒々しい歌声で、丁寧にメロディを歌い込む、ミディアム・ナンバー。細い声を振り絞って出す、ファルセットを効果的に使ったこの曲は、彼の作品の中では珍しく、前衛的な音楽の要素が非常に少ないものだ。

このアルバムは、前作で見せた先鋭的な側面を丁寧に磨き上げることで、斬新さと作品としての完成度を両立した良作だと思う。しかし、それ以上に面白いのは、前衛音楽にあるような、奇抜さや難解さを抑え込み、R&Bの枠組みに収めつつ、その枠組みを拡張したところだと思う。使う音色は、ジェイムズ・パンツやジョンティなどの電子音楽に近いものだし、ビートの中には、ジェイ・ディラやマッドリヴのような癖のあるものも少なくない。しかし、それだけにとどまらず、これらの音を使いつつ、ソウル・ミュージックとしても違和感なく聴けるメロディを組み込むことで、斬新さと保守的な側面の両方が混ざり合った楽曲に落とし込まれている。このセンスの良さは、クラシックから民族音楽まで、色々な音楽に慣れ親しんできた彼の視野の広さのおかげじゃないかと思う。

ここ10年、R&B業界の一大潮流になりつつある、異分野の音楽を取り込んだいわゆるオルタナティブR&B。この手法は、成功すればR&Bの新たな魅力を引き出すことができるが、援用する要素の選別、編集に失敗して、「R&Bっぽい何か」になってしまう作品も少なくなかった。その点、本作は、電子音楽を中心に、ファンク、クラシックなど要素を取り入れながら、R&Bの枠組みを拡張することに成功した、先鋭的だが、保守的なファンにも納得させることができそうなアルバムだ。アンダーソン・パックに続く、西海岸発の名作と呼ばれる日は来るのか、今から期待してしまう傑作だ。

Track List
1. Trial
2. Sour Mango
3. Fruitflies
4. The Game
5. Long Ears
6. Crawl
7. Bombo Fabrika
8. Cantiga
9. My Balloon
10. Lullaby




Jardin
Gabriel Garzon-Montano
Stones Throw
2017-01-27


BJ the Chicago Kid – In My Mind [2016 Motown]

19歳の時にミュージシャンを目指してロス・アンジェルスに移住。その後は、スティーヴィー・ワンダーやメアリーJ.ブライジ、ドクター・ドレやチャンス・ザ・ラッパーなどの作品に参加しながら、3枚のミックス・テープと1枚のEPをリリース。新しい音に敏感なリスナーや、次世代のヒット・メイカーを探すミュージシャンの間で注目を集め、2012年にモータウンと契約した、シカゴ出身のシンガー・ソングライター、BJザ・シカゴ・キッドことブライアン・ジェイムズ・カレッジ。レーベルとの契約から4年、2014年に発表したミックス・テープ『The M.A.F.E. Project』から2年ぶりとなる新作で、彼にとって初のオリジナル・アルバムとなるのが、この『In My Mind』だ。

メジャー・デビューの前に発表したミックス・テープでは、昔の曲からサンプリングしたフレーズを効果的に使った、ヒップホップ色の強い曲を披露する一方、裏方としては、多くの人に受け入れられる作品が求められる有名ミュージシャンの曲に携わるなど、求められる音楽が異なるメジャーとアンダーグラウンドの両方のシーンを経験している彼。この作品では、その時の経験を活かした、先鋭的なのに大衆的なR&Bを聴かせてくれる。

まず、収録曲の中で特に気になるのは、同じシカゴ出身のチャンス・ザ・ラッパーをフィーチャーした”Church”だ。50セントやルーペ・フィアスコなどを手掛けてきた、フューチャリスティックス改めマイク&キーズがプロデュースしたこの曲は、 コンピューターを使って作った隙間の多いビートの上で、切々と歌い上げるミディアム・ナンバー。チャンス・ザ・ラッパーの曲にも通じる前衛的なトラックを使いながら、耳障りの良いメロディを埋め込むセンスはなかなかのものだ。

また、ミシシッピ州メリディアン出身のラッパー、ビッグ・クリットがゲストで参加した”The Resume”は、ドクター・ストレンジの名義の活動でも知られている、アイルランドのダブリン出身のプロデューサー、ショーン・クーパーが手掛けるバラード。トークボックスを使ったバック・コーラスとフィンガー・スナップを軸にしたトラックは、ドゥー・ワップとザップの音楽が混ざり合ったような、懐かしさと斬新さが入り混じった不思議なもの。その個性的なトラックの上で、落ち着いた雰囲気のバリトン・ヴォイスをじっくりと聴かせる姿は、聴けば聴くほど好きになる不思議な魅力を備えている。

この他にも、ウィークエンドやドレイクにも通じる、シンセサイザーの音色を駆使したモダンなトラックをバックに、ジェイミー・フォックスを彷彿させるセクシーなヴォーカルを披露する”Love Inside”や、ピアノっぽい音色のキーボードをバックに、ファルセットを多用した丁寧で色っぽい歌唱が光る”Shine”。ジーン・ナイトの”Mr. Big Staff”のフレーズと、90年代のヒップホップを思い起こさせるローファイなドラムを組み合わせたビートの上で、ディアンジェロを爽やかにしたようなヒップホップ色豊かなソウル・ミュージックを聴かせる”Turnin' Me Up”など、90年代のR&Bを連想させる曲から、近年のトレンドを押さえた曲まで、ファンの琴線を巧みに刺激するバラエティ豊かな楽曲が揃っている。

だが、なんといっても、この作品のハイライトは、ケンドリック・ラマーが参加した”The New Cupid”だろう。ラファエル・サディークの”Oh Girl”をサンプリングしたロマンティックな雰囲気のトラックの上で、ほかの曲では見られない、甘い歌声を響かせるミディアム・バラード。ケンドリック・ラマーも普段より柔らかい口調のラップを披露して、スウィートな楽曲に彩を添えている。自分だけかもしれないが、シカゴ出身のヴォーカル・グループ、シャイ・ライツの”Oh Girl”(ラファエル・サディークのものとは同名異曲)に通じる、優しい雰囲気が印象的だ。

このアルバムの面白いところは、90年代以降のヒット・チャートを賑わせた、色々なR&Bシンガーのスタイルを取り入れつつ、インターネットの普及で多くの人の耳に届くようになった、アンダーグラウンドのヒップホップやR&Bのエッセンスを随所に取り入れているところだろう。斬新なビートを耳馴染みのあるメロディと絡めたり、懐かしさを感じるトラックの上で、近年流行しているラップ風の歌唱を披露したりと、様々なタイプのR&Bの要素を組み合わせて、新鮮さと聴きやすさを両立しているところが面白い。おそらく、裏方仕事とアンダーグラウンド・シーンでの活動を両立していたことが、彼の音楽に絶妙なバランス感覚を与えたのだと思う。

スモーキー・ロビンソンやスティーヴィー・ワンダーにはじまり、リック・ジェイムスやエリカ・バドゥ、ベン・ロンクル・ソウルなど、大衆に受け入れられる名作を残しながら独創性を発揮してきたモータウンのミュージシャン達。彼らが作り上げてきたレーベルのカラーを、10年代のトレンドを踏まえつつ継承したのがBJザ・シカゴ・キッドだと思う。昔のモータウン・サウンドとは明らかに異なるが、往年のミュージシャンのように、新しいサウンドと商業的な成果を両立した、モータウンの歴史を継承する次世代のヒットメイカーの更なる飛躍に期待したい。

Producer
Ethiopia Habtemariam etc

Track List
1. Intro (Inside My Mind)
2. Man Down
3. Church
4. Love Inside
5. The Resume
6. Shine
7. Wait Til The Morning
8. Heart Crush
9. Jeremiah/World Needs More Love
10. The New Cupid
11. Woman's World
12. Crazy
13. Home
14. Falling On My Face
15. Turnin' Me Up




In My Mind
Bj the Chicago Kid
Motown
2016-02-19




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