melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年03月

Drake - More Life (A Playlist By October Firm) [2017 OVO Sound, Young Money Entertainment, Cash Money Records]

同じハイスクールに通う友人の父が経営するエージェントと契約したことをきっかけに、俳優として芸能活動をスタート。学園ドラマ『Degrassi: The Next Generation』などでレギュラーを務めたあと、ミュージシャンに転身して、複数のミックス・テープをリリース。ルーペ・フィアスコやトレイ・ソングスといった有名ミュージシャンも参加したこれらの作品が、音楽好きの間で注目を集めたことをきっかけに、ユニヴァーサル傘下のヤング・マネー、キャッシュ・マネーと契約を結んだ。カナダのトロント出身のシンガー・ソングライター、ドレイクことオーブリー・ドレイク・グラハム。

その後は、2017年までに4枚のフル・アルバムと複数のミックス・テープやコンピレーション・アルバムを発表。それらの作品は、彼に、全米チャートの1位やグラミー賞、ブリット・アワードを含む、多くの栄光をもたらした。本作は、そんな彼にとって、2016年の『Views』から僅か1年という短い期間を経て発表された22曲入りの新作がこのアルバム(プレスリリース等では「プレイリスト」と表記)。

今回の新作では、2016年10月にリリースされたシングル曲”Fake Love”が収録されている一方、同時期にリリースされた”Sneakin'”や”Two Birds, One Stone”、2017年に発表されたニッキー・ミナージュやリル・ウェインとのコラボレーション曲”No Frauds”等は収録されていない。だが、22曲81分超と、リリースの間隔を短くしつつ、リスナーの集中力も維持するために曲数を絞った作品が多い現代では珍しい、CD1枚の収録可能時間を超える大作に取り組んでいる。

アルバムに先駆けて発表されたのは”Fake Love”のほか、”Passionfruit”、”Free Smoke”の計3曲。まず、本作の収録曲で一番最初に公開された"Fake Love"だが、この曲は彼の作品に何度も参加しているニューヨーク出身のプロデューサー、ヴィニールズが手掛けた曲。エイコンやリアーナが使いそうな、南国風の煌びやかな音色のシンセサイザーを上物に使ったミディアム・ナンバー。遅いテンポのビートとラップ寄りの歌唱(歌うようなラップ?)は、ウォーの”Cisco Kid”にもちょっと似ている、爽やかな季節に似合いそうだ。

一方、ピアノの弾き語りから始まる”Free Smoke ”は、こちらも彼の曲を数多く手掛けているボイ・ワンダーがトラックを担当。遅いテンポのビートと重低音を基調にしたダークな雰囲気のトラックをバックに、刺々しい言葉を畳みかけるラップ・ナンバー。息継ぎも少なめに言葉を繋ぐ技術が光る曲だ。

そして、今回が初参加となるローグがプロデュースした”Passionfruit”は、少し遅いテンポの四つ打ちのビートを取り入れたハウス風のダンス・ナンバー。"Fake Love"でも使われたカリプソっぽい明るい音色やハンド・クラップを織り交ぜたトラックが心地よい楽曲。少し毛色は違うがアリーヤの"Rock The Boat"にも似た涼し気なメロディも聴きどころだ。

もちろん、本作が初披露の楽曲にも魅力的なものが揃っている。全部を紹介するわけにはいかないので、特に気になった曲に絞って紹介すると、ロンドン出身のラッパー、ギブスが参加した”No Long Talk”は緊迫感溢れるトラックの上で、青龍刀のように太く鋭い言葉を畳みかけるラップが格好良い楽曲。彼は、オーケストラっぽいフレーズを持ち込んだ"Kmt"でも、巧みなラップ技術を披露している。一方、今後の動向が気になるカニエ・ウエストがラップとプロデュースで参加した”Glow”は、ドレイクが歌に徹したロマンティックなスロー・ナンバー。歌とラップの両方を経験している二人らしい、息の合ったパフォーマンスとトラックが面白い。また、それ以外でも、アトランタ出身のラッパー、ヤング・サグをフィーチャーしたスロー・ナンバー”Ice Melts”も見逃せない曲だ。テンポを落としたトラップ・ビートを使い、歌うようにラップをする二人の姿が印象的だ。

このアルバムがリリースされる前、彼は自身の作品がグラミー賞の「ラップ部門だけ」にノミネートしていることを不満だと表明していたが、本作を聴けば、それも納得だと思う。彼の音楽には、メロディのついたラップや、多くの言葉を畳みかける歌など、歌orラップに分類するのが難しい曲も少なくない。良くも悪くも、歌とラップという分類を越えた曲が多いのだ。それは今回の作品も同じで、トラックの持ち味を引き出す、ジャンルにとらわれないパフォーマンスが多く収められている。

今回のアルバムは、「プレイリスト」と呼んでいるものの、その内容はCD等で販売されているフル・アルバムと何ら変わるものではないと思う。R&Bとラップという分類が過去のものになる時代、本作はその端緒となる優れた"プレイリスト"だと思う。

補足&訂正(3/27)
3月31日にフィジカル・リリースもされるようです。
あと、2017年時点のCDの収録可能時間は最大89分でした。
以上、補足、訂正いたします。

Producer
Drake, Oliver El-Khatib, 40 etc

Track List
1. Free Smoke
2. No Long Talk feat. Giggs
3. Passionfruit
4. Jorja Interlude
5. Get It Together feat. Black Coffee, Jorja Smith
6. Madiba Riddim
7. Blem
8. 4422 feat. Sampha
9. Gyalchester
10. Skepta Interlude
11. Portland feat. Quavo, Travis Scott
12. Sacrifices feat.2 Chainz, Young Thug
13. Nothings Into Somethings
14. Teenage Fever
15. KMT feat. Giggs
16. Lose You
17. Can't Have Everything
18. Glow feat Kanye West
19. Since Way Back feat. PARTYNEXTDOOR
20. Fake Love
21. Ice Melts feat. Young Thug
22. Do Not Disturb





More Life
Drake
Republic
2017-03-31

 

Tuxedo - Tuxedo II [2017 Stones Throw]

2017年初頭に約1年半ぶりの新作となる3曲入りのEP『Fux with the Tux』を発表。70年代終盤から80年代前半にかけて一斉を風靡した、電子楽器を多用したディスコ・ミュージックを現代のトレンドに合わせて再構築した楽曲で健在っぷりをアピールした、メイヤー・ホーソンとジェイク・ワンによるユニット、タキシード。同EPの発表からわずか1ヶ月という短い期間を経て、彼らにとって2枚目のフル・アルバムとなる新作『Tuxedo II』がリリースされた。

『Fux with the Tux』にも収録されている3曲"Fux With The Tux"、"Special"、"July"は別の記事で触れているので、ここでは簡単な説明に留めて置くが、実際に音を聴いてみた印象では、これらの既発曲はEPのヴァージョンをそのまま再録しているようだ。新しい発見といえば、"Fux With The Tux"の途中で挟まるMCがスヌープ・ドッグだったことだ。飄々とした声で煽るスタイルは、彼らしいといえば彼らしいが、大物な上、フォロワーの多いラッパーなので、ちょっと予想外だった。

さて、新録曲に目を向けると、2曲目に収められている"2nd Time Around"は"Fux With The Tux"の路線を踏襲したアップ・ナンバー。80年代のディスコ音楽を彷彿させるアナログ・シンセサイザーっぽい音色を使ったモダンなトラックと洗練されたメロディが光る楽曲。ゲヴィン・トゥレックの爽やかなバック・コーラスが、メイヤー・ホーソンの甘い歌声を引き立てている点も見逃せない。続く"Take A Picture"も同系統の曲だが、こちらはギターやホーンを加えたバック・トラックで、バーケイズなどのファンク・バンドを思い起こさせる華やかな雰囲気が印象的だ。

一方、中盤の2曲"Rotation"や"Shine"はギャップ・バンドの"Outstanding"やケニ・バーグの"Risin' to the Top"を連想させる。スタイリッシュな伴奏が心地よいミディアム・ナンバー。"Rotatiom"はキラキラとしたシンセサイザーのリフをアクセントに使った煌びやかな演奏をバックに、ゆったりとしたメロディを丁寧に歌った"Outstanding"風の楽曲。レイドバックしたトラックのせいか、サビの歌声がLVやネイト・ドッグのような西海岸のヒップホップ・シンガーっぽく聴こえるのがちょっと面白い。そして、"Shine"は太いベースの音と、ピアノっぽいキーボードや煌びやかなシンセサイザーの伴奏が高級感を漂わせる楽曲。ゲヴィンの甘酸っぱい歌声と絡み合うメイヤーのヴォーカルが、普段以上に色っぽいエロティックな楽曲だ。

それ以外の曲でも、色々な音色のシンセサイザーを使い分けた極彩色の演奏が印象的なインストゥルメンタル・ナンバー”Scooter’ s Groove”や、この曲の手法をヴォーカル曲に取り入れたディスコ・ブギーの”U Like It”など、前作でも見せたディスコ音楽への愛着を惜しげもなく披露した良質なトラックが揃っている。

ブルーノ・マーズの『24K』やマーク・ロンソンの『Uptown Special』のような大ヒット作から、ストーンズ・スロウの同僚だったディム・ファンクもメンバーに名を連ねるユニット、ナイト・ファンクの『Nite-Funk EP』や本作にも参加しているゲヴィン・トゥレックの『Good Look For You EP』のようなコアなファン向けのアルバムまで、多くの作品が70年代末から80年代中盤のディスコ音楽から刺激を受けている。その中で、2人の作品が多くのファンを引き付けてきたのは、機材選びからヴォーカルのアレンジまで曲の全てに気を配って、当時の雰囲気を忠実に再現してきたからだと思う。

もちろん、彼らの作品は過去の音楽の単純なトレースではなく、当時の手法を使いながら、現在のリスニング環境や二人の持ち味を意識して作られている。だからこそ、往年の音楽の手法を取り入れても、しっかりと独自性を発揮しているのだと思う。彼らの作品は偶然の産物ではない、実力によって構築されたものだと再認識させられる、良質なソウル・ミュージックのアルバムだと思う。

Producer
Tuxedo

Track List
1. Fux With The Tux feat. Snoop Dogg
2. 2nd Time Around
3. Take A Picture
4. Rotational
5. Shine
6. Scooter’ s Groove
7. U Like It
8. Back In Town
9. Special
10. Livin’ 4 Your Lovin’
11. July





Tuxedo II
Tuxedo
Stones Throw
2017-03-24

Mindless Behavior ‎– #officialMBmusic [2016 Conjunction Entertainment, EMPIRE]

2010年にシングル『My Girl』(テンプテーションズの同名曲とは別のオリジナル作)でデビュー。 その後は2011年に1枚目のアルバム『#1 Girl』を、2013年には2作目のフル・アルバムとなる『All Around the World』をインタースコープから発売。それぞれ全米アルバム・チャートの7位と6位に送り込んだロス・アンジェルス発のボーイズ・グループ、マインドレス・ビヘイビヴァ。その後は、メンバーの脱退など、苦労が続いたが、オリジナル・メンバーのプリンストンに、新メンバーのEJとマイク・リヴァーを加えた新体制で録音した3枚のアルバムが本作。

このアルバムがリリースされた2016年は、ヴォーカル・グループにとって厳しい時期だったと思う。個人でも高品質の録音機材を調達できるうえ、レーベルの垣根を越えたコラボレーションが当たり前になった時代に、同じメンバーでパフォーマンスを続けることによるマンネリ化や、人間関係のトラブルなどによる活動の停滞に気を配りながら活動を続けなければいけないヴォーカル・グループは、機動的に活動できるソロ・アーティストに比べて少数派になるのは仕方のないことだと思う。実際、彼らも本作の録音前にメイン・ヴォーカルを含む大部分のメンバーが入れ替わっている。だが、今回の作品では、グループ名義による録音という点を最大限に活用して、個性豊かなヴォーカルが複雑に絡み合う、ソロ・アーティストには作れない音楽を聴かせている。

アルバムのオープニングを飾るのは、本作に先駆けてシングルとして発売された”#iWantDat”。この曲は、ロス・アンジェルス出身のバッド・ラックとコンプトン出身のプロブレムをフィーチャーしたアップ・ナンバー。クリス・ブラウンやT.I.の楽曲を思い起こさせる、温かい音色のシンセサイザーとリズム・マシンを使ったトラックをバックに、新しいリード・ヴォーカルのEJがラップっぽい歌唱を披露している。オート・チューンを使ったバック・コーラスがシンセサイザーの音色と一体化して、一つの楽器のように機能している点も面白い。続く”FreaksOnly”もバッド・ラックがゲストで参加。こちらの曲も、温かい音色の電子楽器を活かしたトラックだが、音数を減らしてヴォーカルをじっくりと聴かせている点が大きな違いだ。

一方、”#Blur”はトラップ・ビートを取り入れたミディアム・ナンバー。スクラッチやサイレン、声ネタを挟みこんだトラックは、Tペインやリル・ウェインの楽曲を思い起こさせる。EJの気怠そうなヴォーカルもワイルドで格好良い。これに対し、”#DanceTherapy”は本作で唯一、四つ打ちのビートを取り入れたEDMっぽい華やかで高揚感のある楽曲。他の曲で使われている音色と、似ている音を出す機材を使うことで、アルバムにバラエティと統一感を与えている。色々なタイプのビートに対応する3人の適応力と、一つの音色を使って色々なスタイルのトラックを作り上げる制作陣の技術力に驚かされる。

そして、本作からシングル・カットされた、もう一つの楽曲”#OverNightBag”は、アッシャーやマーカス・ヒューストンのヒット曲を連想させる、ゆったりとしたテンポのビートとレイド・バックしたメロディが印象的なミディアム・バラード。ハンド・クラップなどを織り交ぜながらじっくりと歌を聴かせるロマンティックな楽曲だ。また、このタイプの曲が好きな人には”#ComeUp”もオススメ。こちらは、メロディはラップ寄りのラフなものだが、声の加工を抑え、EJのしっとりとした歌声と、感情を剝き出しにして歌う姿を強調したダイナミックなバラードだ。

あと、自分の中では見逃せないと思ったのは、本作では珍しいタイプのディスコ・ナンバー”#1UCall”だ。乾いた音色のギターと図太い音を響かせるシンセ・ベースを使ったトラックは、キャミオやギャップ・バンドのような80年代のファンク・バンドを彷彿させる。シンセサイザーなどを使ってディスコ・サウンドを再現するグループは珍しくないが、ディスコ・ブギーを一般向けの楽曲に落とし込む度胸と技術は凄いと思う。

今回のアルバムは、過去の2作品に比べると、魅力的な曲は多いが保守的な印象を受ける。トラップやディスコ・サウンドなど、ブラック・ミュージックのトレンドを的確に押さえてはいるものの、いずれも、他の人が成功した手法で、彼らが生み出した新しいスタイルというものは見られなかった。だが、それを差し引いても、個別の楽曲のクオリティ粒が立っていて完成度は高い。

B2Kやプリティー・リッキーのように、ポップスターとしてのわかりやすさと、R&Bのアーティストに求められる歌唱力や斬新さを絶妙なバランス感覚で両立した稀有なグループの一つ。一人では作れない、複雑なメロディや掛け合いの妙を楽しみたい人にはうってつけの佳作だ。

Producer Walter Millsap III, Walter Millsap IV, Alec Jace Millsap, Balewa Muhammad, Candice Nelson, Brian Peters, Teak Underdue etc

Track List
1. #iWantDat feat. Bad Lucc, Problem
2. #FreaksOnly feat. Bad Lucc
3. #Lamborghini
4. #Blur
5. #DanceTherapy
6. #Better feat. KR
7. #OverNightBag
8. #1UCall
9. #ComeUp
10. #SongCry
11. #Muzik





#Officialmbmusic (+ 2 Bonus Tracks)
Mindless Behavior
Conjunction
2016-08-12

 
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