90年代にコモンやジェイ・ディラといった、多くの人気ヒップホップ・ミュージシャンの作品を手掛けたことで名を上げ、近年はエリカ・バドゥやカニエ・ウエストなどの作品にも起用されている、ミシガン州デトロイト出身のドラマー兼プロデューサー、カリーム・リギンス。
そんな彼は、演奏者としてもオスカー・ピーターソンやダイアナ・クラールの作品に参加するなど、多くの実績を残していることで知られている。2016年には、カナダ出身のクリエイター、ケイトラナダのアルバム『99.9%』に収録されている”Bus Ride”にフィーチャーされたことも記憶に新しい。
本作は、そんな彼にとって、2012年の『Alone Together』以来となる通算2枚目のオリジナル・アルバム。前作同様、ヒップホップの制作手法とドラムの演奏を組み合わせた、彼らしい作品になっている。
アルバムの実質的な1曲目である”Other Side of the Track”は、ジュニー・モリソンの”Spirit”をサンプリングしたミディアム・ナンバー。DJシャドウとカット・ケミストのツアーでプレイされたことも話題になった”A Whole Lot Of Love”(原曲はレッド・ツェッペリン、シャドウ達はデニス・コフィーのカヴァー・ヴァージョンをプレイ)を彷彿させる、荒々しいギターのサウンドが格好良い楽曲。”Spirit”からサンプリングされたキーボードの音色が、刺々しい雰囲気のトラックをマイルドにしている。
これに対し、同じ”Spirit”をサンプリングしながら、”Other Side of the Track”全く違う雰囲気を醸し出しているのが、デトロイト出身の詩人、ジェシカ・ケア・ムーアをフィーチャーした”Suite Poetry”だ。キーボードの音色をサンプリングした前者に対し、こちらはピアノの演奏を中心に引用。ニッキ・ジョヴァンニを連想させる透き通った声と、重厚で存在感のある言葉が印象的。同じレコードを使いながら、対極の作品を生み出せる彼のスキルとセンスが光る曲だ。
また、ロックやソウルをサンプリングした本作では異色の、電子音楽を使った曲が”Pay.gio”だ、ジョエル・ヴァンドローゲンブロエックが81年に発表した”Computer Groove”を引用したこの曲は、80年代の電子音楽で多用されていたアナログ・シンセサイザーの音色を効果的に使った近未来的な雰囲気の曲。電子音楽をジャズやソウルと同じように、ヒップホップの素材として分解、再構築する姿は、彼とも縁の深いジェイ・ディラの作風を思い起こさせる。
だが、本作の目玉はなんといっても”Bahia Dreamin’”だろう。彼がプロデュースしたエルザイの”Two 16's”のトラックを組み替えた曲で、原曲の雰囲気を生かしつつ、打楽器などの音を追加したインストゥメンタル作品になっている。中盤以降にジャズのピアノトリオの演奏を挟み込み、混ぜ合わせるセンスは、ヒップホップのプロデューサーとジャズ・ドラマーという、二つの顔を持っている彼の持ち味が発揮された楽曲だ。
今回のアルバムでも、彼のビート・メイカーとしての高いセンスと、豊富な演奏経験が反映された正確無比、かつ躍動感溢れるグルーヴが堪能できる。これだけ確固たる作風を持ちながら、収録された29曲一つ一つに個性を与えられるのは、ヒップホップやR&B、ジャズの世界で、いろいろなスタイルのアーティストと一緒に作品を生み出してきたからだろう。
長いキャリアを通して、多くの音楽を見聞きし、経験してきた彼にしかつくれない、魅力的なインストゥメンタル作品。歌やラップが入っていない音楽は苦手な人、ヒップホップや電子音楽のようなコンピュータを使った音楽が苦手な人にこそ、ぜひ聞いてほしい。トラックメイカーの奥深い世界の一端を垣間見れると思う。
Producer
Karriem Riggins
Track List
1. Suite Intro
2. Other Side of the Track
3. Yes Yes Y’all
4. Invasion
5. Trombone Love
6. Crystal Stairs
7. Sista Misses
8. Detroit Funk
9. Oddness
10. Tandoor Heat
11. Chop Chop
12. My Reflection
13. Dirty Drum Warm Up
14. Pay.gio
15. Suite Poetry feat. Jessica Care Moore
16. 4Es’J
17. Joy and Peace
18. Cheap Suite 1
19. Cheap Suite 2
20. Cheap Suite 3
21. Cheap Suite 4
22. Never Come Close
23. Re-doze
24. Bahia Dreamin’
25. Cheap Suite 5
26. Cia
27. Keep It On
28. Fluture
29. Suite Outro – Hodge, Poyser, Riggins
そんな彼は、演奏者としてもオスカー・ピーターソンやダイアナ・クラールの作品に参加するなど、多くの実績を残していることで知られている。2016年には、カナダ出身のクリエイター、ケイトラナダのアルバム『99.9%』に収録されている”Bus Ride”にフィーチャーされたことも記憶に新しい。
本作は、そんな彼にとって、2012年の『Alone Together』以来となる通算2枚目のオリジナル・アルバム。前作同様、ヒップホップの制作手法とドラムの演奏を組み合わせた、彼らしい作品になっている。
アルバムの実質的な1曲目である”Other Side of the Track”は、ジュニー・モリソンの”Spirit”をサンプリングしたミディアム・ナンバー。DJシャドウとカット・ケミストのツアーでプレイされたことも話題になった”A Whole Lot Of Love”(原曲はレッド・ツェッペリン、シャドウ達はデニス・コフィーのカヴァー・ヴァージョンをプレイ)を彷彿させる、荒々しいギターのサウンドが格好良い楽曲。”Spirit”からサンプリングされたキーボードの音色が、刺々しい雰囲気のトラックをマイルドにしている。
これに対し、同じ”Spirit”をサンプリングしながら、”Other Side of the Track”全く違う雰囲気を醸し出しているのが、デトロイト出身の詩人、ジェシカ・ケア・ムーアをフィーチャーした”Suite Poetry”だ。キーボードの音色をサンプリングした前者に対し、こちらはピアノの演奏を中心に引用。ニッキ・ジョヴァンニを連想させる透き通った声と、重厚で存在感のある言葉が印象的。同じレコードを使いながら、対極の作品を生み出せる彼のスキルとセンスが光る曲だ。
また、ロックやソウルをサンプリングした本作では異色の、電子音楽を使った曲が”Pay.gio”だ、ジョエル・ヴァンドローゲンブロエックが81年に発表した”Computer Groove”を引用したこの曲は、80年代の電子音楽で多用されていたアナログ・シンセサイザーの音色を効果的に使った近未来的な雰囲気の曲。電子音楽をジャズやソウルと同じように、ヒップホップの素材として分解、再構築する姿は、彼とも縁の深いジェイ・ディラの作風を思い起こさせる。
だが、本作の目玉はなんといっても”Bahia Dreamin’”だろう。彼がプロデュースしたエルザイの”Two 16's”のトラックを組み替えた曲で、原曲の雰囲気を生かしつつ、打楽器などの音を追加したインストゥメンタル作品になっている。中盤以降にジャズのピアノトリオの演奏を挟み込み、混ぜ合わせるセンスは、ヒップホップのプロデューサーとジャズ・ドラマーという、二つの顔を持っている彼の持ち味が発揮された楽曲だ。
今回のアルバムでも、彼のビート・メイカーとしての高いセンスと、豊富な演奏経験が反映された正確無比、かつ躍動感溢れるグルーヴが堪能できる。これだけ確固たる作風を持ちながら、収録された29曲一つ一つに個性を与えられるのは、ヒップホップやR&B、ジャズの世界で、いろいろなスタイルのアーティストと一緒に作品を生み出してきたからだろう。
長いキャリアを通して、多くの音楽を見聞きし、経験してきた彼にしかつくれない、魅力的なインストゥメンタル作品。歌やラップが入っていない音楽は苦手な人、ヒップホップや電子音楽のようなコンピュータを使った音楽が苦手な人にこそ、ぜひ聞いてほしい。トラックメイカーの奥深い世界の一端を垣間見れると思う。
Producer
Karriem Riggins
Track List
1. Suite Intro
2. Other Side of the Track
3. Yes Yes Y’all
4. Invasion
5. Trombone Love
6. Crystal Stairs
7. Sista Misses
8. Detroit Funk
9. Oddness
10. Tandoor Heat
11. Chop Chop
12. My Reflection
13. Dirty Drum Warm Up
14. Pay.gio
15. Suite Poetry feat. Jessica Care Moore
16. 4Es’J
17. Joy and Peace
18. Cheap Suite 1
19. Cheap Suite 2
20. Cheap Suite 3
21. Cheap Suite 4
22. Never Come Close
23. Re-doze
24. Bahia Dreamin’
25. Cheap Suite 5
26. Cia
27. Keep It On
28. Fluture
29. Suite Outro – Hodge, Poyser, Riggins