melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年06月

Karriem Riggins - Headnod Suite [2017 Stones Throw]

90年代にコモンやジェイ・ディラといった、多くの人気ヒップホップ・ミュージシャンの作品を手掛けたことで名を上げ、近年はエリカ・バドゥやカニエ・ウエストなどの作品にも起用されている、ミシガン州デトロイト出身のドラマー兼プロデューサー、カリーム・リギンス。

そんな彼は、演奏者としてもオスカー・ピーターソンやダイアナ・クラールの作品に参加するなど、多くの実績を残していることで知られている。2016年には、カナダ出身のクリエイター、ケイトラナダのアルバム『99.9%』に収録されている”Bus Ride”にフィーチャーされたことも記憶に新しい。

本作は、そんな彼にとって、2012年の『Alone Together』以来となる通算2枚目のオリジナル・アルバム。前作同様、ヒップホップの制作手法とドラムの演奏を組み合わせた、彼らしい作品になっている。

アルバムの実質的な1曲目である”Other Side of the Track”は、ジュニー・モリソンの”Spirit”をサンプリングしたミディアム・ナンバー。DJシャドウとカット・ケミストのツアーでプレイされたことも話題になった”A Whole Lot Of Love”(原曲はレッド・ツェッペリン、シャドウ達はデニス・コフィーのカヴァー・ヴァージョンをプレイ)を彷彿させる、荒々しいギターのサウンドが格好良い楽曲。”Spirit”からサンプリングされたキーボードの音色が、刺々しい雰囲気のトラックをマイルドにしている。

これに対し、同じ”Spirit”をサンプリングしながら、”Other Side of the Track”全く違う雰囲気を醸し出しているのが、デトロイト出身の詩人、ジェシカ・ケア・ムーアをフィーチャーした”Suite Poetry”だ。キーボードの音色をサンプリングした前者に対し、こちらはピアノの演奏を中心に引用。ニッキ・ジョヴァンニを連想させる透き通った声と、重厚で存在感のある言葉が印象的。同じレコードを使いながら、対極の作品を生み出せる彼のスキルとセンスが光る曲だ。

また、ロックやソウルをサンプリングした本作では異色の、電子音楽を使った曲が”Pay.gio”だ、ジョエル・ヴァンドローゲンブロエックが81年に発表した”Computer Groove”を引用したこの曲は、80年代の電子音楽で多用されていたアナログ・シンセサイザーの音色を効果的に使った近未来的な雰囲気の曲。電子音楽をジャズやソウルと同じように、ヒップホップの素材として分解、再構築する姿は、彼とも縁の深いジェイ・ディラの作風を思い起こさせる。

だが、本作の目玉はなんといっても”Bahia Dreamin’”だろう。彼がプロデュースしたエルザイの”Two 16's”のトラックを組み替えた曲で、原曲の雰囲気を生かしつつ、打楽器などの音を追加したインストゥメンタル作品になっている。中盤以降にジャズのピアノトリオの演奏を挟み込み、混ぜ合わせるセンスは、ヒップホップのプロデューサーとジャズ・ドラマーという、二つの顔を持っている彼の持ち味が発揮された楽曲だ。

今回のアルバムでも、彼のビート・メイカーとしての高いセンスと、豊富な演奏経験が反映された正確無比、かつ躍動感溢れるグルーヴが堪能できる。これだけ確固たる作風を持ちながら、収録された29曲一つ一つに個性を与えられるのは、ヒップホップやR&B、ジャズの世界で、いろいろなスタイルのアーティストと一緒に作品を生み出してきたからだろう。

長いキャリアを通して、多くの音楽を見聞きし、経験してきた彼にしかつくれない、魅力的なインストゥメンタル作品。歌やラップが入っていない音楽は苦手な人、ヒップホップや電子音楽のようなコンピュータを使った音楽が苦手な人にこそ、ぜひ聞いてほしい。トラックメイカーの奥深い世界の一端を垣間見れると思う。

Producer
Karriem Riggins

Track List
1. Suite Intro
2. Other Side of the Track
3. Yes Yes Y’all
4. Invasion
5. Trombone Love
6. Crystal Stairs
7. Sista Misses
8. Detroit Funk
9. Oddness
10. Tandoor Heat
11. Chop Chop
12. My Reflection
13. Dirty Drum Warm Up
14. Pay.gio
15. Suite Poetry feat. Jessica Care Moore
16. 4Es’J
17. Joy and Peace
18. Cheap Suite 1
19. Cheap Suite 2
20. Cheap Suite 3
21. Cheap Suite 4
22. Never Come Close
23. Re-doze
24. Bahia Dreamin’
25. Cheap Suite 5
26. Cia
27. Keep It On
28. Fluture
29. Suite Outro – Hodge, Poyser, Riggins





Headnod Suite
Karriem Riggins
Stones Throw
2017-02-24

Taj Mahal & Keb' Mo' - TajMo [2017 Concord Records]

68年に、自身の名前を冠したアルバム『Taj Mahal』でメジャー・デビュー。ジャズやソウル、カリプソやゴスペルなど、色々な音楽を飲み込んだスタイルと高い演奏技術で注目を集め、69年にはローリング・ストーンズが制作した映画「The Rolling Stones Rock and Roll Circus」に出演。92年にはライ・クーダとのコラボレーション・アルバム『Rising Sons』を発表するなど、50年に渡って音楽業界の一線で活躍してきた、ニューヨーク出身のシンガー・ソングライター、タジ・マハルことヘンリー・セントクレア・フレデリックス。

かたや、80年にケヴィン・ムーアの名義で発表したアルバム『Rainmaker』でレコード・デビュー。その後は、ブルースやカントリー、ゴスペルなどへの造詣を活かした作風で、3度もグラミー賞を獲得。2015年にはバラク・オバマ大統領(当時)がホワイト・ハウスで開催したコンサートに、アッシャーやスモーキー・ロビンソン、トロンボーン・ショーティーなどと一緒に出演したことも話題になった、サウス・ロス・アンジェルス出身のシンガーソングライター、ケブ・モことケヴィン・ルーズベルト・ムーア。

双方ともに長いキャリアと豊富な実績を誇り、確固たる個性を打ち出してきた二人による、初のコラボレーション作品が、このアルバムだ。

ケブ・モーのレコード・デビューをタジ・マハルが口添えし、ステージでは何度も共演するなど、これまでにも多くの接点があった二人だが、1枚のアルバムを一緒に作るのはこれが初めて。近年も、ヴァレリー・ジューンウィリアム・ベル、エスペランザ・スポルディングといった、大人向けのアーティストが新作を発表しているコンコードからのリリースで、二人の持ち味ともいえる雑食性が発揮されたブルース作品になっている。

アルバムの1曲目を飾る”Don't Leave Me Here”は、ビリー・ブランチの泥臭いブルース・ハープで幕を開けるミディアム・ナンバー。マディ・ウォーターズを彷彿させる荒々しいヴォーカルは、60年代初頭のチェス・レコードの作品を思い起こさせる。しかし、サデアス・ウィザスプーンの重々しいドラムや、3人のホーン・セクションによる重厚な伴奏のおかげで、当時の作品にはない華やかさと高級感が漂っている。

これに対し、ケブ・モーが主導した”All Around The World”は、軽快な伴奏と力強い歌声の組み合わせが心地よいポップなミディアム・ナンバー。フランク・ザッパやオドネル・リーヴィーなどの作品に参加している大ベテラン、チェスター・トンプソンがドラムを担当し、マイケルB.ヒックスが軽妙なキーボードの演奏を聴かせるポップな楽曲。ドン・ブライアントウィリアム・ベルにも通じる泥臭い歌を聴きやすい音楽にアレンジしてみせる、彼らの編集能力が光る曲だ。

一方、ヴァーブやコンコードからアルバムを発表している、ジャズ・シンガーのリズ・ライトをフィーチャーした”Om Sweet Om”は、フォークソングの要素を取り入れた、牧歌的な雰囲気が印象的な曲。チェスター・トンプソンやブルースハープ担当のリー・オスカーといった、ジャズ畑のミュージシャンと、キーボードのフィル・マデイラやパーカッションのクリスタル・タリフェロなど、ロックやポップスに強いミュージシャンを組み合わせることで、ゆったりとした雰囲気を保ちつつも、正確で隙のない、ハイレベルなパフォーマンスを聴かせている。

そして、二人の持ち味ともいえる雑食性が最大限発揮されたのが”Soul”だ。サデアス・ウィザスプーンやマイケルB.ヒックスに加え、シーラE.がパーカッションで参加。タジ・マハルがウクレレやバンジョーを担当したこの曲は、ハワイアンともカリプソとも異なる、陽気で泥臭いサウンドが心地よい曲。どのジャンルにも分類できないが、聴きやすく、楽しい雰囲気の音楽が多い彼ららしい佳曲だ。

今回のアルバムでは、コラボレーション作品に多い、意外性に富んだ楽曲は少なく、どちらかといえば、二人の音楽性が上手く混ざり合った良曲が多い。両者の音楽性が、ブルースをベースにしつつ、色々な音楽を混ぜ込んだものという点も大きいだろう。しかし、華やかな音色の楽器を使って、重厚なブルースにポップな空気を吹き込むのが得意なタジと、ヴォーカルの良さを引き出す技術の高さが魅力のケブという風に、両者の強みが少しずつ違うこともあり、二人のスタイルをベースにしつつも、各人のソロ作品とは一味違う、独特の音楽を生み出している。

ブルースやゴスペル、ソウル・ミュージックなど、二人が親しみ、演奏してきたアメリカの色々な音楽を一枚のアルバムに凝縮した、濃密で充実した作品。アデルやメイヤー・ホーソンのように、往年のブラック・ミュージックから多くの影響を受けたアーティストが人気を集め、BTSがケブ・モーの"Am I Wrong"をサンプリングした楽曲をヒット・チャートに送り込むなど、ルーツ・ミュージックから影響を受けた音楽をたくさん聴くことができる現代。そんな時代だからこそ聴きたい、懐かしいけど新鮮なアルバムだ。

Producer
Keb' Mo', Taj Mahal

Track List
1. Don't Leave Me Here
2. She Knows How To Rock Me
3. All Around The World
4. Om Sweet Om
5. Shake Me In Your Arms
6. That's Who I Am
7. Diving Duck Blues
8. Squeeze Box
9. Ain't Nobody Talkin'
10. Soul
11. Waiting On The World To Change




TAJ MAHAL & KEB' MO' [12 inch Analog]
TAJ MAHAL & KEB' MO'
TAJMO
2017-06-16

Big Boi ‎– Boomiverse [2017 Epic]

ジョージア州サバンナ生まれのラッパー、ビッグ・ボーイこと、アントワン・アンドレ・パットンは、アトランタのハイスクールに通っていたころ、同じクラスだったアンドレ3000と知り合い、ヒップホップ・デュオを結成。オーガナイズド・ノイズがリミックスを担当したTLCの”What About Your Friends” に客演したことで、一気に名を上げる。その後、彼らは、正式にヒップホップ・グループ、アウトキャストを結成。TLCも所属するラ・フェイスと契約する。

93年にアルバム『Southernplayalisticadillacmuzik』でデビューすると、2006年までに6枚のアルバムと、3曲の全米ナンバー・ワン・ヒット”Ms. Jackson”、”Hey Ya!”、”The Way You Move”を含む多くのシングルを発表。中でも、二人のソロ作品をセットにした2003年の2枚組のアルバム『Speakerboxxx/The Love Below』は、全世界で2000万枚以上売り上げ、ヒップホップのアルバムとしては史上初となる(そして2017年時点では唯一の)グラミー賞の主要4部門を獲得した作品となった。

しかし、2006年の『IdleWild』以降は活動が停滞。二人はソロ活動に軸足を移し始める。

ビッグ・ボーイも、2010年に初のソロ作品『Sir Lucious Left Foot: The Son of Chico Dusty』をデフ・ジャムから発表。アルバム・チャートで3位を獲得する成功を収めると、その後も複数のアルバムやミックステープを発表。その一方で映画にも出演するなど、活躍の場を広げてきた。

このアルバムは、2015年にエレクトロ・ミュージックのユニット、ファントグラムとのコラボレーション・ユニット、ビッグ・グラムス名義で発表した『Big Grams』以来、自身名義としては2012年の『Vicious Lies and Dangerous Rumors』以来となるオリジナル・アルバム。ダンジョン・ファミリーの盟友、オーガナイズド・ノイズを中心に、スコット・ストーチやマニー・フレッシュ、DJダヒなど、新旧の名プロデューサーとコラボレーションしながら、彼の個性を強く反映したポップで斬新なヒップホップを聴かせてくれる。

本作の収録曲で、異彩を放っているのはオーガナイズド・ノイズがプロデュースした”Kill Jill”だろう。日本人プロデューサー、アウラ・クオリックのトランス・ナンバー”DATA 2.0”をサンプリングしたこの曲は、初音ミクのヴォーカルを声ネタに使った異色の楽曲。初音ミクの透き通った歌声と、淡々と歌う姿、精巧な人形のような不気味さを感じさせる。映画「キル・ビル」をもじったタイトルやMVなど、日本を意識した要素の多い作品だが、日本人の目には奇異に映ってしまうのはご愛敬。こんな奇抜な曲でも、いつも通りコミカルなラップを聴かせるビッグ・ボーイの熟練の技にも注目してほしい。

これに対し、マルーン5のアダム・レヴィーンとスリーピー・ブラウンをフィーチャーした”Mic Jack”は、若き日のマーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーが活躍していた、60年代のモータウンのソウル・ミュージックを彷彿させるアップ・ナンバー。軽快なビートをバックに、親しみやすいメロディを軽やかに歌うアダムやブラウンの存在が光っている。アウトキャストの名義で発売した彼のソロ曲”The Way You Move”にも通じる、往年のソウル・ミュージックのポップなサウンドとキャッチーなメロディを、現代風にアレンジした良曲だ。

一方、彼と同じアトランタ出身のラッパー、グッチ・メインが参加し、ピンプCの声を引用した”In The South”では、リル・ウェインやT.I.のように、トラップ・ビートに乗せて、ワイルドなラップを披露している。ロックやソウル・ミュージックのエッセンスを取り入れた奇想天外な曲が目立つビッグ・ボーイだが、この曲のような流行のトラックもきっちりと乗りこなしている。マイアミ生まれ、アトランタ育ちのプロデューサーTM88が作るビートも格好良い。

また、新作『Cannabis』も好調なエリック・ベリンガーを起用した”Overthunk”も見逃せない曲だ。オーガナイズド・ノイズが提供したビートは、ジャーメイン・デュプリが作りそうなバウンズ・ビート。その上で、ゆっくりと粘り強く歌うエリックと、トゥイスタを連想させる早口のラップを披露するビッグ・ボーイの対照的なパフォーマンスが光る佳曲。アウトキャストの作品でも、見せてくれた高速ラップのスキルが健在なことを再確認させてくれる。クリエイターとしての実力だけでなく、ラッパーとしてのスキルの高さもずば抜けている彼ならではの作品だ。

今回のアルバムでも、過去の作品同様、我々の想像の斜め上を行く奇想天外なサウンドと、トラップやバウンズ・ビートといったアメリカ南部出身のラッパーが得意とするスタイルを両立した、バラエティ豊かな楽曲を揃えている。相方のアンドレ3000が、斬新なサウンドで周囲を驚かせていたことを考えると、ビッグ・ボーイの作品は少々保守的にも映るが、流行のビートでさえ斬新な音楽に仕立て上げるられるのが、彼の面白いところだと思う。

40歳を超え、プロとしてのキャリアも24年目を迎えながら、常に進化を続け、ポップスの一ジャンルとして楽しめる、新鮮なヒップホップを聴かせてくれている。ヒップホップやラップに苦手意識を持っている人にこそ聴いてほしい、そんなアルバムだ。

Producer
Big Boi, Organized Noize, Dr. Luke, DJ Dahi, DJ Khalil, Mannie Fresh, Scott Storch etc

Track List
1. Da Next Day
2. Kill Jill feat. Jeezy & Killer Mike
3. Mic Jack feat. Adam Levine
4. In The South feat. Gucci Mane & Pimp C
5. Order Of Operations
6. All Night
7. Get Wit It feat. Snoop Dogg
8. Overthunk
9. Chocolate
10. Made Man feat. Killer Mike & Kurupt
11. Freakanomics feat. Sleepy Brown
12. Follow Deez feat. Curren$y & Killer Mike


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Boomiverse
Big Boi
Epic
2017-06-16

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