melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年07月

blackbear - Digital Drug Lord [2017 bearTrap TrafficEntertainment]

フロリダ州デイトン・ビーチ生まれ、カリフォルニア州ロス・アンジェルス育ちのシンガー・ソングライター兼プロデューサー、ブラックベアーことマシュー・タイラー・マスト。

ガレージ・ロックのバンドから音楽に入った彼は、コンパウンド・エンターテイメントから誘いを受け、18歳の時にアトランタへ移住。ニーヨのようなソングライターとして活躍することを期待され、プロ・ミュージシャンとしての活動を開始する。

そんな彼が頭角を現したのは2012年。カナダ出身のシンガー・ソングライター、ジャスティン・ビーバーの”Boyfriend”にソングライターとして参加したときだ。同曲は、アメリカ国内だけでトリプル・プラチナム(300万ダウンロード)という大ヒットになり、彼も一躍ヒット・メイカーの仲間入りを果たす。

その後も、G-イージーやフーディー・アレンなど、様々なジャンルの人気ミュージシャンの作品に携わる一方、2012年にソロ名義では初作品となるミックス・テープ『Sex, The Mixtape』をリリース。同じ年に初のEP『Foreplay』を発表すると、以後、毎年1作のペースで作品を発売。自主制作による配信限定の作品ながら、新しい音に敏感な音楽ファンの間で高い評価を受けた。

また、2015年には自身のレーベル、ベアートラップから初のフル・アルバム『Deadroses』を発表すると、同年には2作目『Help』をリリース。どちらの作品も、若いヒット・メイカーらしい斬新でキャッチーな音楽を聴かせてくれた。

そして、このアルバムは前作から約2年ぶりとなる、通算3枚目のオリジナル・アルバム。本作の発売1か月前に、シンガー・ソングライターのマイク・ポンサーとコラボレーション・アルバム『Mansionz』を発表し、同時期にはリンキン・パークのアルバム『One More Time』の”Sorry for Now”を手掛けるなど、多忙な日々を送る中で発表された新作だけに、我々の度肝を抜いた。

今回も過去の2作品同様、本作も自身のレーベル、ベアートラップからのリリース。しかし、デジタル版の配信をインタースコープが、CDやアナログ盤の配給をトラフィック・エンターテイメントが担当するなど、実質的なデビュー作となっている。また、外部のソング・ライターを積極的に招聘し、収録曲にバラエティを持たせた作品になっている。

アルバムの2曲目に収められている”moodz”はアトランタ出身のラッパー24アワーズこと、ロイス・リジーをフィーチャーしたミディアム・ナンバー。パーティネクストドアの作品に何度も参加しているショーン・シートンをソングライターに起用したこの曲は、ゆったりとしたテンポのトラックの上で、なめらかで甘酸っぱい歌声を駆使して、ラップのような歌を聴かせる、パーティーネクストドアっぽい作品。24アワーズのパートでは、ドレイクを彷彿させる荒っぽい声で歌うようなラップを披露している点も面白い。R.ケリーに始まり、ドレイクやパーティーネクストドアによって音楽業界の中心に躍り出た「歌うようなラップ」をうまく取り入れた佳作だ。

この路線を踏襲したのが本作からシングル・カットされた”do remi”だ。後にグッチ・メインを招いた新ヴァージョンも制作されたこの曲は、ニーヨの”Incredible”やフィフス・ハーモニーの”Big Bad Wolf”のようなR&B作品のほか、リンキン・パークの”Sorry for Now”やワン・オク・ロックの”Bedroom Warfare”のようなロック・ミュージシャンの録音まで、幅広く手掛けてきたアンドリュー・ゴールドスタインとの共作だ。こちらの曲はファルセットを多用し、メロディを強調したヴォーカル曲寄りの作品だ。R.ケリーやマーカス・ヒューストンを思い起こさせる、ヒップホップの要素をうまく取り入れたスロー・バラードになっている。

また、メンフィス出身のラッパー、ジューシーJとコラボレーションした”juicy sweatsuits”は、ジャスティン・ビーバーの”Boyfriend”を思い起こさせるしなやかなメロディのアップ・ナンバー。”Boyfriend”ではジャスティンが歌とラップを使い分けていたが、この曲では歌をマシューがラップをジューシーJが担当している。マシューが歌うなめらかで聴きやすいメロディを聴くと、彼のソングライティング技術が確かなものだと再認識させられる。本作の隠れた目玉と言っても過言ではない良曲だ。

そして、本作では珍しい正統派バラードが”if i could i would feel nothing”だ。語り掛けるように歌うマシューのヴォーカルは、トレイ・ングスやマーカス・ヒューストンのようなR&Bシンガーよりも、エド・シーランやジャスティン・ビーバーのようなポップ・シンガーに近いもの。シンプルなメロディを丁寧に歌う姿が印象的だ。

彼の音楽の面白いところは、R&Bやヒップホップをベースにしながら、高度でマニアックな技術に頼ることなく、色々な趣味趣向の人に受け入れられる、キャッチーで親しみやすい作品に仕立て上げているところだろう。おそらく、彼のキャリアがガレージ・ロックという、R&Bやヒップホップとは客層が大きく異なるジャンルから始まったことが大きいのだと思う。

ロックやエレクトロ・ミュージックと並行して、R&Bやヒップホップに慣れ親しんできた世代の人間らしい、柔軟な発想と鋭い感性が光る佳作。R&Bが人種の壁を越えて、アメリカ社会に定着したことを感じさせる面白い作品だ。

Track List
1. hell is where i dreamt of u and woke up alone
2. moodz feat. 24hrs
3. i miss the old u
4. do remi
5. wish u the best
6. juicy sweatsuits feat. Juicy J
7. double
8. if i could i would feel nothing
9. chateau
10. make daddy proud






Misia - MISIA SOUL JAZZ SESSION [2017 Ariola, Sony]

1998年にシングル”つつみ込むように...”でメジャー・デビューすると、レコード店やラジオなどを中心に大ブレイク。同年に発表された初のアルバム『Mother Father Brother Sister』は250万枚を売り上げるヒット作になり、宇多田ヒカルや小柳ゆきともに、日本にR&Bブームを巻き起こした、長崎出身のシンガー・ソングライター、ミーシア。

その後も、”Everything”や”眠れぬ夜は君のせい”などのヒット曲を送り出す一方、2010年の南アフリカ・ワールド・カップでは”MAWARE MAWARE ”をオフィシャル・ソングとして提供。2017年に入ってからも、映画「シング」の日本語吹替え版で、内気な象の少女ミーナ役を担当し、劇中ではスティーヴィー・ワンダーの”Don't You Worry 'bout a Thing”などを歌い上げるなど、「歌」がメイン・テーマの同作を盛り上げた。

このアルバムは、2016年の『Love Bebop』以来、約1年半ぶりの新作。2016年に『Blue Note Jazz Festival in Japan 』で共演したトランペッターの黒田卓也を迎えて制作された、彼女にとってソウル・ジャズ・アルバム。実力に定評のある面々を揃えた、黒田率いるバンド・メンバーの演奏をバックに、彼女の持ち味であるパワフルなヴォーカルと豊かな表現力を惜しげもなく披露している。

アルバムのオープニングを飾るのは、99年にリリースされたシングル曲”BELIEVE”。彼女自身が作詞を、佐々木潤が作曲を担当したミディアム・ナンバーのリメイクは、原曲よりも重くゆったりとしたビートの上で、じっくりと歌い込む姿が印象的だ。年齢を重ねても声量や表現力が安定している点も驚きだが、オリジナルに比べて一つ一つの言葉を丁寧に歌う緻密さが増した点も見逃せない。華やかなホーン・セクションやキーボードの伴奏も、彼女のグラマラスな歌声の良さを引き出している。

続く”来るぞスリリング”は、本作が初出の新曲。キヨシが作詞、林田健司が作曲したこの曲は、ジャズ・ギタリストとしても活躍しているラウル・ミドンがゲスト参加したアップ・ナンバー。勇壮なホーン・セクションや荒々しいパーカッションを響かせるバック・バンドが格好良い、ラテン色の強い曲だ。ダイナミックな演奏にあわせて、緩急を効かせた歌声を響かせるミーシアの存在感が光っている。日本人の琴線を突く歌謡曲のメロディと、インコグニートを彷彿させるジャズやソウルが融合したサウンド、そしてミーシアの豊かな表現力が合わさった名演だと思う。

また、テレビゲーム「信長の野望・大志」のテーマ曲として作られた新曲”運命loop” は”来るぞスリリング”と同じキヨシ&林田健司のコンビが手掛けた作品。インコグニートを思い起こさせるジャズとソウルが融合したサウンドは”来るぞスリリング”とよく似ているが、こちらは明るく洗練された雰囲気の曲。戦国時代を舞台にしたテレビ・ゲームのテーマ曲だが、曲調は現代のUKソウルっぽい。マーカス・ミラーの演奏がソウルフルなアレンジを引き立てている点も見逃せない。

それ以外の曲では、甲斐バンドが77年に発表した”最後の夜汽車”のカヴァーが面白い。しっとりとしたメロディの歌謡バラードを、なめらかでふくよかな歌声を駆使して丁寧に歌い上げている。ビートは抑え気味の、ヴォーカルを強調したアレンジだが、歌謡曲っぽさはあまり感じない。上田正樹やオリトのような、黎明期のジャパニーズR&Bにも通じる、絶妙なバランスが光る佳曲だ。

今回のアルバムでは、彼女のヒット曲から往年の名曲のカヴァーまで、色々なタイプの演奏を収録しているが、散漫な印象は感じられない。彼女の高い歌唱力や、黒田卓也を中心としたバンド・メンバーの絶妙なアレンジ技術も大きいと思うが、それ以上に大きいのは、彼女の代表曲に多い壮大なスケールのバラードが収録されていないことだと思う。バラード自体は取り上げているものの、「キャリア発のソウル・ジャズ・アルバム」という本作のコンセプトに合致したものに留め、手を広げすぎなかったことが本作に統一感を与えているのだと思う。

高い歌唱力を活かしつつ、本格的なバンド・サウンドを取り入れることで、成熟した大人向けのソウル・ミュージックに仕立て上げた傑作。海外産のポップスを愛聴している人には日本産の音楽のレベルの高さを、邦楽が好きな人には、音楽の世界の奥深さを教えてくれる、魅力的なアルバムだと思う。

Track List
1. BELIEVE
2. 来るぞスリリングfeat.Raul Midon
3. 真夜中のHIDE-AND-SEEK
4. 運命loop feat.Marcus Miller
5. オルフェンズの涙
6. It's just love
7. The Best of Time
8. 陽のあたる場所
9. 最後の夜汽車





MISIA SOUL JAZZ SESSION
MISIA
アリオラジャパン
2017-07-26

Offonoff - Boy. [2017 HIGHGRAND]

2003年にヒップホップ・グループ、エピック・ハイの中心人物としてアルバム『Map of the Human Soul』でメジャー・デビュー。アメリカの音楽を意識した本格的なサウンドと、時代に鋭く切り込んだリリックで、韓国を代表するミュージシャンの一人に上り詰めた、韓国系カナダ人のラッパー兼プロデューサー、タブロことイ・ソンウン。2011年に、BIGBANGやPSYといった、世界を股にかける人気ミュージシャンが在籍しているYGエンターテイメントに移籍すると、これまで以上に斬新な作品を次々と発表。2017年に入ってからも、アメリカのR&Bシンガー、ガラントのシングル”Cave Me In”や、PSYのアルバム『4×2=8』に収録されている”Auto Reverse”に客演するなど、新しい音楽に挑戦している。

そんな彼が、YGエンターテイメントの傘下に設立したサブ・レーベルがハイグランドだ。ロック・バンドのヒョゴやブラック・スカーツなど、アメリカの音楽を踏襲した作風がウリのYGの中でも、特に先鋭的な音楽性のミュージシャンが所属していることで、音楽ファンから注目を集めているこのレーベル。今回、そこからアルバム・デビューを果たしたのが、韓国発の2人組のヒップホップ・グループ、オフオンオフだ。

素顔や年齢など、細かいプロフィールは不明だが、2015年ごろからインターネット上に作品を発表しており、2016年前後にハイグラウンドと契約。これまでに2枚のシングルをリリースしている。

本作は、それに続く彼らにとって初のフル・アルバム。ゲストにはタブロのほか、ジ・インターネットのシドとコラボレーションしたシングル”Love”が話題になったディーンや、ディーンの作品にも携わっているシンガー・ソングライターのミソ、韓国のプロダクション・チーム、ラド・ミュージアムが参加。クラブや音楽配信サービスを主戦場に、欧米のクラブ・ミュージックから多くの影響を受けたサウンドを武器に戦う、実力派ミュージシャン達が集結している。

アルバムのオープニングを飾る”In The Car”は、レミー・シャンドやドゥウェレの作品を連想させる、シンセサイザーを多用した抽象的なサウンドと、繊細でソウルフルなヴォーカル魅力的なミディアム・ナンバー。シルクのようにきめ細かいテナー・ヴォイスが心地よい曲だ。

これに対し、タブロとミソをフィーチャーした”Cigarette”は、DJスピナの音楽を連想させる、フワフワとしたトラックが印象的なミディアム・ナンバー。フロエトリーやレ・ヌビアンズ、ナオなどを思い起こさせる、華奢だけど存在感のあるミソのヴォーカルが光っている。タブロのラップがアクセントになって、楽曲に起伏を付けている点も面白い。

また、ディーンを起用した”Gold”は、ピアノ伴奏を引用したメロウなトラックが素敵なミディアム・ナンバー。ドレイクパーティーネクストドアを連想させる、ファルセットを織り交ぜた歌うようなラップが心地よい。脇を固めるディーンのテナー・ヴォイスにも注目してほしい。

そして、本作に先駆けて発表されたシングル曲”Photograph”は、シンセサイザーの伴奏を効果的に使ったロマンティックな作品。甘い歌声を活かした切ない雰囲気のメロディが素敵な曲だ。ゲストがいない分、彼らの歌やトラックの美しさが際立っていると思う。叩き上げの実力者である、二人のスキルが思う存分堪能できる良作だ。

彼らの音楽は、ファンキーDLやミツ・ザ・ビーツのような、ジャズのエッセンスを取り入れたヒップホップのトラックと、ロビン・シックやファレル・ウィリアムスのようなファルセットを駆使したヴォーカル、歌うようなラップを組み合わせたキャッチーで聴きやすいものだと思う。ガグルや瘋癲といった、ジャズの影響を受けたヒップホップ・グループが多い日本人の目には、ありふれた作品のようにも映るときがあるが、ドレイクなどを連想させる歌とラップを織り交ぜたパフォーマンスを取り入れることで、きちんと独自性を発揮していると思う。

韓国のヒップホップ、R&B界隈の人材の厚さと、高い実力を再認識させられる佳作。タブロのように、メジャーとアンダーグラウンド、両方のシーンで活躍する存在になってくれるのか、今から楽しみなアーティストだ。

Track List
1. In the Car
2. Cigarette feat. Tablo, Miso
3. Gold feat. Dean
4. Good2me feat. Punchnello
5. Boy
6. Photograph
7. Film Roll
8. Dance
9. Midnight
10. Noon 12:04am
11. Homeless Door feat. Rad Museum
12. Overthinking





OFFONOFF/ BOY -1集 <通常盤> (CD) 韓国盤 オフオンオフ ボーイ OFF ON OFF
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