melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2017年07月

Dizzee Rascal - Raskit [2017 Dirtee Stank Recordings, Island Records]

やんちゃな生活を送っていたハイスクール時代に音楽に目覚め、2000年代初頭にはドラムン・ベースのDJとして活動。2003年にXLレコードからアルバム『Boy in da Corner』でレコード・デビューを果たすと、グライム・シーンを代表するミュージシャンとして頭角を現した、ロンドンのカンバーウェル出身のMCでプロデューサー、ディジー・ラスカルことディラン・ミルズ。彼にとって、2013年の『The Fifth』以来、約4年ぶり6枚目となるオリジナル・アルバム。

本国での人気に比べ、日本での知名度が今ひとつな彼だが、ジャスティン・ティンバーレイクやN.E.R.D.と一緒にアメリカ・ツアーを行い、2012年のロンドン・オリンピックの開会式では、代表曲の”Bonkers”を大観衆の前で披露するなど、イギリスを代表するミュージシャンとして、音楽シーンを牽引してきた。

今回のアルバムでは、カルドやサルヴァといったアメリカ出身のクリエイターや、ジ・アーケイドやヘヴィー・トラッカーズなどのイギリス出身のプロデューサーを起用。彼のウリであるグライムを核にしつつ、トラップやクランクといった、彼らに影響を与えてきたアメリカのヒップホップを取り入れた作品になっている。

本作の2曲目に収められている”Wot U Gonna Do?”は、ロス・アンジェルス出身のDJ、ヴァレンティノ・カーンがプロデュース。リル・ジョンやミーゴスなどの作品で耳にするような、シンセサイザーを駆使したトラップ・ビートに乗って、畳み掛けるように言葉を繰り出すアグレッシブな作品だ。 数多くの変則ビートを乗りこなしてきた彼らしく、この曲でも、最初から最後までエネルギッシュなラップを聴かせてくれる。同じようなビートを使っても、MCの解釈で全く違う音楽に聴こえる点が面白い。

また、本作に先駆けてリリースされたシングル曲“Space”は、ロス・アンジェルス出身のクリエイター、サルヴァとの共作。この曲では、2ステップやグライムを彷彿させる小刻みに鳴らされるドラムを取り入れつつ、ウェイルやミーゴスのアルバムに入っていそうな、ミディアム・テンポの作品に落とし込んでいる。この曲では、畳み掛けるようなラップを披露し、グライムの疾走感を残しつつ、アメリカのヒップホップのようにも聴かせている点に注目してほしい。

一方、テル・アビブ出身のダン・ファーバーを起用した”Ghost”は、中東の音楽っぽい笛の音色を取り入れたリフと、グライムのビートを融合させたサウンドが印象的な曲だ。彼の持ち味である、エネルギッシュなラップと先鋭的トラックの融合が心地よい。過去の作品を踏襲しつつ、それを進歩させた佳曲だ。

また、スローテンポの楽曲では、ロンドン発のプロダクション・チーム、ジ・アーケイドが制作に参加、ゲスト・ヴォーカルにニコを起用した”The Way I Am”が存在感を発揮している。柔らかい音色のシンセサイザーを多用したロマンティックな伴奏と、ドラムの音が乱れ飛ぶ荒々しいビートの組み合わせが光るトラックと、野太いディジー・ラスカルのラップ。テヴィン・キャンベルを彷彿させるニコの甘酸っぱい歌声が一体化した魅力的な作品だ。サビをシンガーが担当していることもあり、本作の収録曲の中では最もアメリカのヒップホップに近い雰囲気を醸し出している。

10年以上に渡って、クラブ・シーンとヒット・チャートの両方で奮闘し、結果を残してきた彼だけあって、今回のアルバムも非常にクオリティが高い。しかし、本作は過去の録音に比べて、アメリカのヒップホップやR&Bに近しいように思える。恐らく、ファレル・ウィリアムスの”Happy”のような2000年代の黒人音楽よりもアップテンポな作品や、カルヴィン・ハリスなどのエレクトロ・ミュージック畑のクリエイターが黒人シンガーを起用するようになったことで、楽曲のテンポやトラックについて、聴き手側も柔軟な考えができるようになったからだろう。

時代を先取りし過ぎた名手の感性が、正しかったことを裏付ける佳作。10年以上前からヒップホップとエレクトロ・ミュージックの融合してきた彼の音楽を、心ゆくまで堪能してほしい。

Producer
Dizzee Rascal, Cardo, Darkness, Deputy, Dan Farber etc

Track List
1. Focus
2. Wot U Gonna Do?
3. Space
4. I Ain't Even Gonna Lie
5. The Other Side
6. Make It Last
7. Ghost
8. Business Man
9. Bop N' Keep It Dippin'
10. She Knows What She Wants
11. Dummy
12. Everything Must Go
13. Slow Your Roll
14. Sick A Dis
15. The Way I Am
16. Man Of The Hour




Raskit
Dizzee Rascal
Imports
2017-07-28

Tyler, The Creator - Scum Fuck Flower Boy [2017 Columbia]

フランク・オーシャンやジ・インターネットなどを輩出した、ロス・アンジェルス発の実力派ヒップホップ集団、オッド・フューチャー。その中心人物が、カリフォルニア州ラデラ・ハイツ出身のラッパーでプロデューサー、タイラー・ザ・クリエイターことタイラー・グレノリー・オコンマだ。

ナイジェリア系アメリカ人の父と、アフリカ系アメリカ人の母親の間に生まれた彼は、7歳の頃からジャケットのイラストを描くようになり、14歳になるとピアノも演奏するようになる。

16歳でオッド・フューチャーを結成した彼は、18歳の時に、自身の名義では初の録音作品となるミックステープ『Bastard』を発表。自主制作の作品ながら、音楽情報サイトの年間ランキングで32位を獲得するなど、高い評価を受けた。その後も、自身の名義で3枚を発表する一方、クルーの中心人物として多くの作品を収録。2017年に入ってからは、フランク・オーシャンの”Bikingに客演して話題になった。

そんな彼にとって、自身名義では4枚目のフル・アルバムにして、初のメジャー・レーベル配給作品となるのが本作。全ての曲を自らの手でプロデュースし、ゲストにはフランク・オーシャンやジ・インターネットのスティーヴ・レイシー(ただし、彼はオッド・フューチャーのメンバーではない)のようなオッド・フューチャーと縁の深い人のほか、エイサップ・ロッキーやリル・ウェインなどの人気アーティストが参加した意欲作になっている。

アルバムに先駆けて発表された”Who Dat Boy?”は、エイサップ・ロッキーをフィーチャーした楽曲。サイレンのようなシンセサイザーのリフが不気味な雰囲気を醸し出している。電子楽器を多用した作品だが、デビュー当初のウータン・クランを思い起こさせる、おどろおどろしいビートが格好良い。そんなトラックの上で、ワイルドなラップを聴かせる二人の存在も光っている。

これに対し、カップリング曲の”911/Mr. Lonely ”は、フランク・オーシャンとスティーヴ・レイシーがゲストで参加。バック・コーラスにはスクール・ボーイQやジャスパー・ドルフィンも加わるなど、オッド・フューチャー色の強い作品。前半部分の”911”は、多くのヒップホップ作品にサンプリングされてきたギャップ・バンドの”Outstanding”を使用したミディアム・ナンバーで、シンセサイザーの音色を効果的に使いながら、ビートの音圧を落としたトラックを用意することで、ロマンティックな曲に仕上げている。流れるように言葉を繋ぐ、歌うようなラップも、メロウなビートと合っている。また、後半の”Mr. Lonely”は90年代のジャーメイン・デュプリを連想させる、躍動感溢れるチキチキ・サウンドが格好良い曲。前半との流麗なトラックとのギャップもあり、強烈なインパクトを感じさせる。

また、もう一つのシングル曲”Boredom”は電子音楽畑のシンガー、レックス・オレンジ・カントリーとアンナ・オブ・ザ・ノースを招いた曲。電子楽器を多用しつつ、往年のソウル・シンガーの作品を彷彿させる、生演奏っぽいアレンジのトラックを作ることで、斬新さと親しみやすさを両立している。フィーチャリング・シンガー達の繊細な歌声が、太く荒々しいタイラーのラップを際立たせている点も見逃せない。

今回のアルバムは、彼にとってメジャー・デビュー作品だが、リスナーの目を意識したポップス志向や、豪華なゲストを集結させることもなく、あくまでもマイペースに、自身の音楽を貫いているように見える。既に、ソロ活動やプロデューサー、クルーの中心人物として多くの実績を上げてきた自信もあるのだろうが、フランク・オーシャンやジ・インターネット、そのメンバーであるシド(ただし、彼女はソロ・デビューの時点でクルーを離れている)やマット・マーシャンズが次々と成功を収めるなど、彼らのサウンドが注目を集めていることを踏まえて、敢えて自身の作風を貫いているようにも映る。

彼に先駆けてメジャー・デビューを果たした、クルーの面々にも負けず劣らずの先鋭的かつ緻密な作品。「大物は最後にやってくる」を体現したような、充実した内容と安定感が魅力の傑作だ。

Producer
Tyler, The Creator

‎ Track List
1. Foreword feat. Rex Orange County
2. Where This Flower Blooms feat. Frank Ocean
3. Sometimes...
4. See You Again feat. Kali Uchis
5. Who Dat Boy? feat. ASAP Rocky
6. Pothole feat. Jaden Smith
7. Garden Shed feat. Estelle
8. Boredom feat. Rex Orange County and Anna of the North
9. I Ain't Got Time!
10. 911 / Mr. Lonely feat. Frank Ocean and Steve Lacy
11. Dropping Seeds feat. Lil Wayne
12. November
13. Glitter
14. Enjoy Right Now Today






French Montana - Jungle Rules [2017 Bad Boy Entertainment Epic]

モロッコのラバットに生まれ、13歳の時にアメリカへ移住。MCバトルで腕を磨いた後、友人とDVDやミックステープを発表して、叩き上げのラッパーとして名を上げた、ニューヨーク州ブロンクス地区出身のラッパー、フレンチ・モンタナこと、カリーム・カルブシ。

その実績を買われ、複数のレーベルから誘いを受けた彼は、2012年にショーン・コムズ率いるバッド・ボーイとリック・ロス率いるメイバッハの2社と契約。翌年には初のフル・アルバム『Excuse My French』を発表。全米ラップ・アルバム・チャートの1位を獲得し、同作からのシングル曲”Pop That”はプラチナ・ディスクも獲得する。その後も、フィーチャリング・アーティストとして、多くの作品に客演。ウィル・アイ・アムの”Feelin' Myself”や、クリス・ブラウンの”Loyal”など、色々なアーティストのヒット曲で存在感を発揮してきた。

このアルバムは、彼にとって4年ぶり2枚目のフル・アルバム。所属レーベルの都合で、配給がインタースコープからエピックに変わっているものの、今作でも、バッド・ボーイらしいキャッチーなサウンドと、彼の荒々しいラップが堪能できる良質なヒップホップを聴かせている。

本作のオープニングを飾る”Whiskey Eyes”はニューヨーク出身のラッパー、チンクスをフィーチャーした曲。ロンドン出身の女性シンガー、フェのヴォーカルを効果的に使ったトラックと、二人の刺々しいラップの組み合わせが光っている。

一方、スワエ・リーが参加した”Unforgettable”は、レゲトンやカリプソの要素を取り込んだアップ・ナンバー。聴き手を幻想的な世界に引きずり込むトラックやヴォーカルは、モロッコのダンス・ミュージック、ジャシューカに通じるものがある。アメリカではあまり知られていない音楽のエッセンスをさりげなく盛り込むプロデューサーのセンスが素晴らしい楽曲だ。

また、メジャー・レーベルと契約する前からの盟友、ハリー・フラウドが制作を主導した”A Lie”は『Starboy』も好評のウィークエンドと、ニューヨークのハーレム出身のラッパー、マックスBを起用した作品。ウィークエンドやドレイクの楽曲に近い、シンセサイザーを多用した近未来的な雰囲気のトラックと、ウィークエンドの繊細な歌声が印象的な作品。ドレイクに代表される歌うようなラップを聴かせるアーティストがヒット・チャートを席巻する時代に、彼らのサウンドを取り入れつつ、LLクールJやノートリアスB.I.G.のような、荒々しいラップを聴かせる手法が魅力的。往年のヒップホップと現在のサウンドが融合した、本作最大の聴きどころだと思う。

それ以外の曲では、2017年も「Despicable Me 3(邦題:怪盗グルーのミニオン大脱走)」のサウンドトラックや、カルヴィン・ハリスの”Feels”などに携わるなど、活躍を続けているファレル・ウィリアムスが参加した”Bring Dem Things ”が面白い。ハリー・フラウドが作ったトラックは、ファレルが作りそうな、音数を絞ったキャッチーなもの。その上で、フレンチ・モンタナがリズミカルに言葉を繋ぐ姿は堂に入ってる。ファレルのスタイルを借りつつ、自分の音楽に染め上げるスキルの高さは流石の一言だ。

今回の作品は、多くの人気ミュージシャンを招き、流行のサウンドを積極的に取り入れた、バッド・ボーイらしいアルバムだ。しかし、妄信的にトレンドを追いかけるのではなく、太く、荒々しいフレンチ・モンタナのラップが活きるシンプルなトラックを中心に揃えることで、硬派だけど聴きやすい、絶妙なバランスの音楽に落とし込まれている点が面白い。恐らく、ノートリアスB.I.G.やメイスなど、ハードなラップをウリにするミュージシャンをヒット・チャートに送り込んできたショーン・コムズのビジネス・センスと、フレンチ・モンタナの確かなラップ・スキルが揃ったから、作れたのだろう。

ヒップホップが人気ジャンルの一つになった時代だからこそ新鮮に聴こえる、ワイルドなラップを活かした佳作。90年代からヒップホップを聴いてきた、年季の入ったファンにこそ聴いてほしい、本格的なヒップホップ・アルバムだ。


Producer
Puff Daddy, French Montana, Rick Steel etc

Track List
1. Whiskey Eyes feat. Chinx Drugz
2. Unforgettable feat. Swae Lee
3. Trippin
4. A Lie feat. Max B, The Weeknd
5. Jump feat. Travis Scott
6. Hotel Bathroom
7. Bring Dem Things feat. Pharrell Williams
8. Bag feat. Ziico Niico
9. Migo Montana feat. Quavo
10. No Pressure feat. Future
11. Push Up
12. Stop It feat. T.I.
13. Black Out feat. Young Thug
14. She Workin feat. Marc E. Bassy
15. Formula feat. Alkaline
16. Famous
17. Too Much
18. White Dress





JUNGLE RULES
FRENCH MONTANA
EPIC
2017-07-21

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