クリス・ストークスの下でキャリアを積み、若いころには妹のジェネイ・アイコらと組んだガールズ
・グループ、Gyrl(ギャル)としても活動してきた、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のシンガー・ソングライター、ミラJことジャミーラ・アキコ・キロンボ。
妹達に先駆けてソロに転向した彼女は、オマリオンの作品に客演するなど、着実に実績を積み上げて、モータウンとの契約を獲得。2006年には自身名義のアルバム『Split Personality』を録音する。しかし、諸事情により同作はお蔵入りとなってしまう。
だが、制作体制を仕切りなおした2014年に初のEP『M.I.L.A.』を発表すると、配信限定の作品ながら、R&Bチャートの12位に食い込む健闘を見せる。その後も、2016年に2枚目のEP『213』を発表するなど、精力的に活動していたが、セールス面では苦戦。2017年に発表された『Dopamine』はインディー・レーベルのサイレント・パートナーからのリリースになっている。
このアルバムは、同作から僅か7月という短い間隔で発表された通算4枚目のEP。彼女の誕生日をタイトルに冠し、35歳の誕生日の2日前に発売された本作は、これまでの作品以上に彼女の内面に触れた楽曲を揃えている。プロデューサーには、これまでにも多くの作品を一緒に制作していたアイ・リッチに加え、シェイ・オン・ザ・ビートが参加。全ての楽曲で彼女がソングライティングに携わった、意欲作になっている。
本作の1曲目は、アイ・リッチがプロデュースを担当した”Dirt”。オルゴールを思い起こさせる繊細な音色のトラックをバックに、切々と歌う姿が心に残るミディアム・ナンバー。ドラムの音圧を抑えて、彼女の歌声を強調したアレンジが心憎い。誰かに語り掛けるように歌うミラJの姿が、どこか物悲しく見える曲だ。
これに続く”Drifting”も、ミラJとアイ・リッチのコンビで作られた作品。レゲトンなどで使われるような、鮮やかな音色のシンセサイザーを使いながら、シックに纏め上げた伴奏が不思議な雰囲気を醸し出している。このトラックの上で、朗々と歌う姿が印象的。”Dirt”より少し速いテンポの楽曲だが、より陰鬱な空気の楽曲だ。
また、本作で唯一シェイ・オン・ザ・ビートがプロデュースを担当した”Obsessive”は重いビートとハンドクラップなどの上物を巧みに組み合わせたビートが、クリス・ストークスの手掛けたイマチュアの作風に少し似ているミディアム・ナンバー。しかし、このようなビートの上で、気だるく歌うミラJのパフォーマンスは、90年代のR&Bではあまり見ないものだ。彼女の原点に回帰しつつ、現代の音楽シーンで戦う彼女の姿勢が反映された佳曲だ。
それ以外に目を向けると、4曲目の”Low Down Dirty Shame ”は、モニカを彷彿させる、キュートだけど力強いヴォーカルを際立たせたアレンジが光るミディアム・ナンバー。ギターなどの音色を使った繊細なサウンドが光るビートを使うことで、彼女の強くしなやかな歌声の魅力を引き出している。
そして、このアルバムを締めるのは”Switching Sides Lyric”。シンセサイザーの音を重ねたトラックと、強力なエフェクトをかけたヴォーカルが幻想的な雰囲気を演出している。電子楽器を多用したビートと、メリハリをつけたメロディの組み合わせは、90年代のR&Bにも少し似ているが、彼女の妖艶な歌声と過激なエフェクトが、斬新なイメージをもたらしている。
このアルバムは、クリス・ストークスの下でキャリアを開始し、ガールズ・グループやメジャー・レーベルからのリリースなどを経験してきた彼女のキャリアを統括しつつ、現代の彼女の生き方を見据えたものになっている。トラックやメロディには、イマチュアなどが大衆を魅了していた、90年代のR&Bのスタイルが反映されているが、その一方で、当時のR&Bではあまり使われていなかった、強烈なエフェクトを使った声の加工や、気だるいヴォーカルといった演出も加わっている。このように、新旧のR&Bの手法を組み合わせ、90年代から地道に活動してきた彼女らしさが反映された音楽に落とし込んだところが、この作品の面白いところだ。
妹、ジェネイ・アイコが活躍の場を広げる中で、伸び悩んでいる印象があった彼女の底力を感じさせる良作。90年代から現代に至るまで、継続的に活動してきた彼女の持ち味が発揮された、懐かしさと新鮮さを感じる音楽だと思う。
Producer
I Rich, Shay On The Beat
Track List
1. Dirt
2. Drifting
3. Obsessive
4. Low Down Dirty Shame
5. Switching Sides Lyric
妹達に先駆けてソロに転向した彼女は、オマリオンの作品に客演するなど、着実に実績を積み上げて、モータウンとの契約を獲得。2006年には自身名義のアルバム『Split Personality』を録音する。しかし、諸事情により同作はお蔵入りとなってしまう。
だが、制作体制を仕切りなおした2014年に初のEP『M.I.L.A.』を発表すると、配信限定の作品ながら、R&Bチャートの12位に食い込む健闘を見せる。その後も、2016年に2枚目のEP『213』を発表するなど、精力的に活動していたが、セールス面では苦戦。2017年に発表された『Dopamine』はインディー・レーベルのサイレント・パートナーからのリリースになっている。
このアルバムは、同作から僅か7月という短い間隔で発表された通算4枚目のEP。彼女の誕生日をタイトルに冠し、35歳の誕生日の2日前に発売された本作は、これまでの作品以上に彼女の内面に触れた楽曲を揃えている。プロデューサーには、これまでにも多くの作品を一緒に制作していたアイ・リッチに加え、シェイ・オン・ザ・ビートが参加。全ての楽曲で彼女がソングライティングに携わった、意欲作になっている。
本作の1曲目は、アイ・リッチがプロデュースを担当した”Dirt”。オルゴールを思い起こさせる繊細な音色のトラックをバックに、切々と歌う姿が心に残るミディアム・ナンバー。ドラムの音圧を抑えて、彼女の歌声を強調したアレンジが心憎い。誰かに語り掛けるように歌うミラJの姿が、どこか物悲しく見える曲だ。
これに続く”Drifting”も、ミラJとアイ・リッチのコンビで作られた作品。レゲトンなどで使われるような、鮮やかな音色のシンセサイザーを使いながら、シックに纏め上げた伴奏が不思議な雰囲気を醸し出している。このトラックの上で、朗々と歌う姿が印象的。”Dirt”より少し速いテンポの楽曲だが、より陰鬱な空気の楽曲だ。
また、本作で唯一シェイ・オン・ザ・ビートがプロデュースを担当した”Obsessive”は重いビートとハンドクラップなどの上物を巧みに組み合わせたビートが、クリス・ストークスの手掛けたイマチュアの作風に少し似ているミディアム・ナンバー。しかし、このようなビートの上で、気だるく歌うミラJのパフォーマンスは、90年代のR&Bではあまり見ないものだ。彼女の原点に回帰しつつ、現代の音楽シーンで戦う彼女の姿勢が反映された佳曲だ。
それ以外に目を向けると、4曲目の”Low Down Dirty Shame ”は、モニカを彷彿させる、キュートだけど力強いヴォーカルを際立たせたアレンジが光るミディアム・ナンバー。ギターなどの音色を使った繊細なサウンドが光るビートを使うことで、彼女の強くしなやかな歌声の魅力を引き出している。
そして、このアルバムを締めるのは”Switching Sides Lyric”。シンセサイザーの音を重ねたトラックと、強力なエフェクトをかけたヴォーカルが幻想的な雰囲気を演出している。電子楽器を多用したビートと、メリハリをつけたメロディの組み合わせは、90年代のR&Bにも少し似ているが、彼女の妖艶な歌声と過激なエフェクトが、斬新なイメージをもたらしている。
このアルバムは、クリス・ストークスの下でキャリアを開始し、ガールズ・グループやメジャー・レーベルからのリリースなどを経験してきた彼女のキャリアを統括しつつ、現代の彼女の生き方を見据えたものになっている。トラックやメロディには、イマチュアなどが大衆を魅了していた、90年代のR&Bのスタイルが反映されているが、その一方で、当時のR&Bではあまり使われていなかった、強烈なエフェクトを使った声の加工や、気だるいヴォーカルといった演出も加わっている。このように、新旧のR&Bの手法を組み合わせ、90年代から地道に活動してきた彼女らしさが反映された音楽に落とし込んだところが、この作品の面白いところだ。
妹、ジェネイ・アイコが活躍の場を広げる中で、伸び悩んでいる印象があった彼女の底力を感じさせる良作。90年代から現代に至るまで、継続的に活動してきた彼女の持ち味が発揮された、懐かしさと新鮮さを感じる音楽だと思う。
Producer
I Rich, Shay On The Beat
Track List
1. Dirt
2. Drifting
3. Obsessive
4. Low Down Dirty Shame
5. Switching Sides Lyric