melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2018年01月

Mila J - 11.18 [2017 Silent Partner Entertainment, November Reign]

クリス・ストークスの下でキャリアを積み、若いころには妹のジェネイ・アイコらと組んだガールズ ・グループ、Gyrl(ギャル)としても活動してきた、カリフォルニア州ロス・アンジェルス出身のシンガー・ソングライター、ミラJことジャミーラ・アキコ・キロンボ。

妹達に先駆けてソロに転向した彼女は、オマリオンの作品に客演するなど、着実に実績を積み上げて、モータウンとの契約を獲得。2006年には自身名義のアルバム『Split Personality』を録音する。しかし、諸事情により同作はお蔵入りとなってしまう。

だが、制作体制を仕切りなおした2014年に初のEP『M.I.L.A.』を発表すると、配信限定の作品ながら、R&Bチャートの12位に食い込む健闘を見せる。その後も、2016年に2枚目のEP『213』を発表するなど、精力的に活動していたが、セールス面では苦戦。2017年に発表された『Dopamine』はインディー・レーベルのサイレント・パートナーからのリリースになっている。

このアルバムは、同作から僅か7月という短い間隔で発表された通算4枚目のEP。彼女の誕生日をタイトルに冠し、35歳の誕生日の2日前に発売された本作は、これまでの作品以上に彼女の内面に触れた楽曲を揃えている。プロデューサーには、これまでにも多くの作品を一緒に制作していたアイ・リッチに加え、シェイ・オン・ザ・ビートが参加。全ての楽曲で彼女がソングライティングに携わった、意欲作になっている。

本作の1曲目は、アイ・リッチがプロデュースを担当した”Dirt”。オルゴールを思い起こさせる繊細な音色のトラックをバックに、切々と歌う姿が心に残るミディアム・ナンバー。ドラムの音圧を抑えて、彼女の歌声を強調したアレンジが心憎い。誰かに語り掛けるように歌うミラJの姿が、どこか物悲しく見える曲だ。

これに続く”Drifting”も、ミラJとアイ・リッチのコンビで作られた作品。レゲトンなどで使われるような、鮮やかな音色のシンセサイザーを使いながら、シックに纏め上げた伴奏が不思議な雰囲気を醸し出している。このトラックの上で、朗々と歌う姿が印象的。”Dirt”より少し速いテンポの楽曲だが、より陰鬱な空気の楽曲だ。

また、本作で唯一シェイ・オン・ザ・ビートがプロデュースを担当した”Obsessive”は重いビートとハンドクラップなどの上物を巧みに組み合わせたビートが、クリス・ストークスの手掛けたイマチュアの作風に少し似ているミディアム・ナンバー。しかし、このようなビートの上で、気だるく歌うミラJのパフォーマンスは、90年代のR&Bではあまり見ないものだ。彼女の原点に回帰しつつ、現代の音楽シーンで戦う彼女の姿勢が反映された佳曲だ。

それ以外に目を向けると、4曲目の”Low Down Dirty Shame ”は、モニカを彷彿させる、キュートだけど力強いヴォーカルを際立たせたアレンジが光るミディアム・ナンバー。ギターなどの音色を使った繊細なサウンドが光るビートを使うことで、彼女の強くしなやかな歌声の魅力を引き出している。

そして、このアルバムを締めるのは”Switching Sides Lyric”。シンセサイザーの音を重ねたトラックと、強力なエフェクトをかけたヴォーカルが幻想的な雰囲気を演出している。電子楽器を多用したビートと、メリハリをつけたメロディの組み合わせは、90年代のR&Bにも少し似ているが、彼女の妖艶な歌声と過激なエフェクトが、斬新なイメージをもたらしている。

このアルバムは、クリス・ストークスの下でキャリアを開始し、ガールズ・グループやメジャー・レーベルからのリリースなどを経験してきた彼女のキャリアを統括しつつ、現代の彼女の生き方を見据えたものになっている。トラックやメロディには、イマチュアなどが大衆を魅了していた、90年代のR&Bのスタイルが反映されているが、その一方で、当時のR&Bではあまり使われていなかった、強烈なエフェクトを使った声の加工や、気だるいヴォーカルといった演出も加わっている。このように、新旧のR&Bの手法を組み合わせ、90年代から地道に活動してきた彼女らしさが反映された音楽に落とし込んだところが、この作品の面白いところだ。

妹、ジェネイ・アイコが活躍の場を広げる中で、伸び悩んでいる印象があった彼女の底力を感じさせる良作。90年代から現代に至るまで、継続的に活動してきた彼女の持ち味が発揮された、懐かしさと新鮮さを感じる音楽だと思う。

Producer
I Rich, Shay On The Beat

Track List
1. Dirt
2. Drifting
3. Obsessive
4. Low Down Dirty Shame
5. Switching Sides Lyric




11.18 [Explicit]
SILENT PARTNER ENTERTAINMENT/NOVEMBER REIGN
2017-11-16

Lais – Give Me One More [2017 Lavish Rcords]

ドレイクやパーティーネクストドアのようなヒップホップ、R&B畑のアーティストから、ジャスティン・ビーバーのようなポップ・スター、バッドバッドノットグッドのようなファンク・バンドに、ケイトラナダのようなクリエイター、フランク・デュークスやボイ・ワン・ダなどのプロデューサーまで、多彩な才能を輩出し、世界の音楽市場で存在感を強めているカナダ出身のミュージシャン達。

同国発の音楽は、メジャー・レーベルが扱うものに留まらず、インターネットなどを経由して公開されるインディーズのミュージシャンでも台頭。インターネット上で発表した楽曲がブレイクのきっかけとなったドレイクのほか、モーリス・ムーアやJRDN(ジョーダン)のような、コアな音楽ファンをターゲットにしたミュージシャンも数多く登場している。

2017年12月に4作目の録音作品『Give Me One More』を発表したライズも、そんなカナダ出身のアーティストの一人。パキスタン生まれの彼は3歳の時にアメリカに移住、13歳のときにトロントへ移り住み、以後同地を拠点に活動していた。そんな彼は、2014年に初のミックス・テープ『Session One』を発表。同作がアメリカの音楽情報サイトに取り上げられると、その繊細でスタイリッシュな作風が注目を集めた。以後、新作がリリースされるごとに、アメリカの音楽雑誌などで紹介されてきた気鋭の若手だ。

今回のアルバムでも、これまでの録音同様、地元のプロデューサーを数多く起用し、自身もペンを積極的に執るなど、自身が制作に深くかかわった、意欲的な作品になっている。

本作の収録曲で最初に目を引くのは、彼自身がソングライティングとプロデュースを担当した”Outside of Us”。洗練されたトラックはドネル・ジョーンズやカール・トーマスっぽくも聴こえるし、ささやきかけるように歌うスタイルはマックスウェルの姿がダブって見える、2000年代初頭に流行した大人向けのしなやかなR&Bの手法を踏襲したアップ・ナンバー。川のせせらぎのようにしなやかなメロディのバックで、色々なギミックを盛り込んだトラックが鳴り響く面白い作品だ。

これに対し、アルバムに先駆けて公開された”Lil Lavish”は、重いドラムやベースの音を軸にしたトラックをバックに、けだるい歌声を披露するミディアム・ナンバー。ラップを織り交ぜることで、曲にメリハリをつけつつ、陰鬱な雰囲気を演出する技術が光る良曲だ。彼の作品を数多く手掛けているローズの作るトラックは、レコードからサンプリングしたような音を盛り込むことで、90年代のヒップホップのような空気を醸し出している。

そして、ライズとローズに加えシャーが制作に参加した”Instances”は、ダフト・パンクを起用したウィークエンドのヒット・シングル”I Feel It Coming”によく似ている、エレクトロ・ミュージックを取り入れたモダンなビートと、繊細な歌声の組み合わせが心地よいアップ・ナンバー。煌びやかな伴奏をバックに、淡々と歌う姿が印象的な、どこか物悲しい雰囲気のダンス・ミュージックになっている。

しかし、本作のハイライトは何といってもスロー・ナンバーの”Induce”だろう。ピアノやシンセサイザーの音色を巧みに組み合わせたロマンティックなトラックの上で、甘くささやきかけるライズの姿が魅力的なバラードだ。シンプルなトラックに乗せて、艶めかしい歌声を聴かせる手法はマーカス・ヒューストンやトレイ・ソングスのようなR&Bシンガーを彷彿させる。

彼の音楽は、アメリカのR&Bをベースにしつつ、そこに含まれる様々な技法の組み合わせを変えることで、同国の音楽とは一味違う楽曲に仕立てている。また、歌とラップを両立する技術や、武骨な声のラップ、ヴォーカルで見せる繊細な表現や甘い歌声など、多彩な表現を使い分けられることが、彼の音楽にバラエティをもたらしていると思う。

4作目にして、高い完成度と表現の幅を兼ね備えた楽曲を披露した稀有なアルバム。90年代、2000年代のR&Bが持つ、シンプルだけど煌びやかなサウンドを取り入れた、懐かしさと新鮮さを感じる佳作だ。

Producer
Laffey, Lais, ROZE, SHER

Track List
1. Hit Me
2. Outside of Us
3. Lil Lavish
4. Instances
5. Diamonds Tell No Lies
6. Induce
7. Baby Love






Camila Cabello - Camila[2018 Epic]

2012年に、イギリスのオーディション番組「Xファクター」のアメリカ版に参加した面々で結成。2013年に『Better Together』でメジャー・デビューすると、一気にスターダムを駆け上がった、5人組ガールズ・グループ、フィフス・ハーモニー

彼女達は、ラテン音楽の要素を取り入れたR&Bで、ポップスやR&Bだけでなく、ラテン音楽の市場でもヒット。様々な人種の人々から支持される人気グループとなった。

カミラは・カベロことカーラ・カミラ・カベロ・エストラバオは、同グループの結成当時から在籍していたシンガー。キューバ生まれの彼女は、6歳の時にメキシコへ移住した後、フロリダ州マイアミに定住するようになったという異色の経歴を持っているキューバ系アメリカ人。そんな彼女は、ラテン音楽への深い造詣で、グループの音楽性にも少なからず影響を与えてきた。

しかし、2016年の終わりに彼女はグループを脱退。ソロに転向すると”Crying in the Club”や”Havana”などのヒット曲を送り出しながら、ブルーノ・マーズのツアーに帯同するなど、華々しい活躍を見せてきた。

このアルバムは、ソロ転向から1年弱という、短い期間でリリースされた初のスタジオ・アルバム。”Crying in the Club”こそ入っていないものの、全米総合シングル・チャートで2位に上り詰めた”Havana”はきちんと収録。それ以外の曲にも、フランク・デュークスやT-マイナスといった、名うてのプロデューサーが参加した、豪華なものになってる。

アルバムの1曲目は、本作からのリカット・シングル”Never Be The Same”。フランク・オーシャンや元ワン・ダイレクションのゼインなどの楽曲を制作している、トロント出身のクリエイター、フランク・デュークスがプロデュースを担当。シンセサイザーを多用したトラックこそ、ロイ・ウッズのようなカナダのR&Bシンガーに少し似ているが、それ以外はむしろワン・ダイレクションやバック・ストリート・ボーイズに近いキャッチーで爽やかなポップス路線の作品。R&Bに強く傾倒した歌手ではない、彼女ならではの音楽だと思う。

これに対し、エレクトロ・ミュージックの分野で高い知名度を誇るスクリレックスが携わった”She Loves Control”は、レゲトンのビートを使った艶めかしいビートが心地よいダンス・ナンバー。色々な音色を組み合わせて、華やかさを演出したトラックをバックに、セクシーな歌声を聴かせるカミラの存在感が光る。2017年に大記録を樹立した”Despacito”にも通じる、情熱的で色っぽいメロディとアレンジも聴きどころ。

だが、本作の目玉は、なんといっても先行シングルの”Havana”だろう。本作でも多くの曲を手掛けている、フランク・デュークスのプロデュース作品で、ゲストとしてヤング・サグが参加したミディアム。ビートやメロディの随所にラテン音楽の要素を盛り込んでいるものの、どちらかといえばシックな印象を受けるポップス寄り曲だ。しかし、彼女の手にかかると、この曲が哀愁を帯びたR&Bに生まれ変わるから面白い、ヤング・サグの一歩引きつつ、リズミカルに言葉を紡ぐラップもいい味を出している。シンプルな作品が、アーティストの歌唱技術で豊かな表情を持った好例だと思う。

それ以外の曲では、本作からのプロモーション・シングル”Real Friends”も捨てがたい。フランク・デュークスが手掛けたこの曲は、ギターの弾き語りをバックにしたミディアム・バラードという意外な作品。硬い音色のギターをバックに、訥々と歌う姿が心に沁みる。ヒットするタイプの曲ではないが、何度も聴きたくなる良曲だ。

このアルバムの魅力はR&Bやラテン音楽を取り入れつつ、子供から大人まで楽しめる、親しみやすいポップスに落とし込んでいるところだ。収録曲の随所で、ヒップホップやレゲトン、キューバ音楽のエッセンスを感じさせながら、その手法にのめり込まず、誰もが楽しめるポップスに仕立てている。このバランス感覚が、彼女の音楽の醍醐味だと思う。

ビヨンセやジャスティン・ティンバーレイク、ゼインなど、ヴォーカル・グループ出身者が鎬を削るポップスの世界で、新たな台風の目となりそうな、面白い作品。R&Bやラテン音楽に興味をもった人の、最初の1枚としてオススメ。

Producer
Frank Dukes, Skrillex, T-Minus, The Futuristics etc

Track List
1. Never Be The Same
2. All These Years
3. She Loves Control
4. Havana feat. Young Thug
5. Inside Out
6. Consequences
7. Real Friends
8. Something’s Gotta Give
9. In The Dark
10. Into It
11. Never Be The Same (Radio Edit)





Camila
Camila Cabello
Epic
2018-01-12

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