melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2018年03月

Snoop Dogg - Bible Of Love [2018 RCA Inspiration]

92年にドクター・ドレの”Deep Cover”に客演する形で表舞台に登場。同年に発表された、”Nuthin' but a 'G' Thang”の冒頭で、多くのラッパーに引用されるフレーズを残し、名を上げたスヌープ・ドッグことカルバン・ブロータス。

93年に、ドレがプロデュースを担当した初のスタジオ・アルバム『Doggystyle』を発表。全世界で1000万枚を売り上げる大ヒット作になるが、同時期に殺人事件への関与が疑われたため、一時的に活動が停滞。また、ドレと所属レーベルのオーナー、シュグナイトとの軋轢もあり、2枚目のアルバム『Tha Doggfather』ではドレが制作から外れ、三年のブランクを挟んでのリリースとなる。

その後は、レーベルを移りながら、2017年までに15枚のスタジオ・アルバムと7枚のコラボレーション作品、3枚のEPと多くのミックス・テープを制作。2013年には、スヌープ・ライオンと改名してレゲエ・アルバム『Reincarnated 』を録音し、同じ年にはディム・ファンクと組んだ『7 Days of Funk』発表、2015年にはファレル・ウィリアムスが全面的にプロデュースした『Bush』を発売するなど、作品ごとに個性豊かなミュージシャンを起用し、リスナーの度肝を抜いてきた。

本作は、今年2月に発売されたEP『220』から僅か1か月、スタジオ・アルバムとしても2017年の『Neva Left』以来、約10か月ぶりとなる新作。アルバム毎に様々なコンセプトを提示してきた彼が、本作のテーマに選んだのはゴスペル(余談だが、彼は『Reincarnated 』を録音した時に、ラスタファリズムに改宗したはずだが、現在はどうなったのであろうか?)。ロニー・ベリアルなど、ヒップホップ畑のプロデューサーを多く招く一方、ゲストには、キム・バレルやメアリー・メアリーのような人気ゴスペル・ミュージシャンや、クラーク・シスターズやランス・アレンのようなゴスペル界の大御所、フェイス・エヴァンスやK-Ciのような有名R&Bシンガーまで、個性豊かな面々を招聘。ラッパーの視点を介した、ヒップホップに慣れ親しんだ若者にも楽しめる、キャッチーで格好良いゴスペル作品を残している。

30曲を超える収録曲のなかで、最初に目を惹いたのはフェイス・エヴァンスをフィーチャーした”Saved”。3rdジェネレーションと組ませ、力強いコール&レスポンスを披露した壮大なゴスペル・ナンバーだ。スヌープの声がほとんど入っていないので、どちらかといえばフェイスの新曲っぽい。ヒップホップの要素を織り込んだ曲が多い本作では珍しい、歌の力だけで勝負した良曲だ。

これに対し、『Hidden Figures』のサウンドトラックに収録されている”I See A Victory”でも美しい歌声を聴かせてくれたキム・バレルを起用した”Sunshine Feel Good”はロマンティックなメロディと滑らかな歌が心に残るミディアム。乾いた音色を使った軽快なビートは、ネプチューンズの作品っぽくも聴こえるが、プロデューサーはトネックスの名義で多くのヒット作を残している、西海岸出身のゴスペル・シンガー。B.スレイドだ。ジェイZの2017年作『4:44』でも、美しい歌声を聴かせてくれた彼女だけあって、ヒップホップとの相性は抜群だ。

また、近年はヒップホップやR&Bのミュージシャンとコラボレーションすることが多い、チャーリー・ウィルソンを招いた ”One More Day”は、キーボードの伴奏をバックに朗々と歌う姿が印象的なミディアム・バラード。色っぽい歌唱と、ダイナミックなパフォーマンスをを使い分ける技術が魅力のチャーリーだけあって、この曲でも豊かな表情を見せてくれる。

そして、アルバムの最後を締める ”Words Are Few”は、本作の収録曲を複数手掛けている、B.スレイドが参加した壮大なスロー・ナンバー。トネックス名義の作品でも聴かせてくれた、キャッチーでスタイリッシュなメロディやトラックと、大胆に強弱をつけたヴォーカル・アレンジで、親しみやすさと荘厳さを両立した曲作りは圧巻の一言、脇を固めるスヌープのラップが、曲に起伏をつける手法は、R&Bシンガーとの共演でも多用されているものだ。

このアルバムでスヌープが披露したのは、ヒップホップ・アーティストのフィルターを通した、現代のゴスペル音楽だ。ビートを含む伴奏やアレンジ、メロディでは若者に人気のヒップホップやR&Bの技法を盛り込みつつ、歌詞やヴォーカルでは王道のゴスペル・スタイルをきちんと聴かせる。この絶妙なさじ加減が、本作の醍醐味だと思う。

デビュー20年を超える大ベテランとなり、新しい音楽を開拓するだけでなく、既に存在する音楽の魅力を発掘して再評価する役割も求められれるようになった、スヌープ・ドッグの豊かな経験と高い制作技術が発揮された良作。多くのミュージシャンが自身の原点に掲げるゴスペルの魅力を、現代のヒップホップやR&Bに慣れ親しんだ若いリスナーに届けてくれる面白い作品だ。

Producer
Snoop Dogg, Lonny Bereal etc

Track List
Disc 1
1. Thank You Lord Intro feat. Chris Bolton
2. Love for God feat. Uncle Chucc, The Zion Messengers & K-Ci
3. Always Got Something to Say
4. Defeated feat. John P. Kee
5. In the Name of Jesus feat. October London
6. Going Home feat. Uncle Chucc & The Zion Messengers
7. Saved feat. Faith Evans & 3rd Generation(ereal Family)
8. Sunshine Feel Good feat. Kim Burrell
9. Sunrise feat. Sly Pyper
10. Pure Gold feat. The Clark Sisters
11. Pain feat. B Slade
12. New Wave feat. Mali Music
13. On Time feat. B Slade
14. You feat. Tye Tribbett
15. One More Day feat. Charlie Wilson
Disc 2
1. Bible of Love Interlude feat. Lonny Bereal
2. Come as You Are feat. Marvin Sapp & Mary Mary
3. Talk to God feat. Mali Music & Kim Burrell
4. Changed feat. Isaac Carree & Jazze Pha
5. Praise Him feat. Soopafly
6. Blessing Me Again feat. Rance Allen
7. Blessed & Highly Favored Remix feat. The Clark Sisters
8. Unbelievable feat. Ev3
9. No One Else feat. K-Ci
10. Chizzle feat. Sly Pyper & Daz Dillinger
11. My God feat. James Wright
12. When It's All Over feat. Patti LaBelle
13. Crown feat. Tyrell Urquhart, Jazze Pha & Issac Carree
14. Call Him feat. Fred Hammond
15. Change the World feat. John P. Kee
16. Voices of Praise
17. Words Are Few feat. B Slade








Me'Shell NdegéOcello - Ventriloquism [2018 Naive]

1993年にマーヴェリックから初のスタジオ・アルバム『Plantation Lullabies』を発表、エリカ・バドゥやディアンジェロに先駆けて、ヒップホップとソウル・ミュージックを融合した独創的な音楽を披露し、世間の度肝を抜いた、ミシェル・ンデゲオチェロこと、ミシェル・リン・ジョンソン。

軍隊に務める父親が駐留していたドイツのベルリンで生まれ、ワシントンD.C.で育った彼女は、音楽学校を卒業後、地元のゴー・ゴー・バンドなどに在籍。92年にマドンナが設立したマーヴェリックと契約すると、得意のジャズ・ベースとヒップホップやソウル・ミュージックの要素を盛り込んだ音楽性で、直ぐに頭角を現す。

その後は、初のナンバー・ワン・ヒットとなるビル・ウィザーズのカヴァー”Who Is He (And What Is He to You)?”などをリリースする一方で、マドンナやチャカ・カーンといった大物ミュージシャンの作品にも参加。同業者から高い評価を受けるミュージシャンとして、知られる存在になった。

本作は、2014年の『Comet, Come To Me』以来、約4年ぶりとなる通算12枚目のスタジオ・アルバム。2011年の『Weather』以降、彼女の作品を配給しているフランスのインディペンデント・レーベル、ナイーヴからのリリースで、収録曲は彼女が慣れ親しんできた80年代から90年代のR&Bのカヴァー。本作の売り上げはアメリカ自由人権協会に寄付されることがアナウンスされるなど、これまでの作品とは一味違う、強いメッセージ性を持ったアルバムになっている。

本作の収録曲で、真っ先に目を引いたのは、プリンスが86年に発表したアルバム『Parade』に収められている”Sometimes It Snows In April”のカヴァー。奇抜なファッションと先鋭的なサウンドが魅力のプリンスの作品では珍しい、ギターを使った弾き語りの楽曲を、彼女はバンドをバックに歌っている。鋭く繊細なハイ・テナーを、シンプルなギターの演奏で引き立てたプリンス版に対し、ミシェル版では、バンド編成によるどっしりとした伴奏と、派手ではないが強烈な存在感のあるアルト・ヴォイスで淡々歌い上げている。

また、本作で取り上げた曲の中では最も新しい”Waterfalls”は、TLCが95年にリリースしたポップス史に残る大ヒット作『Crazy Sexy Cool』からのシングル曲。オーガナイズド・ノイズがプロデュースした、泥臭いヒップホップのビートと、「夢の滝を追いかけないで、近くにあるものを大切にして」というガールズ・グループっぽくないメッセージを含む歌詞で、ポップスの歴史にその名を刻んだ大ヒット曲を、ギターとドラムを軸にしたシンプルなバンドと一緒にカヴァーしている。武骨なメロディと強いメッセージ性が魅力の作品だからか、バンドをバックに歌うアレンジがよく似合っている。ギターを強調した演奏や、強烈なメッセージを含む歌詞は、ボブ・ディランのような往年のフォーク・シンガーにも通じるものがある。

それ以外の曲では、ニュー・エディションのラルフ・トレスヴァントが90年に発表した”Sensitivity”の大胆なアレンジに驚かされる。ニュー・ジャック・スウィングを取り入れたポップなトラックと、甘酸っぱい歌声を活かした切ないメロディが心地よいミディアム・ナンバーを、管楽器などを使って軽妙なニュー・オーリンズ・ジャズに組み替えた演奏は、都会的な雰囲気の原曲とは全く違う魅力を放ってる。

そして、ニューヨーク出身の4人組ヴォーカル・グループ、フォースMDsが85年に発売、翌年には映画「Krush Groove」のサウンドトラックにも収録された”Tender Love”は、カントリーの要素を取り込んだパフォーマンス。ジャム&ルイスがペンを執り、アッシャーアリシア・キーズ、バックストリート・ボーイズなどが歌っているスタイリッシュなバラードを、原曲とは正反対の路線にアレンジすることで、新鮮に聴かせる発想が光っている。

このアルバムで彼女が取り組んでいるのは、近年、再び注目を集めている80年代、90年代のR&Bに独自の解釈を加え、新しい音楽として生まれ変わらせたものだ。ブルーノ・マーズの『24K Magic』など、80年代、90年代のR&Bに触発された作品は多くのミュージシャンが発表しているが、80年代から音楽を仕事にし、90年代以降は自身の録音作品を継続的に発表している彼女は、当時の音楽を取り入れるだけでなく、咀嚼し、自分の音楽に還元することで作品の隠れた魅力を掘り起こしている。

本作の発売前に彼女自身が言及した、ブルーノ・マーズなどとは異なるアプローチで、往年のR&Bの魅力を引き出した面白いアルバム。演奏者の感性と技術によって、同じ楽曲でも色々な表情を見せることを教えてくれる好事例だ。

Producer
Jebin Bruni, Me'Shell Ndegéocello

Track List ([]内は原曲を歌ったアーティスト)
1. I Wonder If I Take You Home [Lisa Lisa & The Cult Jam feat. Full Force]
2. Nite And Day [Al B. Sure!]
3. Sometimes It Snows In April [Prince]
4. Waterfalls [TLC]
5. Atomic Dog 2017 [George Clinton]
6. Sensitivity [Ralph Tresvant]
7. Funny How Time Flies (When You’re Having Fun)[Janet Jackson]
8. Tender Love [Force MDs]
9. Don’t Disturb This Groove [The System]
10. Private Dancer [Tina Turner]
11. Smooth Operator [Sade]





VENTRILOQUISM
MESHELL NDEGEOCELLO
NAIVE
2018-03-16

BIGBANG - FLOWER ROAD [2018 YG Entertainment]

2006年に、グループ名を冠したシングル”Bigbang”でレコード・デビュー。同年にリリースした初のスタジオ・アルバム『Bigbang Vol.1』が15万枚を売り上げるヒットになったことで、一気にブレイクしたYGエンターテイメント所属の5人組グループ、BIGBANG。

その後は、初のミリオン・ヒットとなった”Lies”や、北海道出身の日本人プロデューサー、Daishi・Danceが制作にかかわった”Haru Haru”(英題は”Day By Day”)、EDMとヒップホップを融合した独創的なサウンドと、奇抜なミュージック・ビデオが注目を集め、PSY(彼は5人の事務所の先輩でもある)の”Gangnam Style”とともに、韓国のポップスが欧米で注目されるきっかけとなった”Fantastic Baby”など、多くのヒット曲を発表。その一方で、各人のソロ活動やライブも精力的にこなし、フル・アルバムは3枚と寡作(ただし、EPを5枚発表している)ながら、2016年にはヴォーカル・グループとしてはワン・ダイレクションに次ぐ売り上げを叩き出し、世界屈指の人気ヴォーカル・グループとして、その名を知らしめた。

しかし、メンバーが30歳(注:韓国の男性は、特別な事情がない限り、30歳までに2年間の兵役に就く義務がある)を迎える2017年以降、最年長のT.O.P.(ただし、彼は後に諸事情により除隊)を皮切りに、順次に兵役に従事。入隊前のメンバーは、ソロ活動を中心に行っていたが、2018年の2月以降、彼らも順次軍務に就くため、音楽活動を休止している。

この曲は、2月にG-Dragon、3月にテヤンとデサンが従軍した直後、3月14日(日本では3月15日)にリリースされた、活動休止前最後のシングル。プロデューサーにはジェイソン・デルーロやフロー・ライダーなどの作品を手掛け、G-Dragonとテヤンのコラボレーション曲”Good Boy”をプロデュースしたことでも知られている、アメリカの音楽制作チーム、フリップトーンズを起用。また、ソングライターにはG-DragonとともにT.O.P.の名前も入るなど「5人が揃ってこそBIGBANG」というメンバーの強い意志と、ファンや音楽活動への強い思い入れを感じさせる作品になっている。

この曲を聴いて真っ先に驚いたのは、ネプチューンズの音楽を思い起こさせる独特の音質のドラムと、ギターの演奏を組み合わせた軽妙なサウンドを取り入れたことだ。しかし、癖のある音を組み合わせて、ストレートなヒップホップのビートを作る手法は、ネプチューンズというより、ファレルが2005年に発表した『In My Mind』の収録曲に近い。2016年のテディ・パクがプロデュースしたシングル”FXXK IT”でも使われた、彼らの作品では珍しいスタイルを、活動休止前のラスト・シングルに持ってくるセンスは大胆だ。

一方、主役である5人に目を向けると、一人一人の歌とラップをじっくりと聴かせる、絶妙な演出が光っている。”Loser”や”BAD BOY”、”FXXK IT”のように、ラップ担当とヴォーカル、全員の見せ場をきちんと作る、G-Dragonのソングライティング技術は流石としか言いようがない。

しかし、この曲の一番面白いところは、今までの作品以上に、尖ったサウンドを取り入れる一方、彼らの持ち味である、鋭いラップとパワフルなヴォーカルのコンビネーションをきちんと聴かせ、同時にしばしの別れとなるファンへのメッセージもしっかりと盛り込んでいるところだ。G-Dragonやテヤンがソロ作品で取り組んだ、アメリカのヒップホップやR&Bに傾倒したサウンドを取り入れて(といっても、T.O.P.の入隊日を考えると、ソロ作品の方が後に録音されていると思うが)、単なる記念作品ではない「彼らの新曲」として楽しませながら、ヴォーカル担当の3人が歌うサビでは「去りたいのなら見送って差し上げましょう」「あなたの通る道に花を撒いてあげましょう」「恋しくなったら戻ってきて」「その時はまた僕を愛して」「この花道を歩いて少し休んでいいから」「その場所で僕を待っていて」(歌詞の日本語訳は、日本盤を配給するYGEXのHPから引用)と、やんちゃな一面が魅力の5人らしい、器用な言葉遣いと不器用な愛情表現も見せている。この曲からは、兵役という大人への階段に挑む5人ではなく、年を重ねながらもヒップホップやR&Bを愛した続けた5人の少年が、ファンにしばしの別れと再会を約束をしているようにも映る。

アメリカのヒップホップやR&Bを咀嚼し、自分達の音楽に還元することで頭角を現し、最後には音楽市場のルールも書き換えてしまった彼ららしい、鋭い音楽センスと瑞々しい感性が光る良曲。ヒップホップを愛する5人の少年が再びファンのもとに戻ってきたとき、どんな音楽を聴かせてくれるのか、今から楽しみになる名曲だ。

Producer
G-Dragon, Flipnotes

Track List
1. Flower Road



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