melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

2018年05月

BTSを起点に韓国のR&B、ヒップホップの重要アーティストを並べてみた。

2018年6月2日付のビルボード総合アルバム・チャート で、BTSの『Love Yourself: Tear』がアジア出身のアーティストとしては史上初、外国語作品としてはイル・ディーヴォの『Ancora』以来12年ぶりとなる1位を獲得した。この記録については色々な意見はあるけれど、ヒップホップやR&Bが好きな自分にとっては、彼らの記録は時間をかけて現代の形になった、韓国のヒップホップやR&Bの一つの到達点のように映った。そこで、今回は番外編として、韓国のヒップホップやR&Bの歴史で重要な役割を果たしたアーティストと楽曲を9組取り上げてみた。

選定基準は
1.韓国のヒップホップやR&Bに何らかの影響を与えた(と思う)アーティストであること
2.単純な売り上げだけでなく、後の時代に何らかの影響を与えた曲であること
この二つ。
それでは、一組ずつ紹介してみよう。


Seo Taiji & Boys – Come Get Some [1995]

韓国のR&B、ヒップホップを語るにあたって、避けて通れないのが90年代前半に一世を風靡した、3人組ダンス・ヴォーカル・グループ、セオ・タジ&ボーイズ。当時、アメリカで流行していたニュー・ジャック・スウィングを取り入れ、歌って踊れてラップもできた同グループは、歌謡曲が中心だった韓国の音楽市場にR&Bブームを巻き起こした。また、グループの解散後、メンバーのヤン・ヒュンソクは芸能事務所YGエンターテイメントを設立。後述するBIGBANGなどのヒップホップ・アクトを育て、韓国をアジア屈指のヒップホップ大国にした。

この曲は、95年にリリースされた4枚目のアルバム『Seo Taiji and Boys IV』に収録。前作『Seo Taiji and Boys III』でロックに取り組んで人々を驚かせた彼らは、このアルバムでDr.DreやIce-Tなどの成功によって注目を集めていた、アメリカ西海岸のヒップホップに挑戦。収録曲の大半が検閲(当時、韓国では検閲制度が存在した)に引っ掛かったという、ポップ・スターらしからぬ過激なリリックと、本場のギャングスタ・ラップにも見劣りしない重厚なサウンドが話題になった。余談だが、BTSは2016年に、セオ・タジの芸能生活25周年記念の企画で、この曲のリメイクにも挑戦している。原曲の雰囲気を残しつつ、21世紀を生きる彼らに合わせてリリックを書き直したラップは必聴。






1TYM – 1TYM [1998]

セオ・タジ&ボーイズ解散後、ヤン・ヒュンソクが立ち上げたYGエンターテイメントからデビューしたのが、4人組の男性グループ1TYM(ワンタイム)。曲の途中でラップを挟む、歌って踊れるヴォーカル・グループが主流の時代に、ラップを中心に据えた独自のスタイルで。後進に多くの影響を与えた。また、グループの解散後、中心人物のテディ・パクはプロデューサーに転身、BIGBANGの”Fantastic Baby”や2Ne1の”Fire”といったヒット曲を数多く手掛け、アジア屈指のヒット・メイカーとして歴史に名を残した。余談だが、BTSのラップ担当の3人は、オーディションの合格時に「1TYMみたいな(あまり踊らない)本格的なラップグループを作ろう」と口説かれたらしい(その後は言う由もがな)。


Young Gun Silver Fox ‎– AM Waves [2018 Légère Recordings]

60年代、70年代のソウル・ミュージックと、現代のR&Bを融合した作風で音楽好きを唸らせている、ロンドンを拠点に活動するR&Bバンド、ママズ・ガン。同バンドの中心人物であるアンディ・プラッツと、エイミー・ワインハウスやケリス、トミー・ゲレロなど、名だたるアーティストと仕事をしてきたプロデューサーのショーン・リー、強烈な個性と多芸っぷりでファンの多い二人が組んだ音楽ユニットが、このヤング・ガン・シルバー・フォックスだ。

2015年にリリースした初のスタジオ・アルバム『West End Coast』は、ボビー・コールドウェルやTOTOに代表される、電子楽器などを多用し、ソウル・ミュージックやジャズのエッセンスを盛り込んだ音楽性が魅力のロック、AORの手法をソウル・ミュージックに取り込むという逆転の発想でリスナーの度肝を抜いた彼ら。3年ぶりの新作となるこのアルバムでも、前作に引き続き、ロックとソウルを融合したスタイリッシュな音楽を聴かせている。

本作のオープニングを飾るシングル曲”Midnight In Richmond”は、シンセサイザーを使った煌びやかな伴奏と、流れるようなメロディが心地よいアップ・ナンバー。ちょっと荒っぽくかき鳴らされるギターや、肩の力を抜いてゆったりとリズムを刻むドラムが、楽曲にリラックスした雰囲気をもたらしている。

これに対し、本作のリリース後にシングル・カットされた”Take It Or Leave It”は、ブラッドストーンやニュー・バースにも通じる、洗練されたグルーヴと、爽やかなメロディが魅力のミディアム・ナンバー。太く柔らかい音色の楽器を使うことで、グルーヴを強調しつつ、ゆったりとした雰囲気を醸し出している点が特徴だ。

また、本作では珍しい、力強いベースの音色が印象的な”Caroline”は、ジーン・チャンドラーの”Does She Have A Friend?”にも少し似ている、力強い低音とロマンティックなメロディの組み合わせが面白いミディアム・ナンバー。伴奏の音数を絞り、ベースの音に重ねることで、低音を強調しつつ、落ち着いた雰囲気の伴奏の上で、朗々と歌い上げるアンディの姿は、洗練されたサウンドとダイナミックな歌唱表現が同居した80年代のソウル・ミュージックを彷彿させる。

そして、本作の最後を飾る”Lolita”は、彼らの作風を象徴するような、明るい雰囲気のアップ・ナンバー。軽やかにリズムを刻む、乾いた音色のギターや、グラマラスな響きを聴かせるベースが心地よいサウンドをバックに、サラサラと流れるようなメロディを歌うスタイルが心に残る。これからの季節に似合いそうな音楽だ。

彼らの音楽の面白いところは、アフリカ系アメリカ人の音楽であるソウル・ミュージックやジャズの要素を直接取り入れるのではなく、これらの音楽を白人が研究し自分達の音楽に組み替えた、AORやフュージョンのスタイルを参照しているところだ。本格的なソウル・ミュージックを聴かせる、ママズ・ガンのアンディをフロントに据えながら、サウンドには白人の解釈を通したAORなどの技法をふんだんに混ぜ込んでいる。この、他者のフィルターを介した音楽を利用することで、自分達の感性だけでは生み出せない、独創的な音楽を生み出していると思う。

ビリー・プレストンがビートルズでの経験を活かして、ゴスペルにロックのエッセンスを盛り込んだように、人種の異なるミュージシャンの音楽を参照することで、自分達の音楽に新しい視点を加えた異色のユニット。暑い季節を涼しくしてくれる、グラマラスなヴォーカルと洗練された伴奏が光る、洒脱さが魅力のソウル作品だ。

Producer
Shawn Lee

Track List
1. Midnight In Richmond
2. Lenny
3. Take It Or Leave It
4. Underdog
5. Mojo Rising
6. Just A Man
7. Love Guarantee
8. Caroline
9. Kingston Boogie
10. Lolita




AMウェイヴズ
ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス
Pヴァイン・レコード
2018-05-02


August Greene - August Greene [2018 Original Amazon Records]

92年にアルバム『Can I Borrow a Dollar? 』を発表して以降、サンプリングと電子楽器を効果的に組み合わせたトラックと、詩的でありながら随所にウィットに富んだ表現を盛り込んだラップで人気を博し、近年は俳優としても活動しているコモン。ジャズとヒップホップやR&Bを混ぜ合わせた独特の音楽性が注目を集め、2014年には、ジャズ・ピアニストでありながら、グラミー賞の最優秀R&Bアルバム部門を獲得したロバート・グラスパー。DJやラッパーとしても活動している経験を活かし、既存のジャズの形式には囚われない、多彩なビートを繰り出すスタイルで、多くのミュージシャンの作品を裏表から支えてきたカリーム・リギンス

独創的な作風で、確固たる地位を築いてきた3人が結成した音楽ユニットが、このオーガスト・グリーンだ。

ネットフリックスで放送され、アカデミー賞にもノミネートしたドキュメンタリー「13th -憲法修正第13条-」(「修正第13条」とは奴隷制度の廃止条項のこと)に提供し、エミー賞を獲得した”Letter to The Free”を一緒に制作したことをきっかけに、三人のコラボレーションはスタート。

2018年1月にお披露目のライブを行うと、3月には初のスタジオ・アルバムとなる本作を大手通販サイト、アマゾンの配信サービス限定でリリース。その後、他のサービスでも順次配給されるようになった。

このアルバムでは、サウンズ・オブ・ブラックネスの同名曲のリメイク”Optimistic”を除く、ほぼ全ての曲で3人がプロデュースとソングライティングを担当。ゲストには、ブランディのほか、キーボード奏者のサモーラ・ピンダーヒュージスが参加。実績と実力には定評のある面々によって、徹底的に練り上げられた作品になっている。

収録曲の中で最初に目を惹いたのは、2曲目の”Black Kennedy”。スネアの音をずらすことで、聴き手の心に微妙な違和感と強い印象を残すトラックに、リズミカルなラップやポロポロとつま弾かれるピアノの伴奏を組み合わせた作品だ。癖のあるサウンドとロマンティックな演奏を一つの楽曲に同居させる繊細な感性と高い技術が光っている。ロバートのヴォーカルが、ジョン・レジェンドに少し似ている点も面白い。

これに続く”Let Go”は、カリーム・リギンスやロバート・グラスパーの真骨頂ともいえる、生演奏で構成されたヒップホップのビートと、哀愁を帯びたフレーズが印象的な作品。派手なトラックで耳目を惹くことが多いヒップホップの世界では異色のトラックだが、ボビー・コールドウェルの”Open Your Eyes”をサンプリングした”The Light”などのヒット曲を残してきたコモンだけあって、派手さはないが味わい深いビートも、きちんとキャッチーなヒップホップに落とし込んでいる。

これに対し、3人の個性が強く打ち出されているのが”The Time”だ。ドラムンベースの要素を取り入れた癖のあるビートで聴き手を揺さぶるカリームに、複数の鍵盤楽器を用いた優雅な伴奏を鳴らすロバート、複雑かつ上品という、個性的なトラックに合わせて、言葉を選びつつ、器用にラップを繰り出すコモンという、三者の個性が上手く噛み合った良曲だ。

だが、本作の目玉はなんといってもサウンズ・オブ・ブラックネスが91年にリリースした”Optimistic”のカヴァー。原曲でリード・ヴォーカルを担当していたアン・ネスビーのパートを、この曲ではブランディ―が歌唱。サンプリングを多用した太いビートを生演奏で再現する演出や、楽曲の大半をブランディが歌うR&B作品に仕立てながら、絶妙なタイミングでラップを挟み込む構成など、細かい気配りが心に残る。90年代から活躍するアーティストや、当時の音楽に造詣の深い面々が揃ったことで実現した、懐かしさと新鮮さが入り混じった作品だ。

このアルバムの魅力は、生演奏やサンプリングを用いたヒップホップを得意としながら、異なるアプローチと手法で、自分の音楽を確立してきた3人の個性が一つの音楽に同居しているところだと思う。カリーム・リギンスが生み出すビートは、ヒップホップだけでなく、ジャズやドラムン・ベースなど、様々なジャンルの手法を取り込みつつ、ヒップホップのウリである腰を刺激するグルーヴになっているし、ロバート・グラスパーの伴奏は、音の配置や音色だけでなく、曲の展開に応じて音の強弱やテンポまで大きく変える、ピアニストならではのアレンジを披露している。また、この強烈な個性を持つトラックの上で、コモンは伴奏のリズムを崩すことなく、リズミカルかつ丁寧にコンシャスなメッセージ言葉を繰り出している。この3者の共通点を意識しながら、各人の持ち味がきちんと発揮される。

三者三葉のアプローチで、ヒップホップやR&Bの世界に多くの足跡を残してきた3人にしか作れない。ありそうでなかった独創的なアルバム。このプロジェクトを経験した3人が、次はどんな音楽を生み出してくれるのか期待が膨らむ充実の内容だ。

Producer

Karriem Riggins, Robert Glasper

Track List
1. Meditation
2. Black Kennedy
3. Let Go feat. Samora Pinderhughes
4. Practice feat. Samora Pinderhughes
5. Fly Away
6. Aya
7. Piano Interlude
8. No Apologies
9. The Time
10. Optimistic feat. Brandy
11. Swisha Suite







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