2017年の終わり、12月22日に突如リリースされた、フランスのシンガー・ソングライター兼ビート・メイカー、スクレリー・ボーイの新作。

自身のホームページを持たず、SNSのプロフィール欄には「あなたの心の中に住んでます」と書くなど、ロマンチストなのか、食わせ者なのかよくわからない謎の男。だが、サンダーキャットケイトラナダを思い起こさせる、シンセサイザーを多用した前衛的な音色を使いこなし、ジェイ・ディラを彷彿させる音と音の隙間を効果的に聴かせるビートを組み上げる。かと思いきや、マックスウェルやロビン・シックを連想させる滑らかで繊細なシルキー・ボイスに、ベイビーフェイスなどの流れをくむ90年代フレーバーの強い流麗なメロディを組み合わせるなど、他のアーティストとは一味違う、独自の作風を確立。2014年にアルバム『Karma』でデビューして以来、2017年までに4枚のフル・アルバムとEPを発表するなど、精力的に活動してきた。

このアルバムは、2017年の5月にリリースしたEP『+++』から約7か月という、短い間隔で制作された通算5枚目のアルバムにして2枚目のフル・アルバム。前作同様、フランスのビート・メイカー、プラチナム・ウェーブとの共同プロデュース作品で、彼自身もリッチー・ビーツの名義で制作を担当。彼らに加え、3010やクライシーといった、フランスで活動する実力派ミュージシャンが複数参加した、力作になっている。

アルバムのオープニングを飾る”XXX”は、ビートからヴォーカルまで、ほぼ全てを彼一人で作り上げたミディアム・ナンバー。ピアノを使った不協和音が不気味な印象を与えるイントロから、同じ音色を使った細やかな伴奏のトラックへと変化していく流れが面白い曲。これに続くヴォーカルは、クリス・ブラウンの新作を思い起こさせる、畳み掛けるように次々と言葉を繰り出すラップ寄りのもの。ラップのエッセンスを取り入れたヴォーカルは、粗削りなイメージを持たれがちだが、線は細いがしなやかなヴォーカルのおかげで、違った雰囲気に聴こえる。マックスウェルの声とクエヴォのフロウが融合し、トキモンスタのビートを乗りこなしたような、不思議な雰囲気の曲だ。

また、3010が客演した”Hype”は、トレイ・ソングスアッシャーの近作を彷彿させる、バウンズ・ビートを取り入れつつ、上品に纏め上げたトラックと、滑らかな歌声を活かして丁寧に歌う姿が印象的なミディアム・ナンバー。艶やかなテナー・ヴォイスから、武骨な地声を使ったヴォーカルを巧みに使い分ける姿が格好良い。楽曲の途中で挟まる軽妙なラップもいい味を出している。アメリカのR&Bのトレンドを踏襲しつつ、細かいアレンジに気を配ることで、彼らとは一味違う作品に仕立て上げられている。

そして、本作の発売1週間前にミュージック・ビデオが公開された”Asonzo ”は、レゲトンやアフリカのヒップホップのテイストを盛り込んだ陽気なトラックと、哀愁を帯びたメロディの組み合わせが面白いミディアム・ナンバー。明るいビートと切ないメロディを組み合わせた音楽といえば、ケヴィン・リトルの”Turn Me On”やウェイン・ワンダーの”No Letting Go”など、多くのヒット曲が作られている。だが、この曲では、音色こそ陽気なものの、それを組み合わせて作られたトラックはトレイ・ソングスやマーカス・ヒューストンを連想させるシックなもの、その上に乗るヴォーカルも、繊細なテナー・ヴォイスを活かしたスタイリッシュなものだ。中南米やアフリカの音楽の要素盛り込みつつ、あくまでも都会的で洗練された楽曲に纏め上げたセンスが光る楽曲だ。

それ以外の曲ではフランスのヒップホップ・アーティスト、クライシーと組んだ”06:00”も面白い。サックスやピアノの音を混ぜ合わせたトラックは、ヒップホップというよりジャズやシャンソンの香りすら漂う、退廃的で幻想的な雰囲気のもの。そこに、か細い歌声で切々と言葉を紡ぐ二人のヴォーカルが合わさった楽曲は、インターネット経由で流れるR&Bというより、場末のバーで流れる小洒落たポピュラー・ミュージックといった趣だ。

彼の音楽は、アメリカのR&Bの変遷に目を配りつつ、R&Bのトレンドとは微妙に距離を置いた、独特の作風が印象的だ。エレクトロ・ミュージックや往年のポピュラー・ミュージックといった、様々なジャンルの音楽のエッセンスを取り入れ、R&Bでありながら、先鋭的なサウンドと懐かしい雰囲気を両立している点も大きいだろう。この、雑駁さと一貫性を同時に実現する編集能力と、緻密な表現を可能とするヴォーカルの技術が、彼の音楽を作り上げていると思う。

マックスウェルやロビン・シックの系譜に立つヴォーカルと、ベイビーフェイスやトリッキー・スチュアートを連想させる美しいメロディを生み出す技術、そこに様々な音楽を取り入れる見識の広さとセンスが合わさったことで生まれた高い水準の作品。アメリカのミュージシャンとは異なるアプローチで、R&Bの可能性を広げた良作だと思う。

Producer
Platinumwav & Richie Beats etc

Track List
1. XXX
2. Hype feat. 3010
3. R.
4. 888
5. 02:22 (Freestyle)
6. J.Blues (skit1)
7. Asonzo
8. B.J (Boca Junior)
9. 06:00 feat. Krisy
10. U2
11. No Lov3 feat. Joke
12. Home Alone feat. Gracy Hopkins
13. J.Blues (Skit 2)
14. Bleu
15. I-Motion
16. Diamants