インターネット上に公開した作品から火が付き、ジル・スコットやアンダーソン・パック、タイリースなど、多くの有名ミュージシャンの作品に起用されてきたカリフォルニア州イングルウッド出身のシンガー・ソングライター、サーことダリル・ファリス。

2015年にケンドリック・ラマーシーザ、スクールボーイQなどを擁する西海岸のレーベル、トップ・ドーグと契約。同社に所属するミュージシャンを含む、色々なアーティストの支援を受けながら、2枚のEPを録音すると、その先進的な作風が高い評価を受ける。また、DJジャジー・ジェフによる音楽プロジェクト、ザ・プレイリストや元デスティニーズ・チャイルドのラトーヤ・ラケットの作品に参加するなど、色々な場所で腕を振るってきた。

彼女にとって、このアルバムは、2017年のEP『HER TOO』以来、約11か月振りとなる新作。それと同時に、フレッシュ・セレクトから発表した2015年の『Fresh Sundays』以来となる、トップ・ドーグでは初のフル・アルバムでもある。ゲストにはイギリスのシンガー・ソングライター、エッタ・ボンドやレーベル・メイトのスクールボーイQが参加し、収録曲のプロデュースをアンドレ・ハリスやDJカリル、ハーモニー・サミュエルズなどが担当。商業面で大きな成果を上げつつ、音楽通を唸らせる作品を残してきた面々が集結し、尖った感性と繊細な表現が魅力の彼女の持ち味を、巧みに引き出している。

アルバムの実質的な1曲目となる”That's Alright”はJ.LBSデュースした曲。太く、粗削りな重低音がエイドリアン・ヤングやジェイ・ディラを思い出させるミディアム・ナンバーだ。エフェクターの影響か、若い男性のような爽やかで芯の強い声が強く心に残る。シーザやシドにも通じる部分があるが、彼女達とは一線を画したしなやかさが印象的な佳曲だ。

これに対し、スクールボーイQをフィーチャーした”Something Foreign”は、哀愁を帯びたピアノの伴奏が物悲しい雰囲気を醸し出すミディアム・ナンバー。ニューヨークを拠点に活動するプロデューサー、サクソンが作る、古いレコードから抜き出したような温かい音色が心地よい。ATCQやナズの初期作品を連想させる、ヒップホップのエッセンスを盛り込みつつ、繊細なヴォーカルで彼女の音楽に落とし込んでいる。

また、エッタ・ボンドが客演した “Something New”は、チャンス・ザ・ラッパーなどの楽曲を手掛けているラスカルがプロデュースした曲。リズム・マシンのビートと、ギターなどの上物を組み合わせたトラックは、インディア・アリーやジル・スコットの作風に近い。所々でタメを効かせるなど、ビートを自在に乗りこなすサーと、細くしなやかな歌声を活かすため、リズムに忠実に歌うエッタの対照的な歌唱が面白い。

そして、本作に先駆けて公開された”Summer in November”はアンドレ・ハリスがビートを手掛けたミディアム・ナンバー。重く柔らかい音色のドラムとベースの上で、太いシンセサイザーの音色が響く重厚なトラックの上で、色っぽい歌声を響かせている。温かいサウンドはブライトサイド・オブ・ダークネスやデルズが70年代に残した、甘いムードと洗練されたメロディ、泥臭い伴奏が同居したシカゴ・ソウルの名曲を連想させる良作だ。

今回の作品では、DAWソフトやシンセサイザーを多用しつつ、太く荒々しい音色を使って、往年のソウル・ミュージックが持つ泥臭さを積極的に取り込んでいる。この、往年のソウル・ミュージックを意識したサウンドが、繊細でしなやかな、だけど少し荒々しいヴォーカルと合わさり、いつの時代の音楽とも一味違う作品に仕立て上げている。このヒップホップやR&B、ソウル・ミュージックを飲み込み、自分の音楽に昇華する大胆さが、彼女の強みだと思う。

トップ・ドッグの最終兵器といっても過言ではない、恵まれた歌声と高い技術、鋭い音楽センスを兼ね備えた彼女の才能が、名プロデューサーの手によって開花した捨て曲のない良質なアルバム。5年後の音楽を先取りしながら、昔のソウル・ミュージックやヒップホップの良さをきちんと受け継いだ、稀有な作品だ。

Producer
Andre Harris, Dj Kahlil, J.LBS, Raskals, Saxon

Track List
1. Gone
2. That's Alright3. Something Foreign feat. ScHoolboy Q
4. D'Evils
5. Something New feat. Etta Bond
6. I Know
7. Never Home
8. War
9. Better
10. Dreaming of Me
11. Summer in November





November [Explicit]
Top Dawg Entertainment
2018-01-19