1995年にシングル”I Want You Back”で表舞台に登場すると、その後は”Bye Bye Bye”や”Pop”といったヒット曲を次々と発表。2002年までの間に3枚のアルバムをリリースし、バックストリート・ボーイズとともに、90年代の音楽シーンをけん引。男性ヴォーカル・グループとしては、歴代8位に入るセールスを記録しているインシンク。

同グループでリード・シンガーを担当していたジャスティン・ティンバーレイクは、オーティス・レディングやエルビス・プレスリーなどを輩出してきた、テネシー州メンフィス出身。教会でゴスペルのディレクターをしていた父母のもとで育った彼は、子供のころからアル・グリーンやスティーヴィー・ワンダーといった、ソウル・シンガーの音楽に慣れ親しんできた。

インシンクのメンバーとしてデビューした彼は、2002年にアルバム『Justified』でソロに転向。インシンクの”Girlfriend”をリミックスしている、ネプチューンズがプロデュースしたシングル”Like I Love You”を各国のヒットチャートに送り込み、アルバム自体も全世界で1000万枚を売り上げる大ヒット作にしている。そして、2006年にはティンバランドをプロデューサーに起用した『FutureSex/LoveSounds』を発表。2作連続で1000万枚を超える売り上げを記録し、アルバムに先駆けてリリースされたシングル”SexyBack"が、複数の国のシングル・チャートを制覇するなど、R&Bシンガーとしての実力の高さを世に知らしめた。

このアルバムは、2013年に発売した『The 20/20 Experience – 2 of 2』から、約4年半の期間を経てリリースされた、彼にとって通算5枚目のスタジオ・アルバム。これまでの作品同様、RCAが配給を担当した本作は、2作目以降のアルバムをプロデュースしてきたティンバランドに加え、デビュー作などに携わってきたネプチューンを招聘。彼の楽曲を数多く手掛けてきたヒット・メイカー達とともに、40歳を目前に控えた彼の、円熟したパフォーマンスと、時代の最先端を行くサウンドを、同時に堪能できる作品に仕上げている。

アルバムの1曲目は、ティンバランドとダンジャが制作に参加した”Filthy”。荒々しいギターの演奏から始まる、ロック色の強いイントロから、ビヨビヨというシンセサイザーの音が印象的なトラックへと繋がっていくミディアム・ナンバー。どっしりとした演奏をバックに、力強い歌声を響かせる姿は、メンフィス出身の伝説のシンガー、オーティス・レディングやアレサ・フランクリンのような迫力すら感じる。曲の途中で、スヌープ・ドッグの”Gin and Juice”やジェイZの”All I Need”のフレーズを盛り込む遊び心にも注目してほしい。

これに対し、”Man of the Woods”はネプチューンズの二人と共作したミディアム・ナンバー。軽やかにリズムを刻むギターや、泥臭いヴォーカルは、ルーファス・トーマスやウィリアム・ベルが60年代に残したリズム&ブルース色の強い楽曲を思い起こさせる。この曲に、ネプチューンズが使うトランポリンのように跳ねるビートや、アナログ・シンセサイザーの音色を組み合わせることで、60年代のリズム&ブルースと、2010年代の尖ったR&Bを融合しているところが面白い。往年の黒人音楽に造詣が深い一方で、新しいサウンドを生み出し続けるクリエイター達と積極的にコラボレーションしてきた、彼の強みが発揮された良曲だ。

そして、ネプチューンズとコラボレーションしたもう一つのシングル曲”Supplies”は、ネプチューンズが得意とするサウンドにトラップやベース・ミュージックの手法を組み合わせた作品。重低音が鳴り響くバック・トラックの上で、歌とラップを混ぜ合わせたスタイルはクリス・ブラウンのような、現代のR&Bシンガーによくみられるものだ。だが、ジャスティンはこの曲で図太い地声を効果的に使って、ワイルドなヒップホップに、泥臭いソウル・ミュージックを巧みに混ぜ合わせている。流行のサウンドを、独自の解釈で新しい音楽に聴かせた野心的な作品だ。

また、 プロデューサーにティンバランド、ゲスト・ヴォーカルにナッシュビル出身のシンガー・ソングライター、クリス・ステイプルトンを招いた”Say Something”は、本作の収録曲では異質な、アコースティック楽器を多用したミディアム・ナンバー。クリスとエリオット・アイヴィスに加え、ジャスティン自身もギターを演奏したこの曲は、シンセサイザーを駆使した神秘的なサウンドと、ギターをかき鳴らしながら言葉を投げる二人の姿が心に残る。レッドベリーやニール・ヤングを彷彿させる朴訥としたメロディと熱いヴォーカルが、ティンバランドの技術で都会的なポップスに生まれ変わっている点に目を向けてほしい。

今回のアルバムでは、これまでの作品以上に彼の歩んできたキャリアと、そこで積み上げてきた経験が発揮されていると思う。ボーイズ・グループ出身のジャスティンは、グループ時代にネリーやネプチューンズといったヒップホップ・アーティストとコラボレーションし、ソロ転向後はティンバランドやブラック・アイド・ピーズといった、音楽業界をけん引するミュージシャン達と優れた作品を残してきた。しかし、その一方で、シェリル・クロウの『100 Miles from Memphis』に参加し、PBSの企画「In Performance at the White House: Memphis Soul」では、ブッカーTジョーンズやスティーブ・クロッパーといった、親子以上の年代が離れた伝説のミュージシャン達に混ざって、バラク・オバマ大統領の前で、オーティスレディング”(Sittin' On) the Dock of the Bay”を披露するなど、所謂ルーツ・ミュージックを現代に受け継ぐ語り部的な役割も担っていた。この新しい音楽と古い音楽の両方に精通している彼の持ち味を活かしたことが、この作品に深みと独自性をもたらしていると思う。

若者を魅了するポップ・グループの一員に始まり、様々なアーティストとコラボレーションしながら、一人のシンガーとして確固たる個性を築き上げてきた彼が、自身のルーツである往年のポピュラー・ミュージックと、現代のヒップホップやR&Bを結びつけた魅力的なアルバム。グループ時代と変わらない、親しみやすさと大衆性を残しながら、アメリカの豊かな音楽文化を一つのアルバムに凝縮した本作は、あらゆる世代の人に親しまれる、懐かしさと新鮮さを感じさせるものだと思う。

Track List
Justin Timberlake, Timbaland, Danja, The Neptunes, J-Roc etc

Track List
1. Filthy
2. Midnight Summer Jam
3. Sauce
4. Man of the Woods
5. Higher Higher
6. Wave
7. Supplies
8. Morning Light feat.Alicia Keys
9. Say Something feat.Chris Stapleton
10. Hers (interlude)
11. Flannel
12. Montana
13. Breeze Off the Pond
14. Livin’ Off the Land
15. The Hard Stuff
16. Young Man






マン・オブ・ザ・ウッズ
ジャスティン・ティンバーレイク
SMJ
2018-02-02