ケイレブ・ホウレーは、プリンスやジャム&ルイスなどを輩出してきた、ミネソタ州ミネアポリス出身のシンガー・ソングライター。

子供のころから、プリンスなどの音楽に慣れ親しんできた彼は、次第に自分でも音楽を作るようになる。そして、2009年の『Steps』を皮切りに、2016年までに3枚のアルバムを発表。ロックやファンク、ディスコ音楽などを飲み込みながら発展してきた、ミネアポリスのサウンドを踏襲したスタイルで、多くの音楽ファンを楽しませてきた。

今回のアルバムは、彼にとって3年ぶり4枚目の録音作品。全ての曲でホウレー自身がペンを執る一方、フェイス・エヴァンスアンジー・ストーンの楽曲を手掛けている、プリンス・チャールズ・アレクサンダーなどがプロデュースで参加。プリンスやジャム&ルイスなどの手で世界に広まった、シンセサイザーを多用したファンキーなソウル・ミュージックを現代に蘇らせている。

アルバムの2曲目は、本作に先駆けて発表された”Addiction”。プリンス・チャールズ・アレクサンダーが共同プロデューサーとして名を連ねたこの曲は、ウェイン・マーシャルの”Check Yourself”などに使われたレゲエのリディム、”Masterpiece”によく似たビートを組み込んだアップ・ナンバー。口笛のように軽妙なヴォーカルと、変則的なビートのコンビネーションが新鮮だ。

続く”Pieces On The Inside”は、地鳴りのようなドラムと、色々な楽器を組み合わせた、色鮮やかな伴奏が心地よいミディアム。多くの楽器を使い分けるスタイルは、タジ・マハルの70年代の録音のような、ロックやアメリカのルーツ・ミュージックを積極的に取り込んだ音楽を彷彿させる。ブルースが盛んとは言いづらいミネアポリスの出身ながら、アメリカのルーツ音楽を貪欲に取り入れる姿勢には驚くばかりだ。

これに対し、ケレイブ自身がプロデュースしたバラード”Spinnin”は、シンセサイザーを駆使したモダンなアレンジと、絶頂期のプリンスが降臨したと錯覚しそうな、艶めかしいハイ・テナーが心を揺さぶる名演。しなやかで色っぽい歌声は、プリンスというよりロナルド・アイズレーに近い。

そして、本作の収録曲では一番最初に公開された”U & I”は、パンチの効いたドラムと、ギターの弾き語りを組み合わせた伴奏が気持ち良いミディアム・バラード。パワフルな演奏をバックに、切々と歌い上げる姿が印象的。アデルやエド・シーランなどのヒットで、ファンを広げているロック色の強いバラードを巧みに取り込んでいる。

このアルバムで彼が披露したのは、プリンスに代表されるミネアポリスのブラック・ミュージックをベースに、彼らが活躍した80年代のソウル・ミュージックや、それ以前の時代のブルース、、現代のR&Bやロックまで、様々な時代の音楽を研究し、融合したものだ。アナログ・シンセサイザーを使った幻想的な音色を、ダンス・ミュージックに組み込んだプリンスの手法から、泥臭い演奏で歌に重みを与えたブルース寄りのバラードまで、色々なスタイルの音楽に食指を伸ばしながら、きちんと自分の作品に落とし込んでいるのは、彼が音楽への深い造詣と高い技術を持ってるからだろう。

ソウル・ミュージックへの愛を隠すことなく楽曲に注ぎ込み、聴き手を楽しませる作品へと昇華させた貴重な作品。若い世代には往年のブラック・ミュージックが持つ魅力を、年季を積んだ人には、当時の音楽を新鮮な解釈で楽しませてくれる良質なアルバムだ。

Producer
Caleb Hawley, Doxa, Drew Ofthe Drew & Prince Charles Alexander

Track List
1. Carelessly
2. Addiction
3. Pieces On The Inside
4. We All Got Problem
5. I Choose
6. Spinnin
7. Dive Bar
8. Stalk Me
9. Goodbye
10. U & 1
11. Thank You
12. Thank You (Outro)
13. GIve It Away
14. I Just Want You
15. I Want Your Innocence
16. Little Bit of Bad