2015年に自主制作で発表したEP『Moon Shoes』が、音楽通の間で注目を集めたことをきっかけに、アトランティックと契約。2016年に同作をアトランティックから再発すると、音と音の隙間を効果的に使った構成と、繊細なヴォーカルで多くの人を魅了した、イリノイ州シカゴ出身のシンガー・ソングライター、ラヴィン・レネー・ワシントン。

シカゴで生まれ育った彼女は、教会で宣教師をしていた祖父の影響もあり、子供のころから教会で音楽に慣れ親しんでいた。そんな彼女は、シカゴのハイスクールでクラシック音楽を専攻。卒業後は自身の作品を作りながら、同郷のプロデューサー、モンテ・ブッカーや、セントルイス出身のラッパーのスミノなどとコラボレーションしてきた。また、それらの縁もあり、2015年にはモンテが制作を担当した、自身名義では初となるミニ・アルバム『Moon Shoes』を録音している。

そして、2017年には2枚目のEP『Midnight Moonlight』をリリース。モンテに加え、シーザの作品に携わっているカーター・ラングなどが参加したことが話題になる。また、同じ年に行われたシーザのツアーでは、オープニング・アクトとして起用されるなど、着実に知名度を上げてきた。

このアルバムは、そんな彼女にとって、1年ぶり3枚目のEP。プロデューサーには初のソロ作品『Steve Lacy's Demo』を発表して話題になった、ザ・インターネットのスティーヴ・レイシーが担当。本作でも、バンド名義やシドの作品で魅せた、泥臭いソウル・ミュージックと先鋭的なヒップホップが融合した、独創的な音楽に取り組んでいる。

アルバムの1曲目は、本作からの先行シングル”Sticky”。不気味な雰囲気を醸し出すオルガンのイントロから、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの作品を彷彿させる乾いた音色のギターへと繋がる展開が面白い曲。少し早めのイントロから一転、ゆったりとしたテンポのビートの上で、ラップとも歌とも形容しがたい、個性的なパフォーマンスを披露するラヴィンの姿が光るっている。バック・トラックはエリカ・バドゥやシドの作品にも少し似ているが、ヒップホップのエッセンスを盛り込んだヴォーカルはドレイクっぽくも聴こえる不思議な音楽だ。

続く”Closer (Ode 2 U)”は、エフェクターを使って歪ませたギターの伴奏や躍動感あふれるビートが、サイケデリック・ロックとソウル・ミュージックを融合した、70年代初頭のファンカデリックやカーティス・メイフィールドを思い起こさせるアップ・ナンバー。バス・ドラムの音を強調して、現代のヒップホップっぽく纏め上げたトラックや、ラヴィンの繊細な歌声を際立たせた演出が、サイケデリックなソウル・ミュージックを、2018年のR&Bのように聴かせた異色の作品だ。

また、スティーヴをフィーチャーした”Computer Luv”は、彼の作品では珍しい、思いっ切りギターをかき鳴らすフォーク・ミュージック寄りのアレンジが新鮮な作品。複数のシンセサイザーの音色を組み合わせて、エフェクターを多用したサイケデリックなサウンドとは一味違う、幻想的なフォーク・ソングに仕立てた伴奏が聴きどころ。

そして、もう一つのコラボレーション曲”4 Leaf Clover”は、リズム・マシンを使った軽快なビートとパワフルなギターの音色が眩しいミディアム・ナンバー。70年代前半のロキシー・ミュージックやデイヴィッド・ボウイを連想させる、グラマラスな伴奏に乗って、爽やかなヴォーカルを披露する二人の姿が心に残る良曲だ。

今回の作品で彼女は、独創的なサウンドに定評のあるスティーヴを起用することで、自身の持ち味である尖ったR&Bを維持しつつ。それを新しい切り口で表現した作品を生み出すことに成功している。多くのバンド・メンバーを抱えるザ・インターネットの中でも一番若く、かつ個性的な作品を残しているスティーヴを相方に選ぶことで、ゴスペルやクラシック音楽から、最新のヒップホップやR&Bまで、色々なジャンルに取り組んできた彼女の強みが遺憾なく発揮されている。

恵まれた環境で色々なジャンルの音楽を吸収する一方、自身の作品では鋭いセンスを発揮してきた彼女の長所が、遺憾なく発揮された佳作。大ベテランのエリカ・バドゥを筆頭に、シーザやシドといった多くの名シンガーが鎬を削る、ネオ・ソウルの分野に新しい風を吹き込んだ良盤だ。

Producer
Steve Lacy

Track List
1. Sticky
2. Closer (Ode 2 U)
3. Computer Luv feat. Steve Lacy
4. The Night Song
5. 4 Leaf Clover feat. Steve Lacy





Crush EP [Explicit]
Atlantic Records/Three Twenty Three Music Group
2018-02-09