2006年に、グループ名を冠したシングル”Bigbang”でレコード・デビュー。同年にリリースした初のスタジオ・アルバム『Bigbang Vol.1』が15万枚を売り上げるヒットになったことで、一気にブレイクしたYGエンターテイメント所属の5人組グループ、BIGBANG。

その後は、初のミリオン・ヒットとなった”Lies”や、北海道出身の日本人プロデューサー、Daishi・Danceが制作にかかわった”Haru Haru”(英題は”Day By Day”)、EDMとヒップホップを融合した独創的なサウンドと、奇抜なミュージック・ビデオが注目を集め、PSY(彼は5人の事務所の先輩でもある)の”Gangnam Style”とともに、韓国のポップスが欧米で注目されるきっかけとなった”Fantastic Baby”など、多くのヒット曲を発表。その一方で、各人のソロ活動やライブも精力的にこなし、フル・アルバムは3枚と寡作(ただし、EPを5枚発表している)ながら、2016年にはヴォーカル・グループとしてはワン・ダイレクションに次ぐ売り上げを叩き出し、世界屈指の人気ヴォーカル・グループとして、その名を知らしめた。

しかし、メンバーが30歳(注:韓国の男性は、特別な事情がない限り、30歳までに2年間の兵役に就く義務がある)を迎える2017年以降、最年長のT.O.P.(ただし、彼は後に諸事情により除隊)を皮切りに、順次に兵役に従事。入隊前のメンバーは、ソロ活動を中心に行っていたが、2018年の2月以降、彼らも順次軍務に就くため、音楽活動を休止している。

この曲は、2月にG-Dragon、3月にテヤンとデサンが従軍した直後、3月14日(日本では3月15日)にリリースされた、活動休止前最後のシングル。プロデューサーにはジェイソン・デルーロやフロー・ライダーなどの作品を手掛け、G-Dragonとテヤンのコラボレーション曲”Good Boy”をプロデュースしたことでも知られている、アメリカの音楽制作チーム、フリップトーンズを起用。また、ソングライターにはG-DragonとともにT.O.P.の名前も入るなど「5人が揃ってこそBIGBANG」というメンバーの強い意志と、ファンや音楽活動への強い思い入れを感じさせる作品になっている。

この曲を聴いて真っ先に驚いたのは、ネプチューンズの音楽を思い起こさせる独特の音質のドラムと、ギターの演奏を組み合わせた軽妙なサウンドを取り入れたことだ。しかし、癖のある音を組み合わせて、ストレートなヒップホップのビートを作る手法は、ネプチューンズというより、ファレルが2005年に発表した『In My Mind』の収録曲に近い。2016年のテディ・パクがプロデュースしたシングル”FXXK IT”でも使われた、彼らの作品では珍しいスタイルを、活動休止前のラスト・シングルに持ってくるセンスは大胆だ。

一方、主役である5人に目を向けると、一人一人の歌とラップをじっくりと聴かせる、絶妙な演出が光っている。”Loser”や”BAD BOY”、”FXXK IT”のように、ラップ担当とヴォーカル、全員の見せ場をきちんと作る、G-Dragonのソングライティング技術は流石としか言いようがない。

しかし、この曲の一番面白いところは、今までの作品以上に、尖ったサウンドを取り入れる一方、彼らの持ち味である、鋭いラップとパワフルなヴォーカルのコンビネーションをきちんと聴かせ、同時にしばしの別れとなるファンへのメッセージもしっかりと盛り込んでいるところだ。G-Dragonやテヤンがソロ作品で取り組んだ、アメリカのヒップホップやR&Bに傾倒したサウンドを取り入れて(といっても、T.O.P.の入隊日を考えると、ソロ作品の方が後に録音されていると思うが)、単なる記念作品ではない「彼らの新曲」として楽しませながら、ヴォーカル担当の3人が歌うサビでは「去りたいのなら見送って差し上げましょう」「あなたの通る道に花を撒いてあげましょう」「恋しくなったら戻ってきて」「その時はまた僕を愛して」「この花道を歩いて少し休んでいいから」「その場所で僕を待っていて」(歌詞の日本語訳は、日本盤を配給するYGEXのHPから引用)と、やんちゃな一面が魅力の5人らしい、器用な言葉遣いと不器用な愛情表現も見せている。この曲からは、兵役という大人への階段に挑む5人ではなく、年を重ねながらもヒップホップやR&Bを愛した続けた5人の少年が、ファンにしばしの別れと再会を約束をしているようにも映る。

アメリカのヒップホップやR&Bを咀嚼し、自分達の音楽に還元することで頭角を現し、最後には音楽市場のルールも書き換えてしまった彼ららしい、鋭い音楽センスと瑞々しい感性が光る良曲。ヒップホップを愛する5人の少年が再びファンのもとに戻ってきたとき、どんな音楽を聴かせてくれるのか、今から楽しみになる名曲だ。

Producer
G-Dragon, Flipnotes

Track List
1. Flower Road