1993年にマーヴェリックから初のスタジオ・アルバム『Plantation Lullabies』を発表、エリカ・バドゥやディアンジェロに先駆けて、ヒップホップとソウル・ミュージックを融合した独創的な音楽を披露し、世間の度肝を抜いた、ミシェル・ンデゲオチェロこと、ミシェル・リン・ジョンソン。

軍隊に務める父親が駐留していたドイツのベルリンで生まれ、ワシントンD.C.で育った彼女は、音楽学校を卒業後、地元のゴー・ゴー・バンドなどに在籍。92年にマドンナが設立したマーヴェリックと契約すると、得意のジャズ・ベースとヒップホップやソウル・ミュージックの要素を盛り込んだ音楽性で、直ぐに頭角を現す。

その後は、初のナンバー・ワン・ヒットとなるビル・ウィザーズのカヴァー”Who Is He (And What Is He to You)?”などをリリースする一方で、マドンナやチャカ・カーンといった大物ミュージシャンの作品にも参加。同業者から高い評価を受けるミュージシャンとして、知られる存在になった。

本作は、2014年の『Comet, Come To Me』以来、約4年ぶりとなる通算12枚目のスタジオ・アルバム。2011年の『Weather』以降、彼女の作品を配給しているフランスのインディペンデント・レーベル、ナイーヴからのリリースで、収録曲は彼女が慣れ親しんできた80年代から90年代のR&Bのカヴァー。本作の売り上げはアメリカ自由人権協会に寄付されることがアナウンスされるなど、これまでの作品とは一味違う、強いメッセージ性を持ったアルバムになっている。

本作の収録曲で、真っ先に目を引いたのは、プリンスが86年に発表したアルバム『Parade』に収められている”Sometimes It Snows In April”のカヴァー。奇抜なファッションと先鋭的なサウンドが魅力のプリンスの作品では珍しい、ギターを使った弾き語りの楽曲を、彼女はバンドをバックに歌っている。鋭く繊細なハイ・テナーを、シンプルなギターの演奏で引き立てたプリンス版に対し、ミシェル版では、バンド編成によるどっしりとした伴奏と、派手ではないが強烈な存在感のあるアルト・ヴォイスで淡々歌い上げている。

また、本作で取り上げた曲の中では最も新しい”Waterfalls”は、TLCが95年にリリースしたポップス史に残る大ヒット作『Crazy Sexy Cool』からのシングル曲。オーガナイズド・ノイズがプロデュースした、泥臭いヒップホップのビートと、「夢の滝を追いかけないで、近くにあるものを大切にして」というガールズ・グループっぽくないメッセージを含む歌詞で、ポップスの歴史にその名を刻んだ大ヒット曲を、ギターとドラムを軸にしたシンプルなバンドと一緒にカヴァーしている。武骨なメロディと強いメッセージ性が魅力の作品だからか、バンドをバックに歌うアレンジがよく似合っている。ギターを強調した演奏や、強烈なメッセージを含む歌詞は、ボブ・ディランのような往年のフォーク・シンガーにも通じるものがある。

それ以外の曲では、ニュー・エディションのラルフ・トレスヴァントが90年に発表した”Sensitivity”の大胆なアレンジに驚かされる。ニュー・ジャック・スウィングを取り入れたポップなトラックと、甘酸っぱい歌声を活かした切ないメロディが心地よいミディアム・ナンバーを、管楽器などを使って軽妙なニュー・オーリンズ・ジャズに組み替えた演奏は、都会的な雰囲気の原曲とは全く違う魅力を放ってる。

そして、ニューヨーク出身の4人組ヴォーカル・グループ、フォースMDsが85年に発売、翌年には映画「Krush Groove」のサウンドトラックにも収録された”Tender Love”は、カントリーの要素を取り込んだパフォーマンス。ジャム&ルイスがペンを執り、アッシャーアリシア・キーズ、バックストリート・ボーイズなどが歌っているスタイリッシュなバラードを、原曲とは正反対の路線にアレンジすることで、新鮮に聴かせる発想が光っている。

このアルバムで彼女が取り組んでいるのは、近年、再び注目を集めている80年代、90年代のR&Bに独自の解釈を加え、新しい音楽として生まれ変わらせたものだ。ブルーノ・マーズの『24K Magic』など、80年代、90年代のR&Bに触発された作品は多くのミュージシャンが発表しているが、80年代から音楽を仕事にし、90年代以降は自身の録音作品を継続的に発表している彼女は、当時の音楽を取り入れるだけでなく、咀嚼し、自分の音楽に還元することで作品の隠れた魅力を掘り起こしている。

本作の発売前に彼女自身が言及した、ブルーノ・マーズなどとは異なるアプローチで、往年のR&Bの魅力を引き出した面白いアルバム。演奏者の感性と技術によって、同じ楽曲でも色々な表情を見せることを教えてくれる好事例だ。

Producer
Jebin Bruni, Me'Shell Ndegéocello

Track List ([]内は原曲を歌ったアーティスト)
1. I Wonder If I Take You Home [Lisa Lisa & The Cult Jam feat. Full Force]
2. Nite And Day [Al B. Sure!]
3. Sometimes It Snows In April [Prince]
4. Waterfalls [TLC]
5. Atomic Dog 2017 [George Clinton]
6. Sensitivity [Ralph Tresvant]
7. Funny How Time Flies (When You’re Having Fun)[Janet Jackson]
8. Tender Love [Force MDs]
9. Don’t Disturb This Groove [The System]
10. Private Dancer [Tina Turner]
11. Smooth Operator [Sade]





VENTRILOQUISM
MESHELL NDEGEOCELLO
NAIVE
2018-03-16