ボーイズ・グループ出身のオマリオンやマーカス・ヒューストン、ソングライターからキャリアを始めたニーヨやB.J.ザ・シカゴ・キッド、インターネット経由で火が付いたガラントやジャスティン・ビーバーなど、様々な出自のアーティストがしのぎを削るアメリカのR&B界。その中で、独特の存在感を発揮しているのが、シカゴ出身のシンガー・ソングライター、ジェレマイことジェレミー・フェルトンだ。

音楽一家に生まれ、3歳の頃から色々な楽器を演奏、のちにクラシック音楽の教育も受けている彼は、ハイスクールに進学すると、マーチング・バンドでジャズも経験。卒業後は大学で音楽ビジネスを学んできた音楽エリート。

大学在学中に音楽プロデューサーのミック・シュルツの知己を得た彼は、地元のラジオ局で働きながら、初のシングル”My Ride”を録音。同局がデフ・ジャムの創業者、リック・ルービンの目に留まり契約。2009年にメジャー・デビュー・シングル”Birthday Sex”を発表すると、総合シングル・チャートの4位に入る活躍を見せた。

その後も、学校に通う時期を挟みつつ、7年間で3枚のスタジオ・アルバムと2枚のEP、複数のミックステープを制作。アメリカ国内で50万枚を売り上げるヒットになったほか、収録曲がイギリスやオーストラリアでゴールド・ディスクを獲得するなど、作曲能力と歌唱力の両方で評価される、稀有なミュージシャンになった。

本作は、2017年の『Cinco De MihYo』以来となる3枚目のEP。自主制作だった前作から一転、デフ・ジャムの配給によるリリース。制作には、ニッキー・ミナージュなどの作品を手掛けているヒットメイカや、彼のアルバムに何度も参加しているレトロ・フューチャなど、豪華な面々が集結。実力に定評のあるクリエイターが生み出す、厳選された4曲を楽しめる。

アルバムの1曲目を飾る”Cards Right”は、プロデューサーにヒットメイク、ソングライターにエリック・ベリンガーが名を連ねたミディアム・ナンバー。ゆったりとしたテンポのトラックをバックに、透き通った歌声を響かせる姿が印象的、メロディの随所に、T-ペインを彷彿させるラップの表現技法が盛り込まれているのは、エリック・ベリンガーの影響だろうか。

続く、SMTSは、レトロ・フューチャが制作にかかわっているミディアム・ナンバー。チキチキという上物や、音数を絞ったビートは、トラップの手法を取り入れたものだが、雰囲気はトラップとは思えないほどロマンティック。メロディやトラックはクリス・ブラウンアッシャーっぽくも聴こえるが、繊細な歌声や滑らかな歌唱はR.ケリーやジョーにも通じるものがある。

また、”Forever I'm Ready”は90年代に一世を風靡した男性ヴォーカル・グループ、H-タウンの同名曲をサンプリングしたダイナミックなバラード。パンチの効いた音を厳選しているトラックは、シンプルだが味わい深いトラックが流行していた90年代のR&Bを踏襲したもの。このトラックに、泣き崩れるように歌うみずみずしいヴォーカルを組み合わせることで、90年代のR&Bの良さを取り入れつつ、2018年の新曲に落とし込んでいる。

そして、本作の最後を締める”Nympho”は、D.I.T.C.のO.C.の声をサンプリングしたスロー・ナンバー。ラッパーの声をサンプリングしているものの、曲調はロマンティックメロディとトラップのビートを組み合わせた、彼の十八番のスタイル。”SMTS”と同じレトロ・フューチャのプロデュースで、ジェレマイのしなやかな歌声と美しいメロディをじっくり聴かせる良曲だ。

彼の魅力は、美しい声やメロディをじっくり聴かせつつ、多彩な曲を用意するプロダクション能力。ジョーやトレイ・ソングスのような、磨き上げられた声と、丁寧な歌唱で勝負しつつ、新しい音を取り込み、楽曲の幅を広げることで、聴き手に新鮮な印象を与えている。このバランス感覚の良さが、彼の音楽の良さだと思う。

目まぐるしく流行が入れ替わるR&Bの潮流に乗りつつ、「魅力的な歌を聴かせる」という筋の通った作風が光る良作。前作が自主制作だったのでi色々と不安がよぎったが、それを杞憂だと思わせる充実の内容だ。

Producer Ayo The Producer, Flippa, Hitmaka, Keyzbaby, Paul Cabbin, Pop & Oak, Retro Future & SaucyKev

Track List
1. Cards Right
2. SMTS
3. Forever I'm Ready
4. Nympho