2016年にリリースしたアルバム『Starboy』が、アメリカ国内だけで200万枚を超える売り上げを記録し、フィンランドやオーストラリアなど、複数の国のヒット・チャートを制覇。ドレイクやジャスティン・ビーバーとともに、カナダ出身の世界的な人気アーティストとして知られるようになったウィークエンド。

2017年は、他のアーティストの作品への客演やプロデュース、自身名義のワールド・ツアーに力を注ぐなど、新作のリリースはなかったものの、2018年には映画「ブラック・パンサー」のサウンドトラックに参加。今後の動きが注目されていた。

本作は、3月末にリリースされた初のEP。事前の告知は一切なく、突然発表されたこのアルバムには、フランク・デュークスやサーキットといったおなじみの面々に加え、マイク・ウィル・メイド・イットやスクリレックスといったヒットメイカーが参加。『Starboy』の成功で高まった新作への期待に応えた、良作になっている。

アルバムのオープニングを飾るのは、フランク・デュークスがプロデュースした”Call Out My Name”、ヒップホップやソウル・ミュージックというより、イマジン・ドラゴンズやリンキン・パークのような黒人音楽の影響を受けたロック・ミュージシャンに近い、ダイナミックなメロディと伴奏が心に残るスロー・ナンバー。繊細なハイ・テナーを振り絞って、大胆な歌唱を披露する姿は、マックスウェルにも少し似ている。

続く、”Try Me”はマイク・ウィル・メイド・イットが制作に携わったスロー・ナンバー。マイクといえば、ケンドリック・ラマーの”HUMBLE.”やビヨンセの”Lemonade”などの有名名曲を手掛ける一方、グッチ・メインやレイ・シュリマーにもビートを提供している叩き上げのビート・メイカー。この曲では、甘酸っぱい歌声で切々とメロディを口ずさむウィークエンドの魅力を、バラードに合わせてシックに纏め上げたトラップのビートで丁寧に盛り立てている。エレクトロ・ミュージックと物悲しいメロディの組み合わせは、前作に収録されている彼の代表曲”Starboy”を思い起こさせる。

そして、収録曲の中でも異彩を放っているのが、フランク・デュークスとスクリレックスの二人がプロデュースした”Wasted Times”。ジャスティン・ビーバーをフィーチャーした”Where Are Ü Now”が世界的なヒットになり、コーンやダミアン・マーリーG-ドラゴンなど、活動地域も音楽ジャンルも異なるアーティスト達と組んできた、スクリレックスが参加したこの曲。エレクトロ・ミュージックのDJらしい、キャッチーなフレーズの引用と、ヴォーカルの魅力を引き出す絶妙なさじ加減が光っている。ミディアム・テンポの作品ではあるが、曲調は”Where Are Ü Now”にも少し似ている。個性豊かなアーティストと仕事をしてきた彼の鋭い視点と、制作技術が発揮された楽曲だ。

だが、本作の目玉は何かと聞かれたら、フランスのリヨン出身のDJ、ゲサフェルスタインを招いた2曲”I Was Never There”と“Hurt You”だと思う。モダンなシンセサイザーの音色を多用しながら、奇をてらわないシンプルなアレンジで、爽やかな雰囲気に纏め上げている。繊細でしなやかな歌声が魅力のウィークエンドの魅力を引き立てた手法は、『Starboy』で腕を振るったダフト・パンクにも通じるものがある。

今回のアルバムは、前作の音楽性をベースに、よりロックやポップスに歩み寄ったスタイルの作品だ。滑らかで繊細だけど豊かな歌声と、絶妙なコントロールが魅力の歌唱技術を活かしつつ、各曲では、R&Bの様式に拘らず、新しい音やアレンジを随所で取り入れている。このあらゆる音楽ジャンルのファンに目を配った音楽性が本作の醍醐味だと思う。

ブルーノ・マーズやアデルがヒット・チャートや音楽賞を制覇し、多くの国でR&Bをベースにしたヒット曲が生まれている2010年代。今や音楽市場の主役になった印象もあるR&Bに、ロックやエレクトロの表現技法を組み合わせて、このジャンルが持つ新鮮さと大衆性を際立たせた、現代のR&Bとポップス・シーンを象徴するような良作だ。

Producer
Frank Dukes, DaHeala, Mike Will Made It, Skrillex, Cirkut

Track List
1. Call Out My Name
2. Try Me
3. Wasted Times
4. I Was Never There feat. Gesaffelstein
5. Hurt You feat. Gesaffelstein
6. Privilege