2014年に発表した、ドイツのファンク・バンド、マイティ・モカンボスとのコラボレーション・アルバム『This Is Gizelle Smith & The Mighty Mocambos』で、ヴォーカルを担当したことをきっかけに注目を集め、その後は、自身の名義でも複数のシングルをリリース。マーサ・リーヴスを彷彿させる、可愛らしさと力強さを両立した歌唱と、キュートなルックスで人気を博した、イギリスのマンチェスター出身のシンガー・ソングライター、ジゼル・スミス。

近年は積極的にライブをこなしているものの、新作のリリースがなかったので気になっていた彼女だが、このたび8年ぶりの新作を発表した。

このアルバムは、彼女自身の名義では初のスタジオ・アルバム。ハンブルクを拠点に活動し、マイティ・モカンボスの作品も手掛けている、デフ・ステッフことステファン・ワグナーがプロデュースを担当。曲作りにはジゼル自身も携わるなど、マイティ・モカンボスとのコラボレーション作品を意識した、ソウル色の強いアルバムになっている。

本作の1曲目は、2018年の頭にリリースされたシングル曲”Dust”。ブリブリとうなるダイナミックなベースと優雅なストリングスの伴奏が心地よいアップ・ナンバー。ダイナミックな演奏を聴かせるリズム・セクションと上品な上物の組み合わせが、彼女のキュートな歌声を引き立てている。 これに対し、2017年に発表された”Sweet Memories”は、流麗なコーラスと愛らしいヴォーカルの組み合わせが光る、甘酸っぱい雰囲気のミディアム・ナンバー。端正の取れたバック・コーラスを効果的に使った曲作りは、メイン・イングリディエントの"Let Me Prove My Love to You"をサンプリングした、アリシア・キーズの”You Don't Know My Name”にも少し似ている。しかし、サビに入ると、リズム・セクションが急に荒々しくなるなど、随所に遊び心を盛り込んでいるから油断できない。

また、ストーンズ・スロウからアルバムを発売したことも記憶に新しい、マイロン&Eのエリック・ボスをフィーチャーした”S.T.A.Y.”は、軽妙で爽やかなメロディが心に残るミディアム・ナンバー。鍵盤楽器とホーンを組み合わせた軽やかな伴奏の上で、繊細でキュートなジゼルと、芯が強いけど柔らかい歌声のエリックによる、対照的な個性を活かしたメリハリのあるパフォーマンスを披露している。両者の持ち味を巧みに引き出すアレンジ技術が聴きどころだ。

そして、本作の隠れた目玉が、日本盤限定のボーナス・トラックである”Dust”のリミックス版だ。マジンガーZの主題歌をリミックスするなど、日本のサブカルチャーにも造詣が深いことで知られるフランスのクリエイター、ディミトリ・フロム・パリが手を加えたこの曲は、彼が得意とする太く、柔らかい音色を使ったハウス・ナンバー。ダフト・パンクやマーク・ロンソンなど、多くの人気ミュージシャンが取り入れているディスコ・サウンドだが、同ジャンルに何十年も取り組んできた彼が作るトラックは一味違う。

今回のアルバムは、メアリー・ウェルズやブレンダ・ハロウェイの流れを汲む、キュートな声と力強いパフォーマンスが武器の、彼女の魅力を丁寧に引き出した、本格的なソウル・アルバムだ。ポップなメロディと軽やかなパフォーマンスは、60年代、70年代のモータウン・レコードが得意としていた音楽とよく似ている。しかし、彼女のスタイルは、ポップだけどどこから粗削りな、60年代のモータウン・サウンドというよりは、ジャクソン5やスモーキー・ロビンソンなどが活躍していた70年代のモータウン・サウンドに近い。おそらく、洗練されたサウンドが流行している現在の音楽シーンを意識したものだが、偶然にも父、ジョー・スミスが演奏でかかわっていた、70年代のフォー・トップスの音楽に歩み寄っているから面白い。

力強い歌声で勝負をするシンガーが多い時代に、可愛らしい声で勝負した潔いアルバム。歌手の数だけ異なる音楽がある、ヴォーカル作品の醍醐味を存分に堪能してほしい。

Produceer
Def Steff

Track List
1. Dust
2. Hero feat. Eric Boss
3. Scared of Something
4. Love Song
5. Sweet Memories
6. Around Again
7. S.T.A.Y. feat. Eric Boss
8. Ruthless Day
9. Hey Romeo
10. Twelve
11. Amen
12. Dust (Dimitri From Paris Remix) *Bonus Track





Ruthless Day
Gizelle Smith
Jalapeno
2018-03-30