2014年のアルバム『Coming Home』が注目を集め、グラミー賞にもノミネートしたテキサス州フォートワース出身のシンガー・ソングライター、リオン・ブリッジスこと、トッド・ミッチェル・ブリッジス。

サム・クックやオーティス・レディングを彷彿させる、適度な泥臭さと大衆性を兼ね備えたヴォーカルに、60年代のモータウンスタックスのレコードを思い起こさせる、生演奏を使ったリズミカルな伴奏。それに加えて、ヒップホップを聴いて育った世代らしい、重くパンチの効いたビートを使ったアレンジが心地よい音楽が武器の彼。そんな彼は、子供のころからギターを片手に自作曲を作り、成長すると多くのオープン・マイク(飛び入り参加のイベント)でパフォーマンスを披露。その時の演奏が目に留まり、2014年にコロンビアと契約を結んだという叩き上げのミュージシャンなのだ。 そして、『Coming Home』を発表した彼は、このあともマックルモア&ライアン・ルイスの”Kevin”に参加し、BBCのテレビ番組にも出演、デビュー直後の新人ながらフジ・ロック・フェスティバルにも出演するなど、世界中の音楽好きを魅了してきた。

このアルバムは、前作から約4年の間隔を挟んでリリースされた、2枚目のスタジオ・アルバム。プロデュースは前作に引き続きナイルス・シティ・サウンドトリッキー・リードが担当。楽曲制作には彼自身が積極的にかかわる一方、前作同様ゲスト・ヴォーカルは招かないなど、前回のアルバムで高く評価された、彼の歌にフォーカスを当てた作品になっている。

本作のオープニングを飾るのは、アルバムに先駆けて公開された”Bet Ain't Worth The Hand”。鍵盤楽器や弦楽器を組み合わせ、60年代末から70年代初頭にかけてシャイ・ライツやデルズが残したような、煌びやかで優雅なアレンジのソウル・ミュージックに仕立てている。優雅なサウンドの上で、オーティス・レディングや元インプレッションズのジェリー・バトラーを連想させる武骨な歌声を操って、甘くロマンティックな音楽を聴かせる姿が印象的だ。

これに続く”Bad Bad News”はしなやかなビートとメロディが心地よいダンス・ナンバー。ベースの音を強調して、ジャズやディスコ音楽の要素を盛り込みつつ、スタイリッシュに纏め上げる手法は、90年代に一世を風靡したブラン・ニュー・ヘヴィーズを思い起こさせる。ゴスペルのコール&レスポンスを盛り込む演出など、複数の音楽のエッセンスを取り込むことで、懐かしさと新鮮さを両立させている。

これに対し、4曲目の”Beyond”は、彼の音楽の原点であるギターの伴奏を盛り込んだスロー・ナンバー。ギターの演奏は、ナイル・シティ・サウンドの一員で、ブルースやカントリーの演奏に強いオースティン・マイケル・ジェンキンスによるもの。しかし、この曲ではヴォーカルと息の合った演奏を披露することで、リオンの弾き語りのように聴かせている。ギターの演奏をバックに歌う音楽といえば、ブルースやカントリー、フォーク・ソングのイメージが強いが、彼が生まれ育ったアメリカ南部の出身のミュージシャンには、ボビー・ウーマックを筆頭に、ギターの伴奏を取り入れるミュージシャンが少なくない。激しい人種差別で知られる一方、人種の壁を越えて音楽が混ざり合ってきた、アメリカの音楽文化の奥深さを感じさせる良曲だ。

そして、本作の収録曲でも特に印象的だったのが、アルバムの最後を締める”Georgia To Texas”。粗っぽい音色のベースの演奏をバックに、朗々と歌う姿が印象的なバラード。ウッド・ベースを中心に、ピアノやトランペットなどの楽器を配置したバンドは、60年代のソウル・ミュージックではお馴染みのスタイル。それを現代の音楽環境に合わせて再構築した編曲技術が聴きどころ。楽器の音数を絞ることで、主役の歌声が持つ、繊細さや力強さ、優しい雰囲気が引き立っている点も興味深い。

本作から感じた彼の魅力は、50年代から70年代にかけて流行したソウル・ミュージックから強い影響を受けつつ、当時の音楽をそのまま演奏するのではなく、現代のR&Bに落とし込んでいる点だろう。ギターやオルガンなどの音を使いながら、現代のポップスでも用いられる大人数のホーン・セクションや弦楽団などは取り入れず、60年代のモータウンやスタックスのレコードのような、シンプルで温かみのあるサウンドに仕上げている。しかし、当時の音楽に比べると、ギターの音は刺々しく、ドラムの音は重い。この、昔の音楽を取り入れつつ、単なる懐古趣味に終わらせない、現代の音楽として再構築する技術が面白い。プロデュースにかかわった面々が、昔のソウル・ミュージック以外の音楽、例えば現代のカントリーやブルースにも造詣が深く、彼自身もジニュワインのような90年代以降のR&Bに慣れ親しんできたことも大きいのだろう。

彼の音楽は「温故知新」を地で行っている。このアルバムを聴いていると「伝統を受け継ぐ」というのは、過去のやり方を静態保存することではなく、受け継ぐ対象が持つ豊かな歴史を理解し、現代を生きる自分達に合わせてアップデートすることだと教えてくれる。往年のソウル・ミュージックが好きな人にも、ヒップホップのような最近の音楽が好きな人にも聴いてほしい。広い音楽の世界を繋ぐ架け橋になる、貴重な作品だ。

Producer
Niles City Sound, Ricky Reed

Track List
1. Bet Ain't Worth The Hand
2. Bad Bad News
3. Shy
4. Beyond
5. Forgive You
6. Lions
7. If It Feels Good (Then It Must Be)
8. You Don't Know
9. Mrs.
10. Georgia To Texas