小説家やデザイナーとしても活動しているエリック・ハッサンと、ギターやベースなど、複数の楽器を使いこなせるクリスチャン・カフィエロによるフランスの音楽ユニット、トゥー・ジャズ・プロジェクト。2017年には、初のスタジオ・アルバムとなる『Move Your Body』を発表し、ヨーロッパを中心に多くの国で高い評価を受け、その後もG.リナの”想像未来”やウッディファンクの”N.Y.B.”をリミックスして話題になった、日本の音楽プロデューサー、T-グルーヴことユウキ・タカハシ。

住んでいる土地も年齢も経歴も違う彼らは、2016年ごろからリミックスなどを通して結びつき、同年には両者の連名による初のスタジオ・アルバム『Experiences』もリリースしてきた。

本作は彼らにとって、2枚目のコラボレーション・アルバム。配信版の配給は、両者の作品を取り扱ったこともあるポルトガルのLADパブリッシング、CD盤やアナログ盤の配給は、安藤裕子や比屋定篤子などの作品を販売している日本のキッシング・フィッシュが担当している。

本作に先駆けてリリースされた”Strong Love”は、T-グルーヴの”Family”でヴォーカルを担当し、今年2月に発売されたアルバム『Not Made For These Times』でも艶やかな歌声を披露している、シカゴ出身のシンガー・ソングライター、ジョヴァンを招いた作品。メアリー・ジェーン・ガールズの”All Night Long”を彷彿させる、太い低音とゆったりとしたテンポが心地よいビートをバックに、じっくりと歌い込むジョヴァンの高い技術が印象的。一聴しただけで練り込まれたものとわかる表現を、優雅に歌い上げるジョヴァンの姿が光る作品だ。同じシングルに入っているハウス・ミュージック寄りのアップ・ナンバー”The More I Do”や、跳ねるようなベースの演奏が光るミディアム”Just Wanna”を含め、彼の参加曲にはハズレがない。

それ以外の曲では、エノイス・スクロギンスをフィーチャーした”Funky Show Time ”が面白い。49歳のときに初めてのスタジオ・アルバム『One For Funk And Funk For All』を発表した、遅咲きの名シンガーと組んだ2017年のシングル曲は、彼が得意とする、リック・ジェイムスのような80年代のファンク・ミュージックの要素を盛り込んだミディアム。キーボードの美しい音色とベースの演奏を強調した、スタイリッシュなトラックが格好よいミディアム・ナンバー。ドラムの音の跳ね具合が、ファンクの躍動感を演出している。きらびやかな上物と、ダイナミックなグルーヴの組み合わせは、両者のソウル・ミュージックに対する深い造詣を伺わせる。

また、 トロント出身のシンガー・ソングライター、ポーラ・レタンを起用した“Bring It Back Around”は、本作では異色のスロー・ナンバー。シンセサイザーの伴奏を駆使した作風は、アイズレー・ブラザーズやアンジェラ・ウィンブッシュが80年代後半に残してきたロマンティックなバラードを彷彿させる。しかし、当時の音楽との決定的な違いは豊かな低音。柔らかい音色のベースを用いて、楽曲に安定感を与えつつ繊細で滑らかなヴォーカルを引き立てている点は見逃せない。事あるごとに、70年代後半から80年代に作られた黒人音楽への愛を示してきた、彼らの持ち味が発揮された良質なスロー・ジャムだ。

そして、収録曲の約半数に携わっている、マリー・メニーが参加した曲の中では、”Diamonds”のエクステンデッド・ヴァージョンが光っている。前作『Experiences』からシングル・カットされた、彼らの人気曲のロング・ヴァージョンだ。前作に収録されたものと比べると、バス・ドラムの音が強調され、腰に訴えかける刺激的なグルーヴを堪能できるものになっている。シャーデーを思い起こさせる神秘的な雰囲気を醸し出すヴォーカルも気持ち良い。「ロング・ヴァージョン」を作った彼らの思いが垣間見える良曲だ。

今回のアルバムは、前作以上にディスコ・ミュージックの面白さをアピールした作品になっている。軽快な音を響かせるギターや、シンセサイザーを多用した高級感溢れる伴奏、優雅で洗練されたヴォーカルを活かした曲作りは前作と変わらない。しかし、本作では上品な雰囲気を残しつつ、ベースやドラムの音を適度に強調することで、ソウル・ミュージックの持つ躍動感と親しみやすさを盛り込むことに成功している。

また、もう一つの面白いところは、この作品に複数の国の人が関わっていることだろう。日本とフランスのクリエイターが曲を作り、アメリカやカナダなどのヴォーカルが歌を吹き込み、ポルトガルや日本のレコード会社が配給する。そこには、「日本人らしさ」「フランス人らしさ」という枠を超えて、「ソウル・ミュージックへの愛」を「私達の音楽」で表現し、広めようと尽力する人達がいる。この2点が本作の大きな特徴だろう。

アメリカで生まれ、その後世界各地に広まり、それぞれの土地で独自の進化を遂げたソウル・ミュージック。そんな各地のミュージシャンが、21世紀に入り、通信技術などの発展で互いに結びつくようになったことで生まれた奇跡の1枚。世界各地で自分達の音楽を模索する、ソウル・ミュージック・ラバーの存在を再認識させてくれる作品だ。

Producer
Two Jazz Project, Yuki "T-Groove" Takahashi

Track List
1. New Humanist Whisper feat. Marie Meney
2. Funky Show Time (Extended Version) feat. Enois Scroggins
3. The More I Do feat. Jovan Benson
4. Soul Nation feat. Brae Leni
5. Bring It Back Around feat. Paula Letang
6. Venus feat. Marie Meney
7. Soho Sunset feat. Enois Scorggins
8. Stay With Me feat. Marie Meney
9. Diamonds (Extended Version) feat. Marie Meney
10. Strong Love feat. Jovan Benson
11. The Groove Revolution feat. Brae Leni & Marie Meney
12. Just Wanna feat. Jovan Benson
13. Under The Pressure feat. Enois Scroggins & Marie Meney
14. Take This Love (Album Version) feat Marie Meney
15. Last Humanist Whisper feat. Enois Scroggins





Nu Soul Nation
T-GROOVE & TWO JAZZ PROJECT
Kissing Fish Records
2018-05-02