2017年のデビュー・シングル”Bodak Yellow”が、ローリン・ヒルの”Doo Wop (That Thing)”以来、実に20年ぶりとなる女性ラッパーの単独名義の楽曲による1位を獲得したことで、一躍時の人となった、カルディBことベルカリス・アルマンザー。

ニューヨーク市ブロンクスで、ドミニカ系の父とトリニダード系の母の間に生まれた彼女は、家庭内暴力から逃れるために10代後半の頃には家を出て、ストリップ・クラブで働いていたという。

そんな彼女はSNSに投稿した写真で注目を集め、2015年には 初の自作曲となるシャギーの”Boom Boom”のリメイク作品を発表。その後も継続的に作品をリリースする一方で、リアリティ番組の「Love & Hip Hop: New York」にレギュラー出演するなど、個性的なキャラクターで注目を集めてきた。また、2018年初頭には、ブルーノ・マーズの"Finesse"のリミックス版に客演し、全米R&Bシングル・チャートを制覇したことも話題になった。

本作は、彼女にとって初のスタジオ・アルバム。プロデュースはDJマスタードやフランク・デュークスといったヒット・メイカー担当し、チャンス・ザ・ラッパーやミーゴスといった人気ミュージシャンがゲストとして集結するなど、華々しいデビューを飾った彼女に相応しいものになっている。

アルバムの収録曲で、真っ先に目を惹いたのはミーゴスを招いた”Drip”だ。ミーゴスやグッチ・メインにビートを提供しているアトランタ出身のプロデューサー、カシアス・ジェイがトラックを担当した作品だ。ミーゴスにも多くのビートを提供してきた彼が用意したのは、彼らのアルバムを連想させる。電子音を多用したトラップ。この上で各人が個性的なラップを繰り広げる光景は、単なるフィーチャリング作品というより、対等な関係でコラボレーションした楽曲に近い。キャリアの浅い新人にもかかわらず、ゲストの得意なスタイルに取り組みつつ、自分の個性を打ち出している点が印象的だ。

これに対し、彼女のデビュー曲である”Bodak Yellow”はジェイムス・ホワイトがビートを手掛けた作品。”Drip”に比べると、耳に刺さるような高音を効果的に使った、軽やかなサウンドが印象的な作品。クリス・ブラウンからYGまで、多くのミュージシャンが取り入れているトラップだが、この曲では高い音を適度に強調することで、ポップな印象を与えているのが面白い。

また、ボイ・ワン・ダにフランク・デュークスという、カナダ出身のクリエイター2名を起用した”Be Careful”は、”Boom Boom”を彷彿させるソフトな音色のシンセサイザーを使ったトラックが印象的なミディアム・ナンバー。柔らかい音を取り入れたトラックに乗せて、歌とラップを混ぜ合わせたヴォーカルを披露する姿は、レゲエがベースになっているものの、どこかドレイクパーティーネクストドアを彷彿させる。彼女の多芸っぷりが遺憾なく発揮された良曲だ。

そして、本作の隠れた目玉といっても過言ではないのが、Jバルビンとバッド・バニーをフィーチャーした”I Like It”だ。この曲で採用されたのは、個性豊かなトラックが並ぶアメリカのヒップホップ界でも、滅多に使われることのないサルサのリズム。アメリカ国内ではアフリカ系よりも多いといわれている、中南米をルーツに持つ人々の間では人気のダンス・ミュージックを取り込んだビートは、シンセサイザーを多用したこともあり、個性的でありながら、他のジャンルの音楽と一緒に聴いても違和感がない。自身も中南米をルーツに持つカルディと、プエルトリコ出身のバッド、コロンビア出身のバルビンの3人が、英語とスペイン語を織り交ぜながら、激しさと色っぽさを兼ね備えたパフォーマンスを披露する姿が心に残る名演だ。

このアルバムの面白いところは、様々な音楽が楽しまれる現在のアメリカを反映した、個性豊かなビートと、それを自在に乗りこなすカルディのラップ技術だろう。アメリカ南部のトラップをそのまま踏襲したものから、それらを咀嚼してポップス作品に落とし込んだもの、レゲエを組み入れたものや、ラテン音楽を取り入れたものなど、本作に収められている楽曲のトラックは、色々なスタイルが流行するアメリカ音楽シーンを象徴するような、非常にバラエティ豊かなものだ。しかも、彼女はこれらのビートの上で、トラックごとに柔軟にスタイルを変えつつ、きちんと自分の作品だとわかるラップを繰り出している。このトレンドを貪欲に取り入れる姿勢と、様々なサウンドを自分の音楽に昇華する技術が、彼女の音楽の魅力だろう。

女性や人種というアイデンティティを活かしつつ、それに囚われない普遍性を兼ね備えた面白いアーティスト。様々な出自のアーティストが色々な音楽に取り組み、多くの人を魅了する2018年を象徴する佳作だ。

Producer
DJ Mustard, Andrew Watt, Frank Dukes, Murda Beatz, Vinylz etc

Track List
1. Get Up 10
2. Drip feat. Migos
3. Bickenhead
4. Bodak Yellow
5. Be Careful
6. Best Life feat. Chance the Rapper
7. I Like It feat. Bad Bunny & J. Balvin
8. Ring feat. Kehlani
9. Money Bag
10. Bartier Cardi
11. She Bad feat. YG
12. Thru Your Phone
13. I Do feat. SZA