2016年に発表したアルバム『Awaken, My Love!』が、アメリカ国内だけで50万枚を売り上げ、グラミー賞の最優秀アルバム部門にノミネートするなど、ミュージシャンとしても大きな成功を収めた、チャイルディッシュ・ガンビーノこと、ドナルド・グローヴァー。

その一方で、俳優としても、コメディ・ドラマ「アトランタ」で高い評価を受け、スター・ウォーズのスピンオフ作品や、実写版「ライオン・キング」に出演するなど、着実に実績を残していった。

この曲は、『Awaken, My Love!』以来となる新作。チャイルディッシュ・ガンビーノとしては最後のアルバムになると発表している、次回作に先駆けて公開された楽曲だが、同じ時期に「同作には収録されない」というコメントが出るなど、様々な情報が錯綜している。

今回のシングルは、これまでも彼の音楽を一緒に作ってきた、ルドヴィグ・ゴランソンとグローヴァーの共同制作、共同プロデュース作品。電子音の冷たく、刺々しい音色を使ったビートは、現在流行しているヒップホップやトラップのものだが、低音を抑え気味にして、パーカッションなどの音を強調することで、フェラ・クティや彼の息子、ショーン・クティが得意とするアフロ・ビートっぽく仕立てている点が面白い。曲の途中で、リズムを細かく変える演出を盛り込むことで、ヒップホップやエレクトロ・ミュージックの象徴である「中毒性のあるループ」と、アフリカ音楽やアメリカのブルースを含む、世界各地の土着の音楽が持つ「変幻自在のアレンジ」を同居させている点も見逃せない。

また、この上に乗るヴォーカルは、ラップやブルース、フォーク・ソングなど、様々な音楽の手法を用いて、「現代のアメリカ」を描写したもの。社会問題に切り込む作品自体は無数にあるが、この曲では、抽象的で比喩的な表現を採り入れることで、政治的な作品に芸術性と娯楽性を付け加えている。

この曲の魅力は、歌、トラック、振付、映像表現など、あらゆる手段を用いて「アメリカ社会」に切り込みつつ、きちんとエンターテイメント作品に落とし込んでいるところだろう。歌やトラック以外に目を向けると、本作のミュージック・ビデオでは、ミンストレル・ショウやアフロ・ビートの表現や、現代舞踏の手法を織り交ぜたパフォーマンスを披露する一方、映像そのものも、カメラワークから小物まで、細部にも気を配った作品になっている。おそらく、コメディから先鋭的な音楽まで、あらゆる表現の世界を経験してきた彼の感性によるものが大きいだろう。

コメディアン、俳優、ミュージシャンと、多彩な顔を持ちながら、全ての分野で高い成果を上げてきたドナルドの豊かな才能が凝縮された珠玉の一品。インターネットによって、映像作品を気軽に楽しめるようになった現代ならではの傑作だ。

Producer
Donald Glover Ludwig Göransson

Track List
1. This Is America