60年代、70年代のソウル・ミュージックと、現代のR&Bを融合した作風で音楽好きを唸らせている、ロンドンを拠点に活動するR&Bバンド、ママズ・ガン。同バンドの中心人物であるアンディ・プラッツと、エイミー・ワインハウスやケリス、トミー・ゲレロなど、名だたるアーティストと仕事をしてきたプロデューサーのショーン・リー、強烈な個性と多芸っぷりでファンの多い二人が組んだ音楽ユニットが、このヤング・ガン・シルバー・フォックスだ。

2015年にリリースした初のスタジオ・アルバム『West End Coast』は、ボビー・コールドウェルやTOTOに代表される、電子楽器などを多用し、ソウル・ミュージックやジャズのエッセンスを盛り込んだ音楽性が魅力のロック、AORの手法をソウル・ミュージックに取り込むという逆転の発想でリスナーの度肝を抜いた彼ら。3年ぶりの新作となるこのアルバムでも、前作に引き続き、ロックとソウルを融合したスタイリッシュな音楽を聴かせている。

本作のオープニングを飾るシングル曲”Midnight In Richmond”は、シンセサイザーを使った煌びやかな伴奏と、流れるようなメロディが心地よいアップ・ナンバー。ちょっと荒っぽくかき鳴らされるギターや、肩の力を抜いてゆったりとリズムを刻むドラムが、楽曲にリラックスした雰囲気をもたらしている。

これに対し、本作のリリース後にシングル・カットされた”Take It Or Leave It”は、ブラッドストーンやニュー・バースにも通じる、洗練されたグルーヴと、爽やかなメロディが魅力のミディアム・ナンバー。太く柔らかい音色の楽器を使うことで、グルーヴを強調しつつ、ゆったりとした雰囲気を醸し出している点が特徴だ。

また、本作では珍しい、力強いベースの音色が印象的な”Caroline”は、ジーン・チャンドラーの”Does She Have A Friend?”にも少し似ている、力強い低音とロマンティックなメロディの組み合わせが面白いミディアム・ナンバー。伴奏の音数を絞り、ベースの音に重ねることで、低音を強調しつつ、落ち着いた雰囲気の伴奏の上で、朗々と歌い上げるアンディの姿は、洗練されたサウンドとダイナミックな歌唱表現が同居した80年代のソウル・ミュージックを彷彿させる。

そして、本作の最後を飾る”Lolita”は、彼らの作風を象徴するような、明るい雰囲気のアップ・ナンバー。軽やかにリズムを刻む、乾いた音色のギターや、グラマラスな響きを聴かせるベースが心地よいサウンドをバックに、サラサラと流れるようなメロディを歌うスタイルが心に残る。これからの季節に似合いそうな音楽だ。

彼らの音楽の面白いところは、アフリカ系アメリカ人の音楽であるソウル・ミュージックやジャズの要素を直接取り入れるのではなく、これらの音楽を白人が研究し自分達の音楽に組み替えた、AORやフュージョンのスタイルを参照しているところだ。本格的なソウル・ミュージックを聴かせる、ママズ・ガンのアンディをフロントに据えながら、サウンドには白人の解釈を通したAORなどの技法をふんだんに混ぜ込んでいる。この、他者のフィルターを介した音楽を利用することで、自分達の感性だけでは生み出せない、独創的な音楽を生み出していると思う。

ビリー・プレストンがビートルズでの経験を活かして、ゴスペルにロックのエッセンスを盛り込んだように、人種の異なるミュージシャンの音楽を参照することで、自分達の音楽に新しい視点を加えた異色のユニット。暑い季節を涼しくしてくれる、グラマラスなヴォーカルと洗練された伴奏が光る、洒脱さが魅力のソウル作品だ。

Producer
Shawn Lee

Track List
1. Midnight In Richmond
2. Lenny
3. Take It Or Leave It
4. Underdog
5. Mojo Rising
6. Just A Man
7. Love Guarantee
8. Caroline
9. Kingston Boogie
10. Lolita




AMウェイヴズ
ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス
Pヴァイン・レコード
2018-05-02