90年代後半、クラブ・イベントで演奏するためにニュー・マスターサウンドを結成し、以後20年、躍動感と高揚感が魅力の本格的なファンクを聴かせてきた、ウェールズ出身のギタリスト、エディ・ロバーツ。3人編成でありながら、大規模なバンドにも見劣りしない力強い演奏で、大小さまざまな会場を沸かせてきた、ニューヨーク発のファンク・バンド、ソウライブのドラマー、アラン・エヴァンス。出身地も演奏スタイルも違うが、ともにジャズやファンクへの深い愛情を感じさせる作風で、多くのファンを魅了してきた二人が手を組んだのが、このマタドール!ソウル・サウンド。

他のメンバーには、モニカやファーギーのような有名ミュージシャンの作品にも関わっているケヴィン・スコットや、クリスチャン・フランキやマーク・ストーンといった実力派のアーティストの録音にも参加しているクリス・スピーズ、オルゴンやニュー・マスター・サウンズの楽曲にも起用されているエイドリオン・ドゥ・レオンや、ロータスの作品にも名を連ねているキム・ドーソンなど、個性豊かな面々が顔を揃えている。

アルバムの1曲目は、本作に先駆けてリリースされたシングル曲”Get Ready”、DJプレミアやピート・ロックの作品を彷彿させる複雑なビートと、ジミー・スミスやシャーリー・スコットを思い起こさせるダイナミックでポップなオルガンの演奏が光る佳曲。ジャズとヒップホップを融合した作風は、ニュー・マスターサウンドともソウライブとも一味違う。

これに対し、両者が在籍するバンドの作風を積極的に取り入れたのが”The State Of Affairs”だ。ファンクを基調にしたビートはニュー・マスターサウンドの作風に近いし、グラント・グリーンを連想させる軽やかなギターの演奏は、ソウライブの楽曲っぽい。両者が相手の在籍するバンドのスタイルを演奏し、一つの楽曲に融合させた遊び心が印象的だ。

また、”Get Ready”のB面に収録されていた”Mr Handsome”は、チャールズ・ライト&ワッツ103rdストリート・バンドの”Express Yourself”やジェイムス・ブラウンの”Hot Pants”などを連想させる、軽快なビートと陽気なオルガンの演奏が心地よいアップ・ナンバー。ドラムの音数を増やした複雑なビートでありながら、聴き手に軽やかな印象を与えるのは、アランの高い演奏技術の賜物か?ヒップホップ世代にも馴染みのあるビートを取り入れつつ、リラックスして楽しめる軽妙な演奏に昇華するスキルは流石としか言いようがない。

そして、陽気な楽曲が多い本作では異色の、ロマンティックな雰囲気が魅力なのが”Computer Love”だ。ベティ・ライトやグウェン・マクレーのようなアメリカ南部のソウル・ミュージックにも通じる、洗練されたビートの上で、全盛期のジョージ・ベンソンが演奏しているかのような艶めかしい音色を響かせるギターが魅力の作品。シンセサイザー全盛期の時代だからこそ、彼らのような楽器の音を丁寧に聴かせる音楽が新鮮に聴こえる。

このアルバムの面白いところは、アメリカのミュージシャンが好んでカヴァーする黒人音楽と、イギリスのミュージシャンが積極的に演奏する黒人音楽を一つの演奏に同居させているところだろう。今も多くのファンを魅了する60年代のソウル・ミュージックやファンク、ジャズを土台にしながら、好みが異なる両国のミュージシャンの個性を上手に反映している点が特徴だ。しかも、単に両者の趣味趣向を足して2で割った音楽を作るのではなく、アレンジの幅を広げる手段にしている点にも着目すべきだろう。

経験と知識が豊富な二人だからこそ作れた、独創的なファンク作品。往年の黒人音楽の豊かな表現のい美味しいところを抽出し、一枚のアルバムに凝縮した聴きどころだらけの良盤だ。

Producer
Eddie Roberts, Alan Evans

Track List
1. Get Ready
2. Stingy Love
3. Too Late
4. The State Of Affairs
5. Anything For Your Love
6. Mr Handsome
7. El Dorado
8. Cee Cee
9. Soulmaro
10. Covfefe
11. Theme For A Private Investigator
12. Computer Love
13. Ludvig
14. Move Move Move




ゲット・レディ
マタドール! ソウル・サウンズ
Pヴァイン・レコード
2018-03-02