ファレル・ウィリアムスカニエ・ウエストをプロデューサーに起用した楽曲を録音し、映画「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」の主題歌にも採用されたことがあるテリヤキ・ボーイズや、フランク・オーシャンの”Nikes”にフィーチャーされたことも話題になったKOHHなどの日本勢。アジア屈指のポップ・スターでありながら、複雑なビートを使った本格的なヒップホップを披露しているビッグバンG-ドラゴンや、アイドル・グループのメンバーとは思えない、ハードなラップを繰り出すBTSのRMといった韓国勢。若干18歳でありながら、アジア系ミュージシャンの配給に強みを持つ88risingと契約。アメリカのリル・ヨッティなどと並んで、将来を嘱望されているインドネシア出身のリッチ・ブライアンなど、豊かな個性と高いスキルで注目を集めているアジア出身のヒップホップ・ミュージシャン達。

その中でも、個性的な音楽で高い評価を受けているのが中国の四川省にある成都出身の4人組、ハイヤー・ブラザーズ(簡体字では「海尔兄弟」表記)だ。

四川省の各地で活動していたメンバーが集結して結成したこのグループは、良質なアジア人ミュージシャンを取り上げて、彼らの作品を配給してきたアメリカの企業、88risingに取り上げられたことで世界にその名が知られるようになる。

そんな彼らは、2016年に初のミックス・テープ『Higher Brothers Mixtape』をリリース。アメリカとは大きく異なる中国の地方の文化が反映された独特のリリックと、トラップを組み合わせた個性的な作風が話題となった。

本作は、『Higher Brothers Mixtape』から約1年の間隔を挟んで発表された、彼らにとって初のスタジオ・アルバム。ロジェットやフェイマス・デックスといったアメリカのミュージシャンや、キース・エイプや元2PMのジェイ・パクといった韓国系のアーティストなどが制作に参加。出身地も音楽性も異なる個性豊かな面々を迎え、 自分達のカラーを強く打ち出した音楽を披露している。

本作の1曲目は、アルバムの目玉といっても過言ではないシングル曲”WeChat”。トラック・メイクはロジェットが担当し、キース・エイプをフィーチャーしたこの曲は、フェイスブックやツイッター、ラインが使えない中国で多くの人が利用しているチャット・アプリ、WeChatを題材に「モーメンツ(LINEでいうタイムラインのようなもの)ではブランドものが売られている」(=友人相手に転売ビジネスをしてる奴がいる)「あいつは俺に紅包(=少額の送金のこと)を送れとせがんでくる」など、現代の中国の文化をウィットに富んだ表現で綴った歌詞が面白い作品。楽曲のテーマに合わせて、縦長の画面にWeChatのインターフェイスを盛り込んだミュージック・ビデオにも注目してほしい。

また、もう一つのシングル曲”Made In China”は、アトランタ出身のトラックメイカー、リッチー・ソーフがトラックを作り、ニューヨーク出身のラッパー、フェイマス・デックスが客演した作品。「俺の周りのすべてのものがメイドインチャイナ」というご当地自慢ソングだ。自身のラップ・スキルを中国の有名な詩人、李白に例えるなど、自分達の文化に根差した表現で自分達をアピールしたラップが聴きどころだ。

それに続く、2017年にジェイZ率いるロック・ネイションと契約した元2PMのジェイ・パクをフィーチャーした”Franklin”は、謎多きビート・メイカー、ジェディ-Pを制作者に招いた楽曲。人気アクション・ゲーム「グランド・セフト・オート5」の主人公、フランクリン・クリントンに自分を例えたリリックと、90年代後半のティンバランドを連想させるチキチキ・ビートの組み合わせが光る好曲だ。

そして、ミネアポリス出身のトラック・メイカー、OG.アビを招いた”Bitch Don't Kill My Dab”は、グッチ・メインミーゴスのアルバムに入っていそうなトラップのビートが格好良い作品。2016年にミックス・テープを発表して以降、多くの賞賛の声とともに批判を浴びてきた彼らが、自分達を批判する人々にウィットに富んだ反論を繰り広げる姿が印象的だ。

彼らの魅力は、自分達が生まれ育った土地の文化をベースにして、それを笑いに変えるユーモアのセンスと、アメリカのヒップホップの手法を自分達の音楽に取り込む器用さだろう。アメリカで流行しているトラップのビートを採用しつつ、声域が高く、声質が軽い自分達の特徴を活かすため、多くの言葉を矢継ぎ早に繰り出すラップの技術は圧巻としか言いようがない。

また、物凄いスピードで発展し、日常生活に新しいツールが入る一方、経済成長の恩恵からこぼれる人々が存在し、多くの規制がある現代の中国社会で、自分達の現状に絶望するわけでもなく、現状を全面的に肯定するわけでもなく、誰かに怒りを向けるわけでもなく、ユーモアに富んだ言葉で表現するリリックは、人種差別が激しかった時代に、苦しみをそのまま表現するのではなく、ウィットに富んだ表現でエンターテイメントに変えた60年代のブルース・シンガーにもよく似ている。この、自分達が住む世界をユーモラスに語る技術が、アジア系の彼らの音楽に黒人音楽のフィーリングをもたらしているのかもしれない。

金の盾の向こう側で、私達と同じように笑ったり泣いたり、悩んだり苦しんだりしながら生きる人々の姿を見事に描いた良質なヒップホップ。「アーティストが生きる世界を描く」ことがリアルなヒップホップの条件なら、本作以上にリアルなヒップホップは滅多にないだろう。


Producer
Roget, Richie Souf, Jedi-P, Sauce Boss, Og.abi etc

Track List
1. WeChat feat. Keith Ape
2. Isabellae
3. Made in China feat. Famous Dex
4. Franklin feat. Jay Park
5. Black Cab
6. Why Not
7. Mine
8. Wudidong
9. Bitch Don't Kill My Dab
10. Aston Martin feat. Kenny Rebelife
11. Ding Mogu
12. Yahh feat. J. Mag
13. Young Master
14. 7-11