平昌オリンピックの入場時にも使われた“Fantastic Baby”などのヒット曲を残し、アジア屈指の人気グループとして、多くの大記録を打ち立ててきたBIGBANGを筆頭に、”Fire”や”I am The Best”といった名曲を発表し、アジア人女性によるヒップホップ・グループのロール・モデルとなった2Ne1など、多くの名グループを輩出してきた韓国のYGエンターテイメント

近年は、メンバーがラッパーのオーディション番組で、ストリート出身の参加者を押しのける活躍を見せたWinnerやiKonといった新しい世代のグループのほか、クラブ・シーンで絶大な人気を誇る、エピック・ハイやザイオンTなどの移籍組、R&Bにフォークソングの要素を盛り込んだ作風で注目を集めている楽童ミュージシャンなど、個性豊かなタレントを擁立。ヒップホップを中心に、幅広いジャンルの音楽に強い総合エンターテイメント企業となった。

ブラックピンクは、同社にとって7年ぶりとなる女性ヴォーカル・グループ。韓国出身のジスとジェニー、オーストラリア出身のロゼ、タイ出身のリサかならる4人組だ。6年以上の長い研修生期間を経て、2016年にシングル”Boombayah”でメジャー・デビューした彼女達は、BIGBANGや2Ne1を手掛けてきたYGの看板プロデューサー、テディ・パクが作る本格的なヒップホップのサウンドと、流行のファッションを身にまとったセクシーなビジュアル。キュートだけど安定感のある歌声で、着実にファンを増やしてきた。

本作は、彼女達にとって初のEP(それ以外にも日本語作品『Blackpink』があるが)。制作陣にはテディ・パクやチョイス37といった事務所所属のプロデューサーのほか、BIGBANGのテヤンの代表曲”"Eyes, Nose, Lips" を手掛けたことでも知られるアメリカのソングライター、レベッカ・ジョンソンなどが参加。YGエンターテイメントらしい、アメリカのヒップホップ、R&Bを咀嚼したクールなサウンドを聴かせている。

本作の1曲目は、アルバムと同時にミュージック・ビデオが発表された、本作からのシングル曲。テディ・パクが制作を主導したトラックは、レゲトンを連想させる華やかな音色を使いつつ、トラップやクランクのエッセンスを盛り込んだビートが格好良いヒップホップ作品。レベッカ・ジョンソンや24、R.ティーを共同制作者に迎え、こまめに曲調を変えたアレンジと、ビートとは真逆のキュートな4人の歌声が聴きどころ。

続く、”Forever Young”はテディに加え、フューチャー・バウンスが制作に参加したアップ・ナンバー。BTSの”Blood Sweat Tears”を彷彿させる。鮮やかな音色のビートを使った情熱的な雰囲気のナンバー。レゲトンの要素を盛り込み、彼女達のセクシーな一面を引き出した演出が格好良い。

これに対し、”Really”はチョイス37がプロデュースを担当、ソングライティングをテディと韓国系アメリカ人のダニー・チャンが担当したゆったりとしたテンポの曲。フィフス・ハーモニーTLCのアルバムで聴けるような、遅めのテンポのヒップホップのトラックと、リラックスした雰囲気で歌う4人の姿が心に残る楽曲。SWVや3LWのような、90年代から2000年代にかけてアメリカで活躍した、スター性と実力を兼ね備えたガールズ・グループの流れを汲んだ楽曲だ。

そして、本作の最後を飾るのが”See U Later”。R.ティーと24がプロデュースしたアップ・ナンバー。ムーンバートンのビートを取り入れているものの、低音は控えめで、サビの印象的なフレーズに重きを置きつつ、起承転結がはっきりしたメロディを聴かせることに力を入れた、韓国のポップスのトレンドを取り入れたアレンジの作品だ。

彼女達の面白いところは、プロダクションではアメリカのヒップホップに傾倒しつつ、パフォーマンスではヒップホップの臭いを感じさせないところだ。音楽性こそヒップホップが土台になっているが、ファッションやヴォーカルからはヒップホップの影響を感じさせない。このヒップホップのクールなサウンドと、同世代の女性が憧れる格好良いガールズ・グループというロール・モデルを同時に打ち出したところが、彼女達の特徴だと思う。

TLCやデスティニーズ・チャイルドのような、R&Bの枠を超え、多くの人の心に訴えかける力を持つ稀少なアルバム。近年少なくなった「ポップスのいちジャンルとしてのR&B」の面白さを堪能できる良作だ。

Producer
Teddy Park, Bekuh Boom, Future Bounce, R.Tee, 24, Choice37

Track List
1. Ddu-Du Ddu-Du
2. Forever Young
3. Really
4. See U Later