音楽プロデューサーとして多くのヒット作を生み出すだけでなく、ミュージシャンとしても数多くの傑作を残し、レコード・レーベルのオーナーとしてジョン・レジェンドやビッグ・ショーンを成功させ、ファッション・デザイナ-としてルイ・ヴィトンとのコラボレーション・モデルを発表するなど、多芸っぷりを発揮し続けるカニエ・ウエスト。彼が率いるグッド・ミュージックから初めてアルバムをリリースした女性シンガーが、テヤーナ・テイラーだ。

ニューヨークのハーレム出身の彼女は、9歳のころからマイクを握り、多くのオーディションで好成績を収めるなど、アマチュア・ミュージシャンの世界では知られる存在だった。

そんな彼女は、ビヨンセの2006年のシングル”Ring the Alarm”の振付を担当したことで表舞台に出ると、翌年にはネプチューンズ率いるスター・トラックと契約。2008年には初のシングル”Google Me”を、2009年には初のミックステープ『From a Planet Called Harlem』を発表した。

また、2012年にはカニエ・ウエストの作品に客演したことをきっかけに、彼が率いるグッド・ミュージックへと移籍。2014年にはアルバム『VII 』を発売している。

このアルバムは、前作から4年ぶりとなる2枚目のスタジオ・アルバム。多くのプロデューサーやゲスト・ミュージシャンを招いた前作から一転、本作ではレーベルのボス、カニエ・ウエストが制作を統括。カニエとテイラーを中心に、ロドニー・ジャーキンスやマイク・ディーンなどの売れっ子を起用。ゲストとしてカニエとタイ・ダラ・サインだけが参加したシンプルな編成で、彼女の歌声にスポットを当てている。

1分弱という短い長さの”No Manners”から続く実質的な1曲目”Gonna Love Me”は、ノア・ディーンやマイク・ゴールドスタインが制作に関わったミディアム・ナンバー。インディア・アリーを彷彿させるアコースティック・ギターの伴奏と、デルフォニックスやマイケル・ジャクソンが70年代に残したソウル・クラシックのフレーズを組み合わせた伴奏が新鮮な楽曲だ。芯の強い声で、涼しげに歌うテイラーの存在が光っている。

これに対し、カニエ・ウエストが客演した”Hurry”は、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの”Can't Strain My Brain”のギターとベースをさりげなく引用したバック・トラックが印象的な作品。60年代のソウル・ミュージックをサンプリングして、当時の音楽の雰囲気を再現したトラックの上で、切々と歌う彼女の姿が聴きどころ。ヒップホップ色の薄い伴奏に合わせ、往年のフォーク・シンガーのように淡々と言葉を紡ぐテイラーと、ソウル・ミュージックの伴奏の上でも平常運転のラップを聴かせるカニエの対比が面白い。

また、ダークチャイルドことロドニー・ジャーキンスを起用した”3Way”は、本作の収録曲では珍しい90年代のR&B作品を引用したバラード。シスコの”How Can I Love U 2nite”を使ったこの曲では、スタイリッシュな伴奏の上で、じっくりと歌い込む彼女の姿が堪能できる。ジョーの”Don't Wanna Be a Player”や、デスティニーズ・チャイルドの”Say My Name”といった、スロー・テンポの名曲を数多く手掛けてきたロドニーらしい、歌い手の表現力を引き出す美しいメロディが素敵だ。ゲストのタイ・ダラ・サインのシスコを意識した歌に、思わずニヤリとしてしまう。

そして、エレクトロ畑のクリエイター、エヴァン・マストを制作に招いた”Rose In Harlem”は、カニエがプロデュースしたトゥイスタの”Slow Jamz”を思い起こさせる変則ビートだが、こちらの曲は泥臭いバラード。地声を多用した鬼気迫るヴォーカルと、スタイリスティックスの楽曲を早回しした、おどろおどろしい声ネタの組み合わせが心に残る。

今回のアルバムでは、シンセサイザーを多用した前作から一転、カニエが得意とするサンプリングを駆使しつつ、歌とメロディをきちんと聴かせるR&B作品に仕上げている。流麗なメロディとダイナミックなヴォーカルは、トニ・ブラクストンやモニカなど、多くのシンガーが取り組み、音楽史に残る傑作を生み出してきた90年代のR&Bによく似ている。そこに、カニエ達の手によって2000年代以降の新しいサウンドを盛り込んだ点が本作の面白いところだ。この懐かしさと新しさを共存させた作風が本作の魅力だろう。

アリシア・キーズシリーナ・ジョンソンの作品を通して、R&Bシンガーとの親和性を示唆してきたカニエ・ウエストの才能と、振付師や俳優など、R&Bシンガーの枠に囚われない豊かな才能を持つテイラーの表現力が遺憾なく発揮された良作。90年代、2000年代前半の美しいメロディのR&Bの魅力を現代に蘇らせつつ、それを2018年の流行の音と一体化させた素晴らしいR&Bだ。

Producer
Kanye West,Mark Batson, Mike Dean, Darkchild, Evan Mast etc

Track List
1. No Manners
2. Gonna Love Me
3. Issues / Hold On
4. Hurry feat. Kanye West
5. 3Way
6. Rose In Harlem
7. Never Would Have Made It
8. WTP





K.T.S.E. [Explicit]
Getting Out Our Dreams Inc. (G.O.O.D.) Music / IDJ
2018-06-23