H.E.R.ことガブリエル・ウィルソンは、カリフォルニア州ヴァレーホ出身のシンガー・ソングライター。
出身地や本名、1997年生まれの21歳(本稿執筆時点)であること以外、自身に関する情報を殆ど公表していない彼女。あえて自身の素性を隠すことで、リスナーの関心を自身の音楽に向けさせてきた。
2016年から17年にかけて、2枚のEP『H.E.R. Vol. 1』『H.E.R. Vol. 2』を発表。2017年10月には、2作の収録曲を一枚に纏めた初のスタジオ・アルバム『H.E.R.』をリリース。配信限定の新人の作品ながら、エリカ・バドゥやシドを思い起こさせる、神秘的でモーダルな彼女の歌声と、ロバート・グラスパーやアンドレ・ハリスが制作に携わった楽曲で注目を集めてきた。
本作は、『H.E.R.』から約9か月の間隔で発売された彼女にとって3枚目のEP。制作は過去の作品にも関わっているスワッガー・シリアスらに加え、ドレイクなどのアルバムに参加しているウィリス・レーンや、タイ・ダラ・サインなどの楽曲を作っているD’マイルなどが担当。これまでの録音とは一味違う、新しいスタイルの楽曲に挑戦している。
アルバムの1曲目は、DJスクラッチをフィーチャーした”Lost Souls ”。ローリン・ヒルの名曲”Lost Ones”からインスピレーションを受けたというこの曲は、同曲のフレーズをサンプリングし、ローリンnのように歌とラップを織り交ぜたパフォーマンスを披露したミディアム・ナンバー。”Lost Ones”自体が、シスター・ナンシーが82年に発表したシスター・ナンシーの”Bam Bam”をサンプリングした泥臭いビートの楽曲ということもあり、この曲もDJプレミアやピート・ロックが作りそうな、 90年代のサンプリングを効果的に使ったヒップホップに落とし込まれている。
続く”Against Me”はウィリス・レーンが制作を主導したスロー・ナンバー。シンセサイザーを使った幻想的なサウンドの上で、丁寧に歌い込む彼女の姿が光っている。ドラムの音圧を抑え、低音の伴奏で重厚さを醸し出したトラックは、ドレイクの作品に少し似ている。前作までの彼女の作風を踏襲しつつ、切り口を変えた曲作りが魅力だ。
インターリュードを挟んだ後の”Could've Been”は、デビュー前から何度も共演してきたブライソン・ティラーとのデュエット曲のデュエット曲。エリック・ベリンガーやトレイ・ソングスの作品も手掛けているD’マイルズが作るトラックは、重いドラムの音を軸にしたしっとりとした雰囲気のもの。他の曲では、尖ったビートを取り入れることが多い両者が、ここでは滑らかな歌声で丁寧な歌を聴かせているのが新鮮だ。
そして、これに続く”Feel a Way”はリアーナやアッシャー、ミゲルなどの楽曲に関わっているフリッパが手掛けた作品。ドレイクの”God’s Plan”を思い起こさせる、リズミカルなシンセサイザーの伴奏が印象的な曲だ。軽快な伴奏を含むトラックを、切ない雰囲気のメロディが魅力のミディアムに取り入れて、楽曲に軽妙な雰囲気を与える演出が面白い。
本作の最後を締めるのは、カリ・ウチスなどの作品を手掛けてきたジェフリー・ギトルマンがプロデュースした”As I Am”。ギターやフィンガー・スナップを用いた、フォーク・ソングっぽい演奏の上で、みずみずしい歌声を響かせるゆったりとした楽曲。透き通った歌声とR&Bのビート、ギターなどのアコースティックな伴奏を組み合わせたスタイルは、インディア・アリーにも少し似ているが、この曲では彼女の持つは少し陰鬱な雰囲気で独自性を打ち出している。
今回のEPは、ごく少数のクリエイターと制作してきたこれまでの作品から一転、色々なR&Bシンガーの曲に関わってきたプロデューサー達を起用し、流行のサウンドを積極的に取り入れたものになっている。しかし、多くのヒット・メイカーを起用しながら、流行の音をそのまま使うのではなく、自分の音楽性に合わせて咀嚼している。この一作品ごとに少しずつスタイルを変えて、リスナーを飽きさせず、次回作への期待を抱かせる手法が、彼女の音楽が注目される一因だと思う。
自身の音楽で勝負してきたH.E.R.の、第二章の幕開けを飾る作品といっても過言ではない、新しいスタイルに挑戦した良作。独創的な作風で周囲を驚かせてきた彼女が、次のステップに踏み出した新境地だ。
Producer
BassmanFoster, Cardiak, Dernst "D'Mile" Emile II, Flippa, Jeff Gitelman, Jeffrey Gitelman, Swagg R'Celious & Wallis Lane
Track List
1. Lost Souls feat. DJ Scratch
2. Against Me
3. Be On My (Interlude)
4. Could've Been feat. Bryson Tiller
5. Feel a Way
6. As I Am
出身地や本名、1997年生まれの21歳(本稿執筆時点)であること以外、自身に関する情報を殆ど公表していない彼女。あえて自身の素性を隠すことで、リスナーの関心を自身の音楽に向けさせてきた。
2016年から17年にかけて、2枚のEP『H.E.R. Vol. 1』『H.E.R. Vol. 2』を発表。2017年10月には、2作の収録曲を一枚に纏めた初のスタジオ・アルバム『H.E.R.』をリリース。配信限定の新人の作品ながら、エリカ・バドゥやシドを思い起こさせる、神秘的でモーダルな彼女の歌声と、ロバート・グラスパーやアンドレ・ハリスが制作に携わった楽曲で注目を集めてきた。
本作は、『H.E.R.』から約9か月の間隔で発売された彼女にとって3枚目のEP。制作は過去の作品にも関わっているスワッガー・シリアスらに加え、ドレイクなどのアルバムに参加しているウィリス・レーンや、タイ・ダラ・サインなどの楽曲を作っているD’マイルなどが担当。これまでの録音とは一味違う、新しいスタイルの楽曲に挑戦している。
アルバムの1曲目は、DJスクラッチをフィーチャーした”Lost Souls ”。ローリン・ヒルの名曲”Lost Ones”からインスピレーションを受けたというこの曲は、同曲のフレーズをサンプリングし、ローリンnのように歌とラップを織り交ぜたパフォーマンスを披露したミディアム・ナンバー。”Lost Ones”自体が、シスター・ナンシーが82年に発表したシスター・ナンシーの”Bam Bam”をサンプリングした泥臭いビートの楽曲ということもあり、この曲もDJプレミアやピート・ロックが作りそうな、 90年代のサンプリングを効果的に使ったヒップホップに落とし込まれている。
続く”Against Me”はウィリス・レーンが制作を主導したスロー・ナンバー。シンセサイザーを使った幻想的なサウンドの上で、丁寧に歌い込む彼女の姿が光っている。ドラムの音圧を抑え、低音の伴奏で重厚さを醸し出したトラックは、ドレイクの作品に少し似ている。前作までの彼女の作風を踏襲しつつ、切り口を変えた曲作りが魅力だ。
インターリュードを挟んだ後の”Could've Been”は、デビュー前から何度も共演してきたブライソン・ティラーとのデュエット曲のデュエット曲。エリック・ベリンガーやトレイ・ソングスの作品も手掛けているD’マイルズが作るトラックは、重いドラムの音を軸にしたしっとりとした雰囲気のもの。他の曲では、尖ったビートを取り入れることが多い両者が、ここでは滑らかな歌声で丁寧な歌を聴かせているのが新鮮だ。
そして、これに続く”Feel a Way”はリアーナやアッシャー、ミゲルなどの楽曲に関わっているフリッパが手掛けた作品。ドレイクの”God’s Plan”を思い起こさせる、リズミカルなシンセサイザーの伴奏が印象的な曲だ。軽快な伴奏を含むトラックを、切ない雰囲気のメロディが魅力のミディアムに取り入れて、楽曲に軽妙な雰囲気を与える演出が面白い。
本作の最後を締めるのは、カリ・ウチスなどの作品を手掛けてきたジェフリー・ギトルマンがプロデュースした”As I Am”。ギターやフィンガー・スナップを用いた、フォーク・ソングっぽい演奏の上で、みずみずしい歌声を響かせるゆったりとした楽曲。透き通った歌声とR&Bのビート、ギターなどのアコースティックな伴奏を組み合わせたスタイルは、インディア・アリーにも少し似ているが、この曲では彼女の持つは少し陰鬱な雰囲気で独自性を打ち出している。
今回のEPは、ごく少数のクリエイターと制作してきたこれまでの作品から一転、色々なR&Bシンガーの曲に関わってきたプロデューサー達を起用し、流行のサウンドを積極的に取り入れたものになっている。しかし、多くのヒット・メイカーを起用しながら、流行の音をそのまま使うのではなく、自分の音楽性に合わせて咀嚼している。この一作品ごとに少しずつスタイルを変えて、リスナーを飽きさせず、次回作への期待を抱かせる手法が、彼女の音楽が注目される一因だと思う。
自身の音楽で勝負してきたH.E.R.の、第二章の幕開けを飾る作品といっても過言ではない、新しいスタイルに挑戦した良作。独創的な作風で周囲を驚かせてきた彼女が、次のステップに踏み出した新境地だ。
Producer
BassmanFoster, Cardiak, Dernst "D'Mile" Emile II, Flippa, Jeff Gitelman, Jeffrey Gitelman, Swagg R'Celious & Wallis Lane
Track List
1. Lost Souls feat. DJ Scratch
2. Against Me
3. Be On My (Interlude)
4. Could've Been feat. Bryson Tiller
5. Feel a Way
6. As I Am