2018年5月にリリースされた「Love Yourself: Tears」が、アジア系ミュージシャンとして史上初の全米アルバム・チャート1位を獲得したBTS。2018年には4万人規模のニューヨーク公演や2万人規模のロンドン公演を含む大規模な世界ツアーを敢行するなど、今やアジアを代表するヴォーカル・グループとなったBTS。

このアルバムは、前作から僅か3か月という短い間隔でリリースされた彼らの新作。『Love Yourself: Tear』と2017年の『Love Yourself: Her』の収録曲に、既発曲のリミックス版と新曲を加えたベスト盤のようなアルバムになっている。

本作の目玉は、何といっても先行シングルの”IDOL”だろう。彼らの楽曲の大半を手掛けてきたPdoggが制作を担当したこの曲は、韓国の伝統音楽、サムルノリの要素を盛り込んだトラックが格好良いダンス・ナンバー。ビートの組み方のせいか、東アジアの音楽というよりも、レゲエやレゲトンのような中南米の音楽っぽく聴こえる。変則ビートに強い女性ラッパー、ニッキー・ミナージュをフィーチャーしたバージョンでは、女性でありながら男性顔負けの攻撃的なラップを繰り出すニッキーの姿を堪能できる。

これに対し、”Best of Me”の共作者でもあるDJスウィベル達が制作に関わった”I'm Fine”は、エレクトリック・ミュージックを取り入れたビートと2010年頃の韓国のポップスのような、起承転結がはっきりしたメロディは、新しいサウンドを積極的に取り入れてきた彼らが歌うと新鮮に聴こえる。ファルセットを効果的に使ったロマンティックなポップスのメロディと、EDMを取り入れた躍動感のあるビートの組み合わせは、ビッグバンの”Haru Haru”にも似ている。

それ以外の曲では、スロウ・ラビットが手掛けたジンのソロ曲”Epiphany”も見逃せない。アコースティック・ギターを軸にした伴奏と、ジンの持ち味である甘い歌声と豊かな表現力を引き出すダイナミックなメロディが魅力の雄大なバラード。ソロ作品をリリースしているラップ担当の3人の存在感が大きいグループだが、彼らに見劣りしない優れたヴォーカリストがいることが、グループの魅力であることを再認識させてくれる良曲だ。

また、ディスク2に収められた既発曲のリミックスでは、”MIC Drop (Steve Aoki Remix)(Full Length Edition)”が一番の注目株。昨年末にリリースされ、アジア人歌手の楽曲としてはPSYの”Hangover”以来となる全米シングル・チャート25位を記録したこの曲。今回のアルバム版では、シングル版でデザイナーのラップに差し替えれていた冒頭のラップ・パートを、オリジナル版と同じJ-ホープとシュガのラップに戻した、ミュージック・ビデオや音楽番組で披露されているアレンジを採用している。前半のJ-ホープ&シュガによる韓国語によるラップ・パートから、英語のサビ、RMによる英語のラップまで、違和感なく繋ぐ、ヴォーカル・アレンジの巧みさは流石としか言いようがない。オリジナル版よりテンポが高く、歌い手の負荷が高いアレンジをシングルとしてリリースした度胸も恐ろしい。

余談だが、この曲は「オリジナルのトラックによる韓国語版」「オリジナルのトラックによる日本語版」「スティーヴ・アオキのトラックによる英語詞のリミックス版」「スティーヴ・アオキのトラックとデザイナーのラップを加えた英語版のリミックス版」と、複数のバージョンが作られ、その全てが別々の市場でヒットするという珍しい作品でもある。このことからも、彼らの音楽の汎用性の高さがうかがい知れる。

今回のアルバムは、2016年に『Wings』が各国のヒットチャートを席巻して以来、世界を相手に戦うようになった彼らの活動を総括したものになっている。

そして、本作を通して感じたのは、彼らの音楽の完成度と優れたバランス感覚だ。”Best Of Me”や”MIC Drop (Steve Aoki Remix)”のような欧米の尖ったクリエイターと組んだ曲や、”Airplane pt.2”や”IDOL”のような、アジアや中南米のサウンドを取り入れた曲に取り組む一方、”DNA”や”Fake Love”のように韓国のトレンドを踏襲した曲も多くを占めている。また、アルバムには、”Mic Drop”や”Tears”のようなラップが大部分を占める曲と、”The Truth Untold”や”Epiphany”のようなじっくりと歌を聴かせる曲がバランスよく配置されている。この、「アジアを代表する男性グループ」という自分達のポジションを踏まえつつ、欧米の音楽スタイルを積極的に取り入れる姿勢と、才能と人間的な魅力に恵まれたメンバーを揃え、全員の持ち味を引き出す姿勢。この二つを高いレベルで実現できたことが、彼らの独創的でバラエティ豊かな音楽を生み出している。

「7人が揃ってこそのBTS」であることを再確認させられる良作。とびぬけた個性を持つソロ・アーティスト達がしのぎを削る2018年。各メンバーが互いの個性を引き出し合うことで、表現の幅を広げる彼らの音楽は、2020年のトレンドを先取りするものと言っても過言ではないかもしれない。

Producer
Pdogg, Jordan "DJ Swivel" Young, Slow Rabbit, Andrew Taggart, "hitman" bang, Steve Aoki etc

Track List
1. Euphoria
2. Trivia 起 : Just Dance
3. Serendipity (Full Length Edition)
4. DNA
5. Dimple
6. Trivia 承 : Love
7. Her
8. Singularity
9. FAKE LOVE
10. The Truth Untold feat. Steve Aoki
11. Trivia 轉 : Seesaw
12. Tear
13. Epiphany
14. I'm Fine
15. IDOL
16. Answer : Love Myself

Disc 2
1. Magic Shop
2. Best Of Me
3. Airplane pt.2
4. Go Go
5. Anpanman
6. MIC Drop
7. DNA (Pedal 2 LA Mix)
8. FAKE LOVE (Rocking Vibe Mix)
9. MIC Drop (Steve Aoki Remix)(Full Length Edition)
10. IDOL feat. Nicki Minaj