2009年に、R.ケリーがプロデュース、ミッシー・エリオットのラップをフィーチャーしたシングル”Fakin’ It”で華々しいデビューを飾ったK.ミシェルことキンバリー・ミシェル。

エルヴィス・プレスリーやアレサ・フランクリンを育てた音楽の都、テネシー州メンフィスで生まれ育った彼女は、早いころからブリトニー・スピアーズやジャスティン・ティンバーレイクを鍛えてきた指導者のもとで、歌や楽器の腕を磨いてきた。

デビュー後も、R.ケリーやアッシャーグッチ・メインといったトップ・アーティストの作品に参加してきた彼女は、2013年に初のスタジオ・アルバム『Rebellious Soul』をアトランティックから発表。すると、当時としては珍しい、本格的な女性ヴォーカル作品ということもあり、熱心な音楽ファンの耳目を集めた。

その後も、2020年までの7年間に、3枚のスタジオアルバムと6枚のミックステープ、無数のシングルをリリース。その一方でヘッドライナーやオープニング・アクトとして6本のツアーをこなし、近年はリアリティーショウにも出演するなど、八面六臂の活躍を見せてきた。

2017年の『Kimberly: The People I Used to Know』以来となる本作は、長年ビジネスをともにしてきたアトランティックを離れ、SWV112の作品を配給しているeOneからのリリース。といっても、プロデューサーやソングライターの顔ぶれは過去の作品に関わってきた面々。自身がソングライティングなどに携わっている体制も変わっていない。そういうこともあり、過去の作品の路線を踏襲しつつ、大手のレーベルでは難しい、自身の個性を強く打ち出した作品になっている。

アルバムからの先行シングルである”Supahood”は、デトロイト出身の女性ラッパー、キャッシュ・ドールとマイアミ出身の女性ラップ・デュオ、シティ・ガールズをフィーチャーしたヒップホップ作品。シンセサイザーの音色を使い、少ない音数で独特の存在感を放つトラップのビートをバックに、ラップのような抑揚の歌唱を披露している。歌とラップを使い分ける歌手でも、ラップの時は声が細くなることが多いが、歌の時と変わらない太く力強い声を聴かせる技術は圧巻としか言いようがない。

もう一つの先行シングルである”The Rain”はボビー・VからT.I.まで、多くのアーティストと仕事をしてきたベテラン・プロデューサー、ジャジー・ファーの作品。”Supahood”と同じように、トラップのビートを使った曲だが、こちらはじっくりと歌を聴かせるタイプのバラード。電子音主体の音数が少ないビートの上でじっくりと歌う姿は、性別こそ違うがジャジー・ファーと同じアトランタ出身のプロデューサー、ジャーメイン・デュプリが手掛けたジャギド・エッジの音楽にも似ている。

それ以外の曲では”That Game”と”Love On Me”の2曲が魅力的だ。前者がグッチ・メインやヤング・バックなどを手掛けている辣腕クリエイター、ドラマ・ボーイのプロデュース曲。太いシンセサイザーの音色を使った跳ねるようなビートの上で、少し甘いヴォーカルを聴かせる彼女の姿が聴きどころ。若者向けの音色を使ったアレンジの上で、力強い歌声を丁寧に操る彼女の姿が心に残る。

一方、後者は近年、ジェレミーやブライソン・テイラーなどの作品も手掛けているヒップホップ畑のプロデューサー、リー・メジャーの作品。ハウスミュージックやディスコ音楽のような、四つ打ちのトラックが心地よいアップテンポの曲だ。ドラムやベースの音を太くしたり、テンポを少しゆったりしたものにすることで、彼女のパワフルな歌声と豊かな表現力を活かしている。表現者と制作者の絶妙なチームプレイが堪能できる良曲だ。

本作の良さは、パワフルな声を自在に操る彼女の持ち味と、現代のR&Bのサウンドを融合したところだろう。現代では少なくなった声量と表現力が魅力のヴォーカリストを、音数の少ないトラックと一体化しつつ、80年代に流行したブラック・コンテンポラリーや90年代にヒットしたチキチキビートとは異なる音楽に聴かせる。この演出がアルバムを新鮮なものにしている。

現代では数少なくなった「歌を聴かせる」本格的なヴォーカル作品でありながら、最新のサウンドを積極的に取り入れてた稀有なアルバム。常に進化を続けるR&Bの良さを再認識できる佳作だ。


Producer
Ayo The Producer, Shappell Edwards, Drumma Boy, Jazze Pha, Lil Ronnie etc

Track List
1. Just Like Jay
2. That Game
3. The Rain
4. All The Lovers
5. Something New
6. Ciara's Prayer
7. OMG
8. Supahood
9. Love On Me
10. Don't Like You
11. Table For One
12. Can't Let (You Get Away)
13. The Worst




All Monsters Are Human
K. Michelle
Ent. One Music
2020-01-31