タイの音楽とアメリカのサイケデリック・ロックやフォーク音楽を融合したユニークな作風が注目を集め、2015年に初のスタジオ・アルバムをリリースして以来、着実にファンを増やしてきたテキサス出身の3人組、クルアンビン。

タイ語で「空飛ぶエンジン」(=飛行機)という意味の同バンドは、タイの音楽が持つ独特のファンクネスやサイケデリック要素を活かした演奏スタイルと、ベース担当のローラ・リーがヴォーカルを担当する歌もの、インストゥルメンタルの作品の両方をこなせる音楽性の幅が強味。2019年には初の来日公演とフジロックフェスティバルへの出演を成功させるなど、その人気は世界に広がっている。

本作は2018年の『Con Todo El Mundo』や同作のダブ盤『Hasta El Cielo』以来となる新作。今回はゲスト・ヴォーカルとして現代のサム・クックとも称される同郷のグラミー賞シンガー、リオン・ブリッジスを招き、彼らが得意とするファンクと、リオンが取り組んできた往年のスタイルのソウル・ミュージックを組み合わせた作品に挑戦している。

アルバムのオープニングを飾るタイトル曲”Texas Sun”は、淡々とリズムを刻むドラムとベース、一音一音をつま弾くように演奏するギターの上で、しんみりと歌うリオンの姿が心に残るミディアム・ナンバー。ソウル・ミュージックやファンクというよりも、フォーク・ソングのように一つ一つの言葉を丁寧に紡ぎだすヴォーカルの存在感が光る曲だ。ビル・ウィザースや映画「シュガーマン」で取り上げられたロドリゲスのような、フォーク・ソングとソウル・ミュージックの美味しいところを取り込んだ音楽性が面白い。

続く”Midnight”は、フォーク・ソングの要素を取り入れつつ、色々な楽器の音色を取り入れて華やかな雰囲気を演出したスロー・ナンバー。ソウル・ミュージックとフォーク・ソングの融合という意味では”Texas Sun”にも似ているが、こちらはビル・ウィザーズの『Just As I Am』のようなフォーク色の強いものではなく、『Still Bill』のように色々な音を取り入れたソウル、ポップス色の強いものになっている。

これに対し、”C-Side”では太いベースの音色と、派手なパーカッションの音色を組み合わせた演奏が光るアップ・ナンバー。ランD.M.C.の”Peter Piper”を彷彿させる煌びやかな上物と、腰を刺激するグルーヴが格好良い。この伴奏の上で、『What’s Going On』のマーヴィン・ゲイやマックスウェルのようにしっとりと歌うリオン・ブリッジのヴォーカルも気持ちいい。今までありそうでなかったタイプの曲だ。

そして、本作の最後を締める”Conversion”は、リオン・ウェアの『Leon Wear』や『Musical Massage』を連想させる艶めかしい伴奏と、オーティス・レディングの”Try A Little Tenderness”をもっとシックにしたような、切ない雰囲気のヴォーカルが心に響くスロー・ナンバー。リオン・ブリッジの作品ではあまり耳にしない70年代のソウル・ミュージックのような洗練されたサウンドと、クルアンビンの音楽ではあまり耳にしない60年代以前の武骨なヴォーカルの組み合わせが新鮮だ。相手の持ち味を取り込み、自身の魅力を引き出した、コラボレーションの醍醐味を楽しめる楽曲だ。

本作は、白人のサイケデリック・バンドと黒人のソウル・シンガーのコラボレーションでありながら、スライ&ザ・ファミリー・ストーンやジミ・ヘンドリックス、ファンカデリックのような、黒人のサイケデリック・ミュージックとは一線を画したものになっている。それは、彼らが東南アジアのファンクやサイケデリック・ロックという、外国人のフィルターを噛ませた音楽から影響を受けていることや、リオン・ブリッジが60年代以前の泥臭いソウル・ミュージックを土台にしていることが大きいと思う。もっと言えば、他の人とは異なるユニークなスタイルを武器にしている両者が組んだからこそ、単なるサイケデリック音楽+ソウル・ミュージックの組み合わせとは一味違う、バラエティ豊かな音楽が生まれたのだろう。

単なる懐古趣味とは対極の、故い音楽を温ねて新しい音楽を想像した魅力的なソウル作品。4曲と言わず、もっと多くの作品を録音してほしい、そう思わせる説得力と魅力にあふれた傑作だ。

Track List
1. Texas Sun
2. Midnight
3. C-Side
4. Conversion



Texas Sun
KHRUANGBIN & LEON BRIDGES
DEAD OCEANS
2020-02-07