2010年に『Doo-Wops & Hooligans』でデビューして以来、発表した曲が全てヒットしている、ハワイ出身のシンガー・ソングライター、ブルーノ・マース。彼にとって、2012年の『Unorthodox Jukebox』以来となる3枚目のオリジナル・アルバム。

これまでの作品では、60~70年代のソウル・ミュージックやディスコ音楽のエッセンスを取り入れつつ、それを現代的なポップスに落とし込んできた彼。本作では、その路線をベースに、黎明期のヒップホップや、70年代終わりのモダンなファンク。80年代末から90年代初頭にかけて流行したR&Bへと、スタイルをシフトしている。

彼の音楽性を変えたのは、2014年にリリースされた”Uptown Funk”の成功だろう。イギリス出身のDJ兼プロデューサー、マーク・ロンソンがブルーノをフィーチャーしたこの曲は、ギャップ・バンドやバーケイズに象徴される、70年代後半から盛り上がってきたファンク・サウンドを、ヒップホップのビートと融合したことで、幅広い世代に親しまれた。本作も、この曲の手法を踏襲していて、先行リリースされた”24K Magic”では、オートチューンをトークボックスのように用いたオープニングや、ヴォーカルとバンド・メンバーのコール&レスポンス。キラキラとした音色のシンセサイザーをアクセントに使った演奏など、80年代のファンク・バンドを彷彿させる演出を多用している。他の曲も同様で、シャラマーを彷彿させるシンセサイザーの音色が、美しいメロディとファルセットを引き立てるバラード”Versace On The Floor”や、黎明期をヒップホップを彷彿させるファンクの演奏を複雑な形に組みなおしたビートの上で、ラップのように歌う”Perm”など、マークロンソンやダフトパンクの影響で一躍注目を集めた、70年代後半から80年代初頭の音楽のエッセンスが、これでもかという勢いで注ぎ込まれている。

だが、本当に面白いのは最後の2曲だろう。ニュージャック・スウィングを再現したような”Finesse”では、跳ねるようなビートの上で、軽妙なメロディを爽やかに歌い切り、ベイビーフェイスが制作に参加した”Too Good To Say Goodbye”では、彼の初期作品を思い起こさせるしっとりとしたメロディに、華やかなシンセサイザーで彩を添えたロマンティックなバラードを、当時の雰囲気そのままに歌いつつ、自分の音楽へと染め上げている。

マーク・ロンソンやダフトパンクの作品で、80年代前半の音楽が注目を集める中。ベイビーフェイスやジョデシなど、80年代後半から90年代にかけて活躍したミュージシャンにも、光が当たりつつある。このアルバムは、その流れを本格的なものにする一つのきっかけになるかもしれない。ポップスの世界に新しい風を吹き込む、ゲーム・チェンジャーの登場を歓迎したい。

Track List
1. 24K Magic
2. Chunky
3. Perm
4. That's What I Like
5. Versace On The Floor
6. Straight Up & Down
7. Calling All My Lovelies
8. Finesse
9. Too Good To Say Goodbye

Producer
Jeff Bhasker,Emile Haynie,Shampoo Press & Curl The Stereotypes




24K MAGIC
BRUNO MARS
ATLAN
2016-11-18