ジャズの世界に、ヒップホップやR&Bの要素を取り込んだ、『Black Radio』シリーズが大成功。一躍21世紀を代表するミュージシャンに上り詰めた、ヒューストン出身のピアニスト、ロバート・グラスパーによる通算5枚目となるオリジナル・アルバム。

今回の作品はアーティスト名が示す通り、所属レーベルの大先輩であり、ジャズ界を代表する巨人、マイルス・デイヴィスとのコラボレーション・アルバム。といっても、マイルスは既に故人なので、本作では彼が残した膨大な録音を再構成し、現代のミュージシャンの演奏と組み合わせた、仮想セッションの形を取っている。

本作を聴いて最初に驚くのは、空気を切り裂くようなマイルスの鋭い演奏が、大胆に解体されていることだろう。もっとも、70年代以降のマイルスは膨大な演奏を録音し、それをプロデューサーのテオ・マセロが編集することで一つの作品に仕上げていたので、彼が21世紀まで生きていたら、このようなスタイルを積極的に受け入れていたかもしれない。

74年の『Get Up With It』に収められている”Maiysha”に、エリカ・バドゥが歌詞をつけた”Maiysha (So Long)”では、ダブを連想させる幻想的な響きを醸し出した原曲に対し、音と音の隙間を意識した立体的なアレンジと、彼女の気怠い雰囲気のヴォーカルで、『Kind Of Blue』に収録されマイルスの代表曲”So What”を彷彿させるモーダルな演奏にリメイク。1958年にリリースされた『Milestones』のタイトル曲をジョージ・アン・マルドロウと再構築した”Milestones”では、原曲の有名なフレーズを、SF映画の効果音のようなシンセサイザー音で演奏しつつ、強く歪ませたギターや、エフェクターで響きを増した声を加えて、フライング・ロータスやマッドリブにも通じる、抽象性の高いインストルメンタル・ヒップホップに生まれ変わらせている。

このように、本作では原曲の音色やメロディを取り込みつつ、それを分解、再構成して、新しい解釈を加えた曲が目立つ。

その一方で、”Right On Brotha”のように、マイルスの演奏をそのままの形で残しつつ、DJスピナによるハウスのビートや、スティービー・ワンダーのブルース・ハープを絡ませることで、マイルスが現代のミュージシャンとセッションをしているように思わせる曲もあるなど、色々なスタイルを使い分けた、彼らしい作品に仕上がっている。

メロディやアレンジを大胆に改編しながら、マイルスの音の出し方や間の取り方、新しい音へ挑戦し続ける姿勢を忠実に踏襲した点は、コラボレーションと呼ぶにふさわしい。彼が現代に蘇って、現代のヒップホップやR&Bと出会ったら、こんな曲を作るだろうな思わせる内容だ。

Producer
Robert Glasper

Track List
1. Talking Shit
2. Ghetto Walkin” featuring Bilal
3. They Can’t Hold Me Down” featuring Illa J
4. Maiysha (So Long)” featuring Erykah Badu
5. Violets” featuring Phonte
6. Little Church” featuring Hiatus Kaiyote
7. Silence Is The Way” featuring Laura Mvula
8. Song For Selim” featuring KING
9. Milestones” featuring Georgia Ann Muldrow
10. I’m Leaving You” featuring John Scofield and Ledisi
11. Right On Brotha” featuring Stevie Wonder




Everything's Beautiful
Miles Davis
Sony Legacy
2016-05-27