自分自身はレコードやCDといったフィジカル・メディアに思い入れがある人間なので、配信やストリーミング限定の作品はあまり取り上げたくないと思っているけど、このアルバムは別格だと思うので取り上げます!!

オクトーバー・ロンドンはインディアナ州出身のシンガー・ソングライター。スヌープ・ドッグに見初められ、彼の2016年作『Coolaid』のトリを飾る”Revolution”に起用されたことで一躍有名になりました。

この作品は、彼にとって初のフル・アルバム。スヌープの楽曲では、ギャングスタ・ラップのトラックにあわせた、重く、殺伐としたヴォーカルでしたが、自身のアルバムではスタイルを一新。往年の名シンガー達を彷彿させる豊かな声量と幅広い表現を見せつけています。

タイトル曲の”Color Blind”は50年代のドゥー・ワップ・グループを想起させるハーモニーの上で、マーヴィン・ゲイのように語り掛ける歌声が魅力のスロー・ナンバー。詳細なクレジットがないので、伴奏者は誰なのか、コーラスは多重録音なのか、といったことはわかりませんが、60年代のソウル・ミュージックでみられるバック・コーラスとリード・ヴォーカルの絡み合いが忠実に再現された心地よい一曲です。この他にも、デルフォニックスやマンハッタンズを彷彿させる甘いコーラスと伸びやかなファルセットが気持ちいいスロー・バラード”My Sweet Love”や、原曲を意識してシンセサイザーやパーカッションの音を際立たせた伴奏をバックに、スモーキーのウリである甘い歌声と美しいファルセットまで取り込んだスモーキー・ロビンソンの79年作のカヴァー”QuietStorm”など、ドゥー・ワップからスウィート・ソウルまで、50年代から70年代までのソウル・ミュージックを幅広く取り入れた、どこか懐かしい演奏を披露しています。

しかし、本作のハイライトは、アルバムに先駆けて発表された、ダークな雰囲気のバラード”Black Man In America”です。一聴でコンピューターの音とわかるような重々しく、刺々しいビートの上で、地声を絞り出すように歌うスタイルは、荒々しいサウンドをバックに、マイクに嚙みつくような激しい歌で一世を風靡した、オーティス・レディングらサザン・ソウルの流れを汲む面々から、影響をを受けたように映ります。甘いファルセットが魅力のオクトーバー・ロンドンですが、地声によるワイルドな歌唱も堂に入ったもので、この曲ではきちんと自分のスタイルに取り込み、デジタル機器が普及した世代ならではのサザン・ソウルに仕立て直してます。

確かに経験や機材の不足故か、曲によって声が固くなったり、伴奏の音数が少なくなったりしたのは気になりました。ですが、楽曲によって自在に声を変える表現の幅、ドゥー・ワップからサザン・ソウルまで引用する知識の深さ、そして彼自身の歌の魅力、全てが揃った今後の成長が楽しみな逸材です。早くレコードかCDが出てくれないかなー。

Track List
1. Color Blind
2. My Sweet Love
3. Quiet Storm
4. Bring Me Up(feat. Faith Evans)
5. Shoulder to Lean On
6. Slow Dance
7. Love in the Summer
8. Black Man in America




Color Blind: Love [Explicit]
October London / Cadillacc Music
2016-10-28