2014年に発表した”Happy”が同年を代表するヒット曲になったファレル・ウィリアムズ。歌手活動に音楽制作、アパレル・ブランドの運営と八面六臂の活躍を見せる彼の新作は、自身がプロデュースしたコメディ映画のサウンドトラック。

アフリカ・アメリカンの女性科学者達が主役ということで、収録された10曲のうち6曲で女性シンガーをフィーチャーしている。(ただし、そのうち4曲はファレルとのデュエット曲)

彼女の新作でもコラボレーションしているアリシア・キーズがヴォーカルを担当した”Apple”では、グウェン・ステファニの”Sweet Escape”を彷彿させる、60年代のリズム&ブルースのように揺れるグルーヴの上で、一つ一つのフレーズを丁寧に歌うアリシアと、ラッパーのようにビートを乗りこなすファレルの対極的なスタイルが光るミディアム。また、メアリー・J.ブライジが参加した”Mirage”は最小限の音数でバラエティ豊かなビートを生み出す、ファレルの真骨頂が発揮されたミディアム・ナンバー。シンプルだけど癖のあるビートが、彼女の力強く、表現力豊かな歌声の魅力を引き立てている。

この他にも、映画にも出演しているジャネル・モネイ、今回が初のコラボレーションとなるレイラ・ハザウェイなど、聴きどころは多いが、ゲスト・シンガーの中でも特に印象的なのはトリを飾る”I See a Victory”を歌うキム・バレルだ。トミー・ボーイやシャナチーといった、通好みのレーベルでゴスペル作品を録音してきた彼女は、ファレルの作品では珍しいパワフルな声を惜しみなく聴かせるシンガー。この曲では、彼の曲ではお馴染みのハンド・クラップや軽妙なギター・リフを使ったトラックで、ともすれば威圧的に聞こえてしまうゴスペルを、”Happy”のように陽気なソウル・ミュージックに仕立てている。

また、ファレルの楽曲に目を向けると、アルバムに先駆けて発表された”Runnin’”は、クリプスの”Grindin”を思い起こさせる跳ねるようなビートの上で、サム・クックやマーヴィン・ゲイのようにしなやか歌うアップ・ナンバー。また、ラップ風の歌唱を披露した”Able”では、シンセサイザーのリフが印象的なビートの上で、スヌープ・ドッグのように飄々と歌ったり、ジェイムズ・ブラウンのように力を込めて歌ったりして見せるなど、コミカルな一面も見せている。ファレル自身はもともと、楽曲に応じて柔軟にスタイルを変えるタイプの歌手だが、本作ではその傾向が一層強まっているようにも思える。

だが、このように、個性豊かなゲストを起用し、本人のヴォーカルや作曲のスタイルの幅を広げても、本作での彼の音楽性は、これまでになく一貫しているように聞こえる。というのも、各曲を支えるサウンドは、ネプチューンズ時代のように、一つのシンセサイザーやドラムなどの音色を繰り返し使いながら、多種多様なトラックを生み出しているからだ。端的に言えば、ビートやメロディの組み方は多種多様だが、そのトラックを構成する音色は常に同じなので、リスナー側からすれば、統一感が取れているように聴こえるのだ。

このアルバムでは、従来のR&Bの枠に囚われない大胆なメロディやアレンジで、“Happy”のヒット以降に彼のことを知ったファンの期待に応えつつ、一つの音色からバラエティ豊かなビートを生み出すネプチューンズ時代のプロダクション技術を復活させて、コアなファンも満足させている。R&Bアーティスト、ファレル・ウィリアムズの嗅覚と技術が生半可なものではないことを裏付ける佳作だと思う。

Producer
Pharrell Williams

Track List
1. Runnin' - Pharrell Williams
2. Crave - Pharrell Williams
3. Surrender - Lalah Hathaway and Pharrell Williams
4. Mirage - Mary J. Blige
5. Able - Pharrell Williams
6. Apple - Alicia Keys and Pharrell Williams
7. Isn't This The World - Janelle Monáe
8. Crystal Clear - Pharrell Williams
9. Jalapeño - Janelle Monáe and Pharrell Williams
10. I See a Victory - Kim Burrell and Pharrell Williams